47話 もう一度、会いたかった。
周囲の景色が黒くなる。
この景色を見るのはこれで二度目だ。
そして三度目に見ることはもうないだろう。
僕は懐中時計の竜頭をもう一度押す、すると幕が上がるように木々が並ぶ景色に変化した。
僕は帰ってきたのだ。
ここが僕の元いた時代―――神龍歴1228年だ。
そしておそらく僕が過去に跳んだ時期とあまり変わらないはずだ。経過していても数日程度だろうと考えられる。
もしそうならば、キラボシはあの場所で野宿をしているはずだ。
早く向かわないといけない。
そうして一歩を踏み出すと、何かを踏み潰した感触がする。
その感触は土や石ではなく、木の枝でもなさそうだ。
足元に目を向けると黒い炭がそこら中の地面に転がっている。
ここで自分がいるのは、あの小屋が建っていた場所だと気が付いた。
この炭はあの時に燃やした小屋の残骸だ。
過去の小屋から跳んだので、当たり前と言えば当たり前のことだ。
ここが小屋の建っていた場所ならば、キラボシが野宿をしていた場所もうっすらとだが憶えている。
僕はおぼろげな記憶を頼りに走りだした。
僕は全力で走る。それこそスキルも使用して。
そしてキラボシと向かい合った状態でバッタリと会う。
改めて見たキラボシは成長していたが、所々に幼いころの名残がある。
僕からすれば別れてから一日も経っていないのだが、それでもキラボシがひどく懐かしく感じた。
僕はキラボシを見つめる。
そしてキラボシも僕を凝視する。
僕もキラボシも微動だにせず、声すらも発さずにいる。
僕とキラボシの間に数秒間の沈黙がうまれる。
「キラボシ」
まず、沈黙を破ったのは僕の方だ。
僕は後悔していることを真っすぐに謝る。
「待たせちゃって、ごめん」
僕はキラボシに謝罪した。
待たせてしまってごめんと、まるで、待ち合わせの時間に遅刻したかのような謝罪だ。
こんなので許してもらおうだなんて、1㎜も考えていない。
「本当に…………お兄ちゃんは何を考えてるの?」
キラボシから辛辣な言葉が飛んでくる。
当然だ。こんなにも待たせてしまったのだから。
「…………ごめん」
僕はさらに謝罪する。
「本当に…………何年待ったと思ってるの?」
キラボシは少し怒ったように続ける。
「七年だよ。本当に…………七年も待って…………それで…………」
キラボシの目から涙がこぼれる。
「…………聞いてよ…………お兄ちゃん…………私…………頑張ったんだよ…………魔王を倒して…………また勇者って呼ばれて、それで………………」
「キラボシ」
僕はキラボシの次の言葉を止める。
一番最初に……………………
「………………まず、ペンダントの約束を守ってくれてありがとう」
「うん…………」
次に二つ目……………………
「勇者なんて呼ばれて凄いし、兄として誇りに思うよ」
「ありがとう…………」
最後……………………
「そして改めて、こんなに―――七年も待たせてごめん。お前にもう一度、会いたかった」
そう伝えるとキラボシは僕を腕でガッチリ掴む。
そして次の瞬間、キラボシが泣きじゃくり始める。
あの時―――初めて会った時のように、そして七年前に別れた時のように、泣く。
あの忘れることなんてできない声がまた聞こえてくる。
もう一生、独りにはさせない。
僕はそう心に誓う。




