幕間 もう一度、会うために
ドラゴンスパイラルの麓に龍が降り立つ。
その龍は燃えるような赤い鱗を纏った火龍である。
火龍―――そしてその他の山頂を守護する龍は基本的に山頂から動くことはない。
なので、今回の火龍が麓まで下りてきたのは、異例中の異例である。
国々が何億もの資金、そして何万もの人員を動かしても不思議ではない―――それが今の状況である。
だが、火龍が山頂から下りたのを知っている人間は一人を除いて誰もいないので、騒ぎになることもなかった。
「一人を除いて」、この例外とされた一人とは、火龍の背に乗って山を下ってきた者のことを指す。
その者の名は「輝星」だった。
キラボシの顔には、涙が流れた跡があり、誰が見ても大泣きした後だということが一目瞭然だった。
火龍はキラボシを地面に丁寧に降ろした。
火龍からすればキラボシは自身の次の主―――龍神カケラの妹であるため、最大限の敬意を払って接している。
「人間の子よ、我はこれにて山頂へ帰る。さらばだ」
火龍は念のためにと、キラボシにそのことを報告する。
ここまで送り届けることがカケラからの頼みであり、この先は何も頼まれていない。
「………………ちょっと待って!」
キラボシは火龍を引き留める。
火龍は「なんだ?」と耳を傾ける。
「私の名前はキラボシ、人間の子なんて呼ばないで」
キラボシをとても不服そうな顔で言った。
その言葉を聞くと火龍は、一瞬キョトンとして「肝に銘じよう」とだけ返事をする。
「さらばだ。キラボシよ」
火龍はそう言って、頂上へ帰っていった。
キラボシは、麓に一人ポツンと立っている。
キラボシは、また一人となった。
だが、独りではない。
それにこれからは、暇ではないのだ。
毎日、魔族の兵と戦っていた時よりも忙しくなるだろう。
自身の尊敬する兄に迫るほどの力をつけることが当面の目標だ。
そのためには、EXスキルやユニークスキルを大量に獲得しなければならない。
それに技術だって、鍛錬し、実戦を積み、改善しなければならない。
全てはまた兄に会うための努力だ。
七年後の不可侵領域でまた兄に会うため、今のキラボシが生きる目的はそれだけだった。
そして兄とまた再開し、強くなった自分を褒めてもらうのだ。
キラボシはその後、道中の魔物を倒しながら町へと向かった。
町に着くと一直線に冒険者ギルドに向かう。
そして倒した魔物をギルドで売り、続けて依頼を受けた。
キラボシは依頼を電光石火の速度で終わらせ、路銀を稼ぐ。
路銀がある程度溜まったら、準備をして旅にでる。
旅路で技術を磨き、スキルを獲得する。
そんなことを繰り返す。
時には小さな村を魔物から守り、また別の地では小さい町を魔族から救った。
そして、キラボシは次第に昔呼ばれた称号で再び呼ばれることとなる。
「勇者キラボシ」
人々は彼女をそう呼ぶ。
キラボシも自身が強くなったことが実感でき、その呼び名に悪い気はしなかった。
そして勇者は10歳の頃―――神龍歴1223年に魔王を打ち破る。
それでも止まることなく、勇者は強くなり続ける。
人々や様々な国家が彼女を「魔王を倒した勇者」として感謝する。
だが残念なことに、キラボシにとっての欲しいものはそんな名声とは、全く別のものなのだ。
キラボシは普通ではありえない量のスキルを獲得した。
それによりシークレットアチーブメントの条件が達成される。
そしてこの世界で数えるほどしか所持していない逸脱能力を獲得するに至る。
逸脱能力【試行する努力家】
それからしばらく経ち、キラボシはドラゴンスパイラルを越えて不可侵領域に足を踏み入れる。
そこでもう一度、兄と再会する。
再開した兄は自分のことを全く知らなかった。
正直かなりのショックだったが、それでも、あの時の話が事実であればあともう少しの辛抱なのだと割り切って待った。
兄は懐中時計を使い過去へ跳ぶ、そして数分後、遠くで兄の気配が再出現する。
キラボシはその場所へ一心腐乱に走って向かった。




