45話 別れの時
「え、何で…………」
キラボシがショックを受けたような顔で聞く。
「お前はこの時代の人間だ。未来に行ってはいけない」
僕はキッパリと伝える。
「で、でも……お兄ちゃんだって、未来から来たんでしょ!」
キラボシは理由が欲しそうに必死で主張する。
「それは事故だったからだ。いいかキラボシ、時間を越えるなんて普通はありえないことだ。だからやってはいけないし、すぐに帰らないといけない」
「で、でも……………」
キラボシは何か理由を探している。
そして今、僕も同じように探している。
本心ではこのままキラボシと共にこの時代で暮らしていくための大義名分――言い訳を探している。
「ダメなんだよ。キラボシ」
僕は本心が提案する言い訳を全て蹴って、キラボシに告げる。
キラボシの目から涙がポロポロとこぼれる。
「いやッ! いやだよ!」
キラボシが涙を流しながら言う。
「ごめんな…………」
僕は上を見て、必至に涙をこらえる。
「お前を連れていくことは…………できない」
思えば、僕はキラボシに兄らしいことなんてしていない。
ただ、妹の前で恰好つけていただけだ。
僕はいい兄ではなかったのかもしれない。
とてもそう思えて仕方がない。
「…………また一人はやだよ」
その呟きに僕の心が揺らぐ…………が、仕方がないことなのだ。
僕は覚悟を決める。
僕はキラボシに言う。
「…………いいかキラボシ、よく聞け。今から七年後――新龍歴1228年の不可侵領域の中に、まだキラボシのことを知らない僕がいる」
キラボシは涙を拭いながら「うん……」と頷く。
「そこでまた僕とお前は再会する。だから…………それまで我慢してくれ」
「でもぉ…………」
もう一押しが足りない。
何かキラボシを納得させる物がないか探す、するとポケットにペンダントがあることを思い出す。
僕は服のポケットからあのペンダントを出し、そしてキラボシの手に握らせる。
「じゃあ、僕から――いや、お兄ちゃんからの頼みごとだ。このペンダントをお前に貸しておく。また会ったときに返すんだ―――いいね?」
「…………わかった」
キラボシを説得した僕は背中に翼を生やす。
「火龍さん、キラボシを麓に送ってください」
そう告げると、火龍さんは少し間を置いて「…………承知いたしました」と言う。
火龍さんにキラボシを頼むと、僕は不可侵領域に向かって飛び立つ。
「うわぁぁぁぁぁん!」
最後にキラボシの泣き叫ぶ声が僕の耳に届いた。
僕は未来でまたキラボシと会うことを心に誓った。




