43話 権能の運用方法
剣で斬りかかり、剣で斬りかかられ、剣で防ぎ、剣で防がれる。
そんな攻防が続いている。
僕の剣技はイグニスから再現した剣技なのだから、剣技の技量も同じで、当然と言えば当然なのだ。
その攻防の途中、イグニスは魔法であろう火球を放ってくる。
僕はその火球を避けない。避けられないのではない。全然余裕で避けられる。
が、わざと当たる。
理由は簡単、耐性が欲しい。ただそれだけだ。
この世界でわざと攻撃に当たる理由なんて、これしかない。
僕は耐性がなくとも、痛くも痒くもない――――いや、少し痒いかもしれないが、それだけだ。
〈熟練度が一定値に達しました。EXスキル【火属性耐性】を獲得しました〉
〈熟練度が一定値に達しました。EXスキル【魔法耐性】を獲得しました〉
やっと獲得した。
このアナウンスも聞くのは久しぶりだ。
さて、耐性も獲得できたことだし、もう火球を受ける理由は無い。
僕は接近して龍剣を振るう。
接近している時に数発火球を受けたが、今度こそ痛くも痒くもない。
イグニスは急いで、剣を受ける。
「少しは効いている。と、考えたのですが………………効果は無かったようですね」
「残念だったな」
こうして、また剣の攻防に戻るかと思われたが………………
突如、イグニスの身体が発火する。
何の前触れもなく、突然だった。
現在進行形で燃えている本人のイグニスは平然としている。
「効かないのなら、火力を上げます」
イグニスの火はそのまま、魔剣へと伝わっていき、ただでさえ燃えていた魔剣はまるで刀身が燃える炎そのものであるかのよう変化していく。
ついさっき【火属性耐性】を獲得したと言うのに、まるでサウナのように暑く感じる。
何で火球が効かなかったら、火力を上げようという発想に至るのか、理解できない。
別の属性に変えたりするだろう、普通。
『どうしましょう。火龍さん』
『まずは相手のスキルを調べてみてはどうです?』
グッジョブ、火龍さん!
僕は『解析』を使い、原因のスキルを探し当てた。
~結果~
|ユニークスキル【燃焼】
|機能
|火炎無効、身体燃焼
『身体燃焼』この機能だ。
この機能はどうやら、自分の肉体を燃やすことができるらしい。
だから、いきなり燃え出して、火力が上がったのだ。
この機能だけなら、すぐに燃え尽きてしまうが、もう一つの機能、『火炎無効』で燃え尽きることなく燃え続けることができる。
つまりあの火は消えることはない。
『どうしたものか………………』
『龍神様、ずっと疑問だったのですが――何故、権能を使わないのですか?』
剣となった火龍が聞いてくる。
『僕が使える権能は『神格覇気』と『龍の武器化』だけだからなぁ~』
『では、魔法の類は使えないのですか?』
『使えるよ』
魔法は使える。『風魔法』と『影魔法』だ。
だが、イグニスに効くとは思えない。
『風魔法』はイグニスから放たれている熱風で打ち消さられる。
『影魔法』は周囲が火で照らされ明るくて使えない。
『『竜吐息』も効果がなさそうだしな~』
まさに、打つ手無し!
そんなときに火龍はまたもや提案をしてきた。
『スキルと権能を合わせて使えばいいのではないでしょうか?』
スキルと権能を合わせる?
それについて火龍に聞くと…………
『スキルと権能を合わせて使うというのは、龍神――ハザデス様が実践していたことで、正確に言えばスキルを権能で強化するといった感じです』
グッジョブ、火龍さん!
ハザデスさんがやっていたのなら、かなりの信憑性がある。
早速、僕は権能でスキルの強化を試みる。
やり方は火龍さんを剣にした時と同じように願い続ける。
実際の権能の使い方とは違うだろうが、この方法しか使えないので仕方がない。
ただ一つのスキルを強化することを願い続け、それが叶う瞬間はすぐにやってきた。
僕が強化を望んだスキルは、僕の持つスキルで唯一イグニスに効果がありそうなスキル――【斥力】だ。
元の力場は精々、打撃程度の力しか出せなかったが、強化すればきっと相手を数メートルほど飛ばすこともできるようになると考えた。
とくと見よ、イグニス!
僕はイグニスに向かって強化された【斥力】を使用する。
力場の向きは吹き飛ばすかのような感じで操作する。
イグニスは力場によって飛ばされる。
僕の予想は数メートルほどだったが、結果は十数メートルほどと予想が少し外れてしまった。
まるで火球が飛んでいるような光景だ。
イグニスは飛ばされても受け身を取り、体制を立て直している。
やはりこれは有効なようだ。
僕は向かってくるイグニスに向けてもう一度【斥力】を使用する。
イグニスはまたもや飛ばされる。
今度は警戒して接近してこない。
僕は【斥力】を自分に使い、イグニスに接近する。
まるで音のように速く動く。実際に音より速い。
その速さで剣を振る。
イグニスは感覚か経験からか、間一髪急所を避けることができたが、完全に避けることができず、左腕の手首が斬れてしまっている。
少し申し訳ないが、容赦はしない。
僕は【斥力】でイグニスを地面に押し付ける。
「まさか、ここまでだとは…………」
イグニスは地面に突っ伏しながら言っている。
「イグニス…………えっと…………そうだな…………最後に言い残すことはあるか?」
『何でそんなことを聞くのですか?』
火龍の反応から、この定番はこの世界にないことがわかった。
「最後に言い残すこと? 何故そんなことを聞くのです?」
イグニスは不思議そうに聞き返す。
「いいから、遺言は?」
「遺言か…………」
イグニスは少し考えると、自身の持つ魔剣の剣先を僕に向け、笑いながら言った。
「私は魔王軍だ。龍神よ、憶えておけ!」
僕はそれを聞き終えると龍剣で首を斬り落とした。
「言われなくても忘れないよ…………」
僕は遺言の返事のように呟いた。




