41話 VSイグニス・アルデンス
頂上を遠目から観察していて分かったことがある。
今は絶賛、戦闘の最中のようだ。
戦っているのはおそらくこの山頂の火龍と角の生えている人だった。多分人間ではなく魔族とかそこら辺の種族だろう。
戦いを見ていて疑問な部分がある。火龍、お前ちゃんと攻撃しろよ!
火龍はさっきから爪を振り下ろしたり噛みつこうとしているが、ことごとく避けられている。しかも、攻撃を避けられていない。攻撃は当たらず、攻撃に当たり続ける。
竜吐息でも撃てばいいのに、何故撃たないのか?
いっそのこと乱入してやろうか? と考えてしまう…………いや、乱入してしまおう。このままだと見ていられない。
「キラボシ、ちょっと乱入して来るから待っていてくれ」
背に乗るキラボシをスキルで隠す。
「え? 乱入ってあの戦いに?」
「あぁ、守るけど念のために警戒しておいてくれ」
早速、竜吐息を溜め始める。
いつかこれも簡単に撃てるようにしたいものだ。例えば手からレーザーみたいに撃ったり、連発したり、権能で出来るといいのだが…………
そんな小さな夢を考えていると竜吐息の溜めが終わる。狙うはあの魔族だ。
僕は久々の竜吐息を魔族に向けて撃つ。竜吐息は魔族に命中した。火龍も突然の横槍に驚いてこっちを見てくる。
僕はその火龍の目の前に下りる。
「初めまして火龍、僕は…………」
僕が火龍に言い訳を言おうとすると、それよりも早くこう言った。
「あなたは…………龍神様ですね!」
「いや、僕はハザデスさんではなくてですね…………」
誤解を解こうとすると、またもや火龍が言う。
「あなたがハザデス様でないことは分かります」
「じゃあ何で僕が龍神だと?」
「我の持つ龍神の加護が反応しましたので…………」
そう言えば、そんなスキルを地龍や水龍も持っていた。
「なら話は早い、君には言いたいことがある」
「はい!」
「まず、ちゃんと攻撃をしなさい!」
「申し訳ありません。ですがあの魔族……イグニス・アルデンスと言うのですが、我の攻撃手段である火属性や熱の攻撃が効かないのです。なので慣れない引っかきや噛みつきを使っていたのですが…………面目ありません」
ちゃんとした理由があったようだ。さっきまでの自分が申し訳なく感じる。
ここで嫌な予感がしてきた。熱が効かないということは僕の竜吐息もあまり効いていないのではないか? 僕はイグニスの方を見る。
「あぁ~ びっくりした~」
イグニスはただ驚かされたかのようにピンピンしている…………いや、彼にとっては本当に驚かされただけなのだろう。
僕は人の姿になり、イグニスに向かって警告をする。
「おい、イグニスとやら! 今、引き返すのなら命だけは勘弁してやるぞ!」
『お願い、帰ってくれ……』
僕は心の中で強く願う。
「それは無理な提案です」
僕の心の中での願いは叶わなかったようで、イグニスは僕の提案を蹴り、剣を構えている。
その剣は燃えており、明らかに特別な剣だった。
僕はその剣が気になり、解析を使った。
~結果~
|魔剣イグニス
|属性:火
ほらね、魔剣なんて言う特別な剣だった。しかも持ち主と名前が同じ。もしも自分から名付けたのなら恥ずかしい剣だ。
イグニスは魔剣を構え僕に切りかかり、僕はその魔剣をギリギリで避ける。イグニスの動きはキラボシのようで、おそらく剣術を使ってくる。そのせいか避けるので精一杯だ。
こちらにも武器があれば魔剣を受けることができるのだが僕は武器を持っていない。持っているのは空間収納にしまってあるナイフくらいだが、こんなナイフでは魔剣どころか鉄の剣でも受けられるか怪しい。あの魔剣が普通の鉄の剣であれば、手で受け止めることができたというのに……
『武器が欲しい、武器が欲しい、武器が欲しい、何でもいいから武器が欲しい』
心の中でそう願っていると、僕の持つ龍神の権能が反応する。
龍神の権能は僕の願いに答えるかのように権能を構築する。
その新たに構築された権能は不思議と使い方が理解できた。
僕は早速、権能を使うため後退し火龍に話しかける。
「火龍、協力してもらうぞ。ちなみに拒否権は無い」
「えっ? は…はい、分かりました」
僕は火龍に触れ権能を発動する。
火龍は眩く光り、その巨体は段々と小さくなっていく。そしてある程度小さくなったら、それは僕の手の中に収まっていた。
変化が終わり僕の手に残っていたのは一本の赤い剣だった。




