39話 僕の悩み
朝、起きる。
今日もいつも通りキラボシが先に起きていると思ったが、僕が先のようだ。
キラボシはまだぐっすりと眠っている。昨日は疲れたのだろう。
僕は考える。
やはりキラボシに伝えるべきだろうか。僕は自分が未来からやって来たことを伝えるか迷っている。
少し前にも考えたが、タイムパラドックスの心配もある。
それに何より、キラボシがかわいそうだ。
今まで辛かっただろうに、僕がいなくなると知ったらどんなことを思うだろうか?
案外キラボシなら大丈夫かもしれないなんて考える。
キラボシは強い、物理的にかなり強い、だが精神的にはどうだろう?
キラボシはまだ8歳の子供、日本なら小学生の低学年くらいだ。
キラボシは年齢の割にしっかりしている。僕より早く起きているのがいい例だ。
まぁ、僕の起きる時間が遅すぎるだけかもしれないが今は置いておくとしよう。
キラボシが泣いてる所を見たのはノルディック王国から逃げたときだけだった。
それ以降キラボシはいつもニコニコと笑顔で笑っている。
『キラボシは僕が居なくなると知ったら泣くかな…………それとも笑顔で送り出してくれるかな』
いくら伝えることを先延ばしにしても絶対に言わないといけないときはきてしまう。それもあと数日でくる。
ふと、このまま帰らなければいいのではないか、とまた考えてしまう。でも答えは帰らなければならないのままで変わりない。
未来に未練はないが、この時間にとって僕は異物なのだから。
僕が悩んでいると、キラボシが起き上がる。
「おはよう、お兄ちゃん」
「あぁ、おはよう、キラボシ」
「お兄ちゃん、今日はお兄ちゃんの言ってた目的地に行くんだよね?」
「そうだよ」
悲しくなってきた。僕は涙をこらえる。
『キラボシよりも僕の方が弱いじゃないか……』
僕は今でこそ龍神だが、精神は高校生のまま、それにこの世界に生まれて一年も経っていない。一ヶ月経っているかどうかで、キラボシの方が大人だ。
「キラボシ、朝食を食べよう」
僕は空間収納から昨日の晩に作っておいた朝食を取り出し、キラボシに渡す。
「「いただきます」」
僕とキラボシは朝食をとる。
キラボシは相変わらず美味しそうに食べるが、僕は味が感じなかった。
『本当に味がないみたいだな…………』
よく物語で食べ物の味がしないという場面を読んできたが、自分が体験するなんて考えなかった。
僕はその朝食を食べながらキラボシに言う。
「キラボシ、これを食べ終わったら早速出発するぞ」
キラボシがコクリと頷いた。
朝食を食べ終わってから僕は龍の姿になり、キラボシを背に乗せる。
そして大きな翼を羽ばたかせ、空へ向かって飛ぶ。
「わぁーい! 楽しい♪ 高~い! 速~い!」
キラボシが前に言ったことをまた言っている。そんなに空を飛ぶのは楽しいことなのだろうか?
「……………やっぱりこれ、好きだなぁ」
キラボシが呟く。
僕は聞こえないふりをしてそのまま空を飛び続ける。
しばらく飛んでいるとドラゴンスパイラルが見えてくる。越えるには山頂を通らないといけないが、頂上の龍は無視するつもりだ。
僕は山頂を龍神眼で確認する。するとそこには予想外なことに龍の他に誰かがいるのが見える。
僕は少し嫌な予感がしてきた。




