幕間 罪人と龍
~神龍歴1213年~
ある国にて、小さな村の平凡な家庭に一人の女の子が生まれた。
女の子は生まれつき希少なユニークスキルを持っていた。
そのユニークスキルは【勇者】、そんな珍しい女の子は自分が珍しいとは知らず、すくすくと成長していった。
~神龍歴1218年~
ある日、その女の子の生まれ育った村は魔王によって滅ぼされた。
女の子は故郷の村や親、友人、全てを一度に全て失ってしまった。
女の子は魔王を憎んだ。
その時だった。
女の子の持つユニークスキル【勇者】が無意識に発動した。
女の子は【勇者】の身体強化の機能と近くに落ちていた薪を割るための斧を持ち、故郷を滅ぼした魔族の兵に立ち向かっていった。
女の子は計12名の魔王軍の兵士を殺した。
12名、その数字は、大した数ではないように聞こえるが、五歳の子供がやったとなればかなりの量だ。
その後、国から来た兵士が女の子を保護し国へ連れていった。
女の子は保護されてからすぐに強さを見込まれ、勇者として魔王軍との戦いに投入された。
魔王軍との戦争は五歳の子供には辛いものだった。
それでも女の子は戦った。
魔王への憎しみだけを心に宿して。
~神龍歴1221年~
少女は8歳の頃、失敗した。
魔王軍との無理な戦闘を継続し、結果的に国は大きな損害を負ってしまった。
国は勇者を罪人に認定し、すぐに処刑を決定した。
『疲れた』
少女は精神的に疲れていた。
3年間一心不乱に戦い続けたのだ。
大人だったとしても疲れるので無理はない。
もう殺した魔族の人数だって覚えていないほどだった。
『私は何のために…………』
少女は自分が何のために戦っていたのか分からなくなっていた。
そして処刑当日、人々は闘技場の中央にいる少女に罵声を浴びせていた。
『私、死ぬのか………………』
少女がそう思った直後の出来事だった。
突如、何かの大きな影が地面にうつった。
人々は直ぐにその持ち主を見つけることができた。
龍が闘技場に現れたのだ。
龍は周りを一瞥すると少女の方を向き、その巨大な手で少女を持ち、そのまま空の彼方へ飛び去って行った。
龍は国の首都から遠く離れた森に着陸すると、少女をゆっくり降ろし、そして体を龍から人に変化させ、少女の前に立ちました。
普通の者ならば龍が人の形をとったことに驚くだろうが、少女にとってそのことは重要ではなかった。
今、少女が分からないことはたった一つだけだった。
「おい、大丈夫か?」
龍だった者が少女に聞きました。
少女はその問に答えるわけでもなく、ただ自身の頭の中の疑問の答えを知るために質問をした。
「何で助けたの?」
少女は自分なんかを助ける価値などないと考えていた。
なのにどうしてこの人は自身を助けたのか、それが知りたかっただけだった。
『この人もどうせ私の力が欲しいのだろう』
そう少女は考えていた。
「可哀相って思ったからだよ」
耳に入ってきた言葉は予想外の言葉だった。
それは少女が久しく向けられた同情の言葉。
少女は勇者になってから同情など向けられたことなど無かった。
最後に人々から言われた言葉など全て自分を非難するものだった。
だが、この人は少女に可哀相と思ったのだ。
少女はその言葉が嬉しかった。
少女の目から自然と涙がこぼれる。
抑えていた感情が爆発したように泣きだす。
そんな少女に男は尚も言葉をかける。
「頑張ったね。もう大丈夫だよ」
少女はそんな言葉、言われたことなどなかった。
少女――「キラボシ」は、その言葉を聞きながら今までの分を取り返すように泣くのだった。




