96話 龍神の信仰
「さぁ! 今年もやってまいりました!」
ダクトが言う。
「何が?」
カケラが問う。
「カケラ君、知らないのですか?」
シリスは不思議そうに問う。
「知らないよ。で、何があるの?」
カケラが答えを急かす。
「今日から神龍誕生のお祭りがあるのですよ」
その答えを聞いて、カケラは少し冷や汗をかく。
『つまり、ハザデスさんの誕生日祭りか………………』
カケラの脳裏にハザデスの顔が思い浮かべる。
「お祭りなので、また屋台も多く出店されますよ!」
ダクトが付け足す。
謎にテンションが高い。
「屋台か………………少し前にも食べたような気がするけど」
カケラが呟く。
「二月前の闘技大会では?」
シリスが言う。
「あぁ~、それだ」
カケラが納得する。
闘技大会から二月、カケラにしてみれば、あっという間であった。
その間、特に何も無し。
夢の中で地獄のような場所へ行くことも無く、現実で大きい事件があるわけではない。
ただただ、学業だった。
「楽しみですね!」
「あぁ、うん、楽しみだなー」
カケラは棒読みで返した。
「以上で今日の授業を終わるぞ」
壇上に立つ、ドクタス先生が授業の終わり際に言う。
教室では、一部の者がやっとか、という風に体を伸ばす。
その時、教室の扉が開かれ、人が入ってくる。
「失礼、もう授業は終わっていますかな」
学園長だ。
「えぇ、もう終わるところですが、何か?」
ドクタスが学園長に問う。
「いえ、一つお話がありまして………………」
そう聞くと、ドクタス先生は壇上を譲り、全体に聞くように言う。
「皆さん、お久しぶりです。学園生活には慣れたでしょうか?」
一部を除いて頷く。
「そうですか、それは良かった」
学園長は笑顔で言う。
「今日皆さんには、とあるお願いごとがあり、来たのです」
学園長は本題に入った。
「皆さん、今日からある神龍祭は知っていますね? 龍神様の誕生日を祝い、感謝の祈りを捧げる大切な日です。二日後には式典も予定されています。現在予定通りに開催されることになっているのですが………………」
そこで学園長は口ごもるが、皆に伝える。
「警備の数が足りないため、学園から優秀な生徒を派遣できないかと、国から要請を受けまして、皆さんに頼めないかと………………」
学園長は、申し訳なさそうに言う。
「学園長、質問よろしいでしょうか?」
シリスが手を挙げる。
「はい、何でしょう?」
「この国の軍ならば、十分な人数が用意できるはずですが、一体何故人手不足になったのですか?」
シリスは自身の手持ちの情報が食い違っていることから質問する。
「詳しくは聞けませんでしたが、何でも別件で軍の人員を割かれているそうです」
学園長は答える。
「なるほど、ありがとうございます」
そう言って、シリスは腰かけた。
「はい! 私も質問です!」
次に手を挙げたのは、サーチェだ。
サーチェは立ち上がり、質問する。
「何故学園へ要請を? 警備ならば冒険者ギルドなどからでもいいのではないですか?」
「それについてですが、どうやらギルドにも要請しているそうです」
学園長が答える。
「当日、何も無ければ担当区域で祭りを楽しんでいてかまいませんが、何か起こった時にのみ動くという形になるので、兎に角人手がいるのでしょう」
「なるほど、ありがとうございます」
そう納得し、サーチェは座った。
「皆さん、どうか慈善活動だと思って、協力をお願いします」
学園長が頭を下げて、頼みこむ。
「別にいいんじゃないか?」
一人の生徒が隣の生徒に話す。
「あぁ、面倒だけど、神龍生誕祭だからな~」
他の生徒も同調する。
「普通にお祭り楽しめるなら別にいいんじゃない?」
教室からは意外に賛同の声が出た。
カケラの予想では、ここまでの皆が賛同するとは思っていなかった。
国家規模の宗教とは、凄いものだと痛感する。
「皆さん、無理を聞いていただき、感謝します」
学園長は、また頭を下げた。
学園長の説明が終わる。
「以上が明日着いて欲しい配置です。その周辺にいれば問題ありませんので、屋台で買い食いしてもいいです」
冗談めかして言う。
「それでは皆さん、頼みました」
学園長は最後にもう一度頭を下げ、教室を出ていった。
これにて授業も終わり、各々が席を立つ。
「皆で仲良く回ることは、できなさそうですね」
ダクトが不満ありげに言う。
「仕方ありません。これも善行だと思って頑張りましょう」
シリスが諭す。
そんな中、カケラは学園長の伝えた配置を考える。
ソクラテスに配置を見やすいよう地図と合わせて、脳内に表示しているのだ。
『この配置………………ほぼ外周じゃないか?』
学生の警備の配置は、輪のように広がっている。
中心付近には誰も置かれていない。
『中心でイベントを行う場合、国の正式な兵が警備を務めるため、消去法でこの配置になった可能性があります』
ソクラテスが補足を入れる。
『そうか………………そうか?』
カケラは納得するが、どこか違和感があった。
配置は凡そに方位で分けるとこうなる。
北側、カケラ、ブラード、ガーブ、ダクト、トレイ。
東側、ハウサ、ラピス、マグ、ポーレン、イロハ。
西側、キラボシ、サーチェ、ブルシュー、ウォー、メラ。
南側、シナル、サーカ、シリス、メディカ、エイダ。
カケラには、残念なことにダクトとは、それなりに離れた配置なので、一緒に回ることはできないだろう。
この区域で一緒に回れそうな者と言えば………………
『ガーブか~』
あのガーブだった。
カケラは前世からあまり性格の合わないクラスメイトだ。
共に祭を楽しむなどもっての外でできれば会話すらしたくない相手だ。
しかも彼は反龍神国家から留学して来ているそうで、宗教的にも相性が悪い。
カケラが一人で祭を回ることが決定した。
カケラは暗い表情で席を立った。
「はい、チョット待って」
突如肩を掴まれ、引き留められる。
カケラが振り返ってみれば、そこにはキラボシがいた。
「用事があるから、黙って付いて来て」
有無を言わさず、キラボシは命令する。
カケラは何も聞かずに付いて行った。
たどり着いた場所は、学校の敷地内にある訓練場の奥の林の中だった。
「で、何の用だ?」
「実は今回の神龍生誕祭のことでね。私の予想だと何かあると思うんだ」
キラボシは推測を語る。
「根拠だけど、軍が出払ってる理由かな。耳に挟んだ話だと、とある調査に向かってるらしいんだ」
「調査って何の?」
カケラが質問する。
「さぁ? そこまでは知らないよ。でも、軍が人手不足になるほどの規模だし、龍神生誕祭でも中止されないから、それくらい大事だってことだよ」
「確かに………………」
そこまで話した時、キラボシは何かを思い出したように話を変える。
「そう言えば、お兄ちゃんって龍神だよね。ということは、実際には旧龍神生誕祭ってことか」
からかうようにキラボシが言う。
「やめてくれ、少し気にするから」
カケラは嫌がる。
「解ったよ。話を戻そうか。結論を言えば、明日辺りに大規模なテロでも起こるんじゃないかと考えてる」
バッサリと言った。
それは大事であり、国へ進言しなければいけない仮説だろう。
それこそ祭を中止すべきだ。
「あれ? じゃあ何でお祭りを開くんだ?」
カケラは疑問に思う。
国もテロの懸念はあるはずだ。
ならば単純に中止にすればいい。
その方がずっと安全だ。
「その答えは、一番簡単だよ」
キラボシが答える。
「皆、龍神ハザデスを崇めて、感謝するから。そのためなら自分たちは焼かれても信仰し続ける」
「そんなものか?」
「そんなものだよ」
キラボシが言い切る。
「私もこのお祭り毎年楽しんでいるし。尤も私が信仰する龍神は、お兄ちゃんだけだけどね」
そう言って、笑顔になる。
「それじゃあ、お互い警備頑張ろうか。バイバイ」
そう言って、去っていった。




