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夢見た自由は遠すぎて  作者: 沢木キョウ
第二章 崩壊の後
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第三十六話 ツッコミは難しい


「わかってたのかよ……どこから?」


「お前のニオイを嗅いでからだ。あれはイジメられる側のニオイだったからな。お前がイジメの犯人だとは考えられん」


「うわっ」


 変態的なまでの一ノ瀬(いちのせ)さんの嗅覚の鋭さに、オレは思わず顔をしかめる。

 

 オレが犯人じゃないって気づいてたんなら、さっさと言ってほしかった。心配損だ。


「なに言ってるのさ、一ノ瀬(いちのせ)さん。カエデ君はイジメられるような人じゃないよ」


 一ノ瀬(いちのせ)さんによるオレの解析結果に、伊波(いなみ)さんは口を尖らせて不満げに異議を申し立てる。


 実際に机の中にティッシュを入れられるという、ただのイタズラのような、イジメっぽいことをされたから、今回は一ノ瀬(いちのせ)さんの方が当たっているといえるだろう。


 一ノ瀬(いちのせ)さんは伊波(いなみ)さんの不満そうな表情を宥めるように彼女の頭を撫でながら「ごめんごめん」と慈母の笑みを浮かべる。


 ―――――伊波(いなみ)さんにだけ妙に優しいのはなぜなんだ。

 

 ラクには厳しい一方で、伊波(いなみ)さんには優しい。

 今の親子のような二人を見て、ラクは大きく口を開けて眉間に皺を寄せている。あの顔はオレと全く同じ感想を抱いているということなのだろう。

 

 一ノ瀬(いちのせ)さんは伊波(いなみ)さんによしよししながら視線だけをオレの方に向けてきて、


「じゃあ、なんでお前がイジメの犯人みたいなメールが来てるんだ?」


「それが今回の作戦会議の内容だよ」


 やっと本題に入ることができる。とオレは若干呆れ気味に答える。

 一ノ瀬(いちのせ)さんは伊波(いなみ)さんから手を離し、座っている椅子の背もたれに体を預けて後頭部で手を組む。

 

「そういうことなら、先に言えよー」


「言う暇もないくらい勝手にクラス代表が悪いって言ったのはどこの誰だよ」


「ほんとにな!」


「いやお前だよ」


「んぁ“?」


「なんでもないです」


 軽快なトーク合戦を楽しんでいたが、それは一ノ瀬(いちのせ)さんの一睨みで終わりを迎える。

 普通に会話するときでさえ、なぜこんなにも緊張しなければならないのだろうか。


 一ノ瀬(いちのせ)さん自身はそれを気にも留めていない様子で話を続ける。


「しっかし、なぜこんなことをするヤツがいるんだ? ありもしない出鱈目でっちあげて」


「さあな。だからこそ、この件は難しい」


「なるほどな……」


 かなり遠回りをしてしまったが、おかげで一ノ瀬(いちのせ)さんに話の趣旨が伝わったようだ。

 

「本当に謎だよなー。別にカエデは誰かから恨みを買うようなヤツにも見えない。犯人の動機は不明。もちろん正体も不明。本当にイジメがあるのかもわからない。とまあ、こんな状況か」


 一ノ瀬(いちのせ)さんに理解してもらうため、ラクが今回の件を簡潔にまとめる。


 しかし、こう改めて状況を聞くと、オレたちが解決しようとしている問題って、かなりの迷宮では?

 わかっていることはなにもなく、当事者であるはずのオレでさえ心当たりが全くない。

 この作戦会議の意味が本当にあるのかどうかも疑問に思えてくる。

 本物の探偵とかに頼んだ方がいいレベルだろ、これ。


 でもオレたちにできることはやろう。

 この、「一年四組 クラス代表イジメ加担疑惑メール」の全ての真相は明らかにできなくても、クラスで発生している違和感くらいはつかめるはずだ。


 これから協力して何かいい案はないかと模索するタイミングで、一ノ瀬さんは目を細めて眼力を強めてラクを睨みつける。


「やけに詳しいな。他のクラスのくせに」


 一ノ瀬(いちのせ)さんがラクに言ったのは、他のクラスなのに、なぜか彼は四組に詳しいということ。

 確かに、ラクは関係ない、いわば部外者なのに知りすぎだと言いたい気持ちもわかるが、こいつはおそらく打算の欠片も持ち合わせていないだろう。

 一ノ瀬(いちのせ)さんが危惧しているとおり、―――今回の件……実はラクが黒幕でした!

 とかいう、トンデモ展開になれば面白いが、そんなことにはならなさそうだ。


 だってラクだもん。


「それは……昨日メールが送られてきたとき、こいつらと一緒にいたんだよ。あと、さっき廊下で騒いでるやつがいたから、今の四組の状態がどんなことになってるかも多少知ってるって、こ・と」


 最初はたじろぎながらも、後半は語調を回復させて話すラク。

 指を左右に振りながらウインクを決めるが、一ノ瀬(いちのせ)さんは無反応で眼光鋭く睨みつけたまま。


「ノーリアクションかい! それに二人もツッコんでくれないの?」


「カ、カワイカッタヨー」「まあ、その、ドンマイ」


「棒読みやめてよ! あと、俺がスベったみたいになったらとりあえずドンマイっていうのやめない??」


 どうやって声をかければいいのか、わからないもんは仕方ないだろ。

 ラクだって、オレがウインクしてたらどうツッコむんだよ。大爆笑するだけじゃないのか?


 お笑い芸人のツッコミの人ってすごいなと感心しつつ、ひとつため息。


 スベったような気まずい空気が頬をかすめ取ったとき、伊波(いなみ)さんが現状をさらに話す。


「あの変なのは置いといて……実は、今日の昼に小芽生(こがやおい)さんと夢乃(ゆめの)君と少し話しててね。それで一応、あの二人にはクラスメイトへの聞き込みを頼んでるの」


「もう動いてはいるんだな」


「うん! メールを送ったり、直接聞いたり、いろいろやってもらってるの!」


「いいじゃねーか。あの二人ならちゃんとこなせそうだし……―――そこまでフェーズが進行しているなら、この会議はなにを話すためのものなんだ?」


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