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夢見た自由は遠すぎて  作者: 沢木キョウ
第二章 崩壊の後
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第三十三話 第二回 真・作戦会議 


「じゃあ、改めて…………」


 伊波(いなみ)さんが両手の平を目の前でパチンとタッチして、話の切り替えに入る。

 

「第二回、一ノ瀬(いちのせ)さんを含めた作戦会議を始めよっか!」


 先ほどまで教室で寝ていた一ノ瀬(いちのせ)さんを交えての作戦会議のスタートだ。

 この教室に残っていた、そもそもの目的は伊波(いなみ)さんと二人で作戦会議をすることだったが、気づけば二人も参加者が増えており、いい話し合いができそうだ。

 それに、二人だけなのに作戦会議っていうのも味気なかったしな。


 ラクとオレは準備万端で各々返事をする。が、一人だけ用意できていない人がいた。


「あー…………完全にこれから話し合いする流れになっているところ申し訳ないんだが、結局、何について話し合うんだ?」


 ここでようやく他の三人は一ノ瀬(いちのせ)さんにまだ事情を説明していなかったことを思い出す。

 頬をかきながら申し訳なさそうに聞いてくる一ノ瀬(いちのせ)さんに、他の三人もつい気まずくなって苦笑い。

 伊波(いなみ)さんは、今度は謝罪の意を込めて顔の前に両手を合わせる。


「ごめんね一ノ瀬(いちのせ)さん! 失念してた!」


「全然いいって、途中から飛び入り参加した方も大概だしな」


 寝起きでフラフラしながら鋭い目つきを向けてきていた一ノ瀬(いちのせ)さんから一転。今度は親しみやすそうな微笑みで、謝っている伊波(いなみ)さんに優しさを向けている。

 もしかすると、寝起きタイミングは機嫌が悪くなるタイプなのだろうか。本来の彼女はもう少し関わりやすいのかもしれないな。


 オレが一ノ瀬(いちのせ)さんへの認識を改めようとしていたところで、ラクが明るい口調で話す。


「悪かったな、一ノ瀬(いちのせ)。ちなみに俺は気にしてないから全然いいぜ。みんなで話した方が効率もいいだろうしな。ほら! 三人寄れば文殊の知恵! 四人寄ればお天道様もびっくりっていうだろ?」


「あ“あ”ぁ“? なに喋ってんだ、カス。殺すぞ…………」


「だからなんで俺にだけ辛辣なんですかー?? ちょっとしたジョークなのに!? 場を和ませようとすることさえ俺には許されないんですか? そうですか、あー、そうですよね! さっき伊波(いなみ)とは普通に話していたから俺も行けると思ったんだけどな……」


 ムードメーカーラクはツッコミ待ちのようなボケを挟むが、一ノ瀬(いちのせ)さんのツッコミは、ラクの顔面を勢いよくぶったたいたかのように強烈だ。

 ラクに対しては効果抜群のようで、彼は眉間に皺を寄せながらも思わず笑みをこぼしている。


 ラクへの対応でわかった。

 一ノ瀬(いちのせ)さんは寝起きかどうかで機嫌が変わるのではなく、ラクがいたからキレていたのだと。しかし、こうなってしまったのは仕方ない。なぜなら、ラクが最初に一ノ瀬(いちのせ)さんの睡眠を邪魔したのが悪いからだ。

 第一印象の重要さは自己紹介イベントを見ていればよくわかる。

 その第一歩目が最悪だったせいで、それからの印象は悪いまま。そんな状況から好転させるのは至難の業だ。

 なので、おそらくもうしばらくは一ノ瀬(いちのせ)さんとラクの関係はこのままだろう。


「どんまい、ラク」


「カエデ…………心の友よー!! ……ふがっ!」


 これからのラクの苦悩を想像して、思わず出た慰めの一言。しかし、それを言ってしまったせいで、ラクは涙目で大喜び。椅子を立ってオレの顔面目掛けて踊りかかってきた。

 オレはラクの顔面を押しのけてそれを拒否。

 可愛い女子に抱きつかれるならまだしも、昨日あったばかりの男子だ。

 オレにそういう趣味はない。


伊波(いなみ)さん、説明任せていいか?」


「おっけー!」


 オレはラクの顔面を抑えながら、伊波(いなみ)さんに一ノ瀬さんへの説明を促す。

 すると伊波(いなみ)さんは仕事を任されたことが嬉しかったのか、唇を横に伸ばして元気よく返事をする。


「じゃあ説明を始めるね!」


「悪いな。頼む」


「えーっとね、昨日の帰りにメールが送られてきたの。私たちはそのとき、たまたまこの三人で一緒にいて、カエデ君と私のところには来てたけど、別のクラスのラクのところには来てなかったの」


「つまりは、一年四組の人にだけメールが送られたということか」


「そうそう! で、肝心のメールの内容なんだけど……多分これは一ノ瀬(いちのせ)さんのところにも届いてるはずだから、今、メール開いてみて。その方が多分、説明も早いから」


 一ノ瀬(いちのせ)さんは「わかった」と言って頷き、スマホを取り出した。

 しかし、その手つきから、彼女はスマホの扱いに慣れていないことがわかる。


「えーと、これをこうして……わかんねぇ……すまん伊波(いなみ)、どこからメールを開くのか教えてくれ」


 一ノ瀬(いちのせ)さんは高齢の方のような手さばきでスマホの画面を操作している。

 最近の若者にしては珍しい遅さ。


 伊波(いなみ)さんは一ノ瀬(いちのせ)さんのヘルプのため、椅子から立ち上がって一ノ瀬(いちのせ)さんに操作の仕方を教える。

 その姿はまさに、現代技術に追いついていない老人に孫が優しく教えてあげている構図そのものだ。

 

 しかし、メールの開き方も知らないのに、よくここまで何不自由なく過ごせたものだな。先生の話を聞いているかもわからないし、この前の生徒会則は、たまたまオレのような学食常連客だったということなのだろうか。


「このアプリから学校のことについて、いろいろ見ることができるんだよ」


「へえー、すごいなこのアプリ。見やすい……あっ! ここに送られてるのがメールか!どれどれ……」


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