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夢見た自由は遠すぎて  作者: 沢木キョウ
第二章 崩壊の後
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第二十話 教室に残る頭脳


 ―――――作戦を決めた日の授業終わり。


 天賦(てんぷ)君による進展のない演説は帰りのホームルーム前にも行われており、クラスメイトはオレ含めて、そのすべてを流していた。ところどころで小声で話すような音が聞こえてくる。

 持論ばかりを展開する彼の言葉には、クラス一丸になろうという意欲が見受けられず、ずっと独りよがりだ。


「このあとさ、教室に少し残らない?」


 彼の独善的な話が繰り広げられる中、そっと聞いてきたのは伊波(いなみ)さんだ。


 入学式メンツの作戦会議の後、夢乃(ゆめの)君と二人きりにしてくれたお礼を彼女に言った。

 彼女は素直に一言、「どういたしまして!」とだけ返してきて、それ以外は何も聞いてこなかった。夢乃(ゆめの)君と何を話していたのか聞かれるかと思ったが、空気を読んでくれたのか、興味がなかったのか、彼女はただ嬉しそうに微笑むだけだった。


 そんな彼女からの誘い。

 今日はいつもと違い、「一緒に帰ろう」ではなく、「教室に残ろう」というお願いのようだ。

 オレの無言の無茶ぶりに付き合ってくれたお礼として小さく頷き、頼みを受け入れる。

 

 そして周りを見ると、昼に話していたとおり早速聞き込み調査を始めている小芽生(こがやおい)さん。チラリと耳に入る会話としては、


「ねえねえ、このクラスでさ、最近変わったこととかなかった?」


「そりゃありまくりでしょーよー」


「え!? どんなどんな?」


「だって退学者出たし、変なメール届くし、変わったことだらけよ、もう」


「あー、えーっとー、それもそうだけど………イジメとかさ、何か知ってることないかなーって思ったりしてて………」


「あーそゆことね、それならさっさと言ってくれればいいのに―」


「たははー………」


「イジメかー………私はあんまり知らないなー。―――けど、クラス代表が関わってそうだよね。あいつ、みんなに注目されたくてイタズラしたんじゃないの? 『このクラスにはイジメがありまーす』って」


「それはー……どうかなー……」


 小芽生(こがやおい)さんグループの一人と話をする彼女は、フットワークは軽いが、お世辞にも聞き込みがうまいとは言えない。

 聞き耳を立てて得られた情報として、クラスメイトは、あるかもわからないイジメを本気で探ろうとしていない姿勢だということがわかった。

 まあ、それもそうだろう。信頼できる情報元ならまだしも、匿名から提供された情報を鵜呑みにして本気になっている方が滑稽だ。


 小芽生(こがやおい)さんはその後も何人かに話しかけているようだが、どれも決定的な情報は得られていない様子で、この調査は難航してしまっているようだ。

 「そうは上手くいかないよなー」と現実の難易度に驚愕しつつ、新たな作戦をどうしようかとワクワクしながら考えていた。

 

 できもしない妄想を繰り広げていると、気づけば天賦(てんぷ)君の演説が終わり、教卓には四ノ宮(しのみや)先生が着いていた。教室に飛び交っていた小さな振動もなくなり、代わりに先生の声が響いていた。


 いつもと変わらないホームルーム。一方で、不安定なクラスメイトたち。

 この奇妙な光景に胸が躍るが、できるだけ早く問題が解決すればいいなと思ってもいる。


 もちろん面倒事には関わりたくない。でも、クラス代表としてやらなきゃいけない。

 自身を洗脳するように言い聞かせて気持ちを落ち着かせる。



――――――――――



 先生の話が終わり、放課後になった。


 周囲はすでに帰りの支度を済ませて教室から出始めている。

 オレも教室に溶けこむように帰る支度をするフリをするが、この後は教室に残る予定なので、席は立たずに手だけを机の中と外を行き来させる。


 体を傾けたり、資料をまとめたりして、作業している風に繕っていると、次第に教室の人数が減り気づけば残っているのはオレ含めて三人だけになった。

 一人はオレ、一人は伊波(いなみ)さん、そして爆睡を決め込んでいる一人の女子。

 その人は椿(つばき)さんではなく、背の高い女子だ。


 その女子は全く帰ろうとしないため、二人きりになるということは叶わず、ちっとばかし残念だが、許容範囲内だ。

 教室に三人だけになったことを確認した伊波(いなみ)さんがオレの方向に、座っている椅子を回転させて、


「じゃあ、カエデ君。お昼の続きをしようか」


「オレもそれがいいのかなって思ってた。このままじゃいい結果が得られなさそうだと感じてたから」


「そうだよねー…………んー、どうしよっかなー」


 オレも伊波(いなみ)さんの方向に椅子を回転させて話し始める。すると、教室の前のドアからこちらを見る気配があることに気がつく。

 視線は寄せずに己の感覚だよりにその気配の正体に向かって、


「なあ、そこにいるやつ」


「―――ッ!」


 その人は隠れることもできず体を教室の中に入れる。

 そいつはバレバレなのにも関わらず、ゆっくりと足音を殺してこちらに近づいてくるが、オレたちは向かい合っている状態を崩さず、ドンと構えて待つ。

 靴と床が擦れる音がこちらに近づき、オレたちの横にそいつは立った。


「なにしてんだ」


 オレがそいつの顔を拝むと、その正体はつい最近出会った『変なやつ』だった。


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