第十四話 心配するということ
「文章のスクショ? イジメ現場の証拠とかではなく?」
「うん、この前メールで相談されてね。それから何回かやり取りしてて、その流れでもらったの。ウチもまさかミヤコさんから連絡が来るなんてびっくりした」
驚愕を微塵も感じさせない様子で驚愕したことを示した小芽生さん。
「小芽生さんって人脈スゴイんだね! ところでさ、そのスクショって共有とかしてもらえる? あなたもそれがしたくて呼んだんでしょ?」
伊波さんはテーブルに両肘を乗せて反応よく返す。
彼女の催促に小芽生さんは「うん」と頷きスマホを取り出すが、その間も夢乃君はどこか煮え切らない視線を泳がせる。
誰も彼に触れることなく、彼女が件のスクショを画面に表示するのを静かに待っていた。スワイプの数が多く、指の音だけが響く時間が続き、それは小芽生さんがすでに数多くの画像やミヤコさんとのやり取りを行っていることを予測させる。
すると指の動きが止まり、「これ」と呟きスマホを持っている手を翻して伊波さんとオレにその画面を見せてきた。
「なにこれ………」
目に入ったのは最近見慣れ始めた花梗高等学校オリジナルアプリのメール画面のレイアウト。
そこに書かれた文章を見て、伊波さんが目を細めて首を傾げる。
彼女は「えーっと」と前置きをして、
「『誰かに相談したら、お前を壊す』? んー、なんか煮え切らないって感じ……」
文章の内容を伊波さんが読み上げる。しかし、どこかピンと来ていない様子だ。
確かに違和感のある文章だ。どこに違和感があるのか問われれば、正確に答えるのは難しいが。
「そうかなー? ウチはそんな風には思わなかったよ。とにかく、ミヤコさんが大変な目にあってるっていうのさえわかれば十分じゃない? ――――んでさ、ここからが本題なんだけど………カエデ君って、イジメの件、何か知ってることはある?」
「え」
「別に疑ってるわけじゃないよ! カエデ君があのメールみたいなことをする人じゃないってことはわかってるから!」
慌てて訂正する小芽生さん。
オレが「え」と言ったのは、ただ単に、急に話を振られたゆえのコミュ障特有の感嘆なだけであり、彼女に疑われてショックだとかは全く思っていなかった。
というかそんな思考になるはずもない。一生嫌われすぎて、今のオレは悪い目で見られても何も気にしない無敵の存在なのだ。どんな暴言を吐かれても、のらりくらり、やきもきもなく、天衣無縫の捌きを魅せてやる。
無益な思考を巡らせ、それが徒労に終わることは疑いようもなく、朝と同じ言葉を返す。
「オレは何も知らない」
「そうだよねー………現状、これ以上の手掛かりはなさそうかな。せっかくミヤコさんが相談してくれた案件だし、ウチとしてはこの問題をなんとかしてあげたいんだけど、よかったら二人に協力してほしい」
彼女はいい人そうなオーラを強く放つ。その雰囲気を見ればミヤコさんが彼女に相談したのにも説得力が湧く。
一方で伊波さんは、オレが小芽生さんに話を振られた辺りから、乾いた黒瞳でスマホの画面越しに彼女の目を見つめていた。
そしてオレは彼女の提案に、
「わかった」
肯定の意を示す。
そもそも、この件の最初のメールでクラス代表の文字が見えた時点でオレが関わることは決まっていた。
それならば人脈を持っている小芽生さんと協力して事に当たった方がいいだろう。オレ一人じゃ何もできやしないし。
そして乾いた視線を浴びせている副代表は対象を小芽生さんからオレへと変え、一度瞬きをしてから爛々とした目で言う。
「カエデ君が言うなら、私も協力するよ!」
「ありがとう! 二人とも頭いいし助かる―! 二人は入学式メンツの頭脳担当ね! というわけで、そんな頭脳たちに最初のお願いなんだけど、どうやってイジメの犯人を探せばいいかな?」
感謝と称賛。ポジティブさを彷彿とさせる流れからの急な投げやりさ。これがコミュ強なのかと感心するばかりだ。
頭脳担当と言われることには悪い気はしないが、それ相応の能力がないのだけが引っかかる。
とどのつまり、
「伊波さん、何かいい案はある?」
自分ではいい案は思いつかないのだ。提案できるとしたら精々、聞き込み調査レベルのありきたりなもので、現状打破できるほどの作戦は思いつかない。
伊波さんは背もたれに寄りかかり、腕を組む。
「そうだねー………やっぱりまずは聞き込み調査でしょ」
出てきた提案は、ちょうどオレが候補から外そうとしていた聞き込み調査だった。
若干の気まずさを感じたが、それを表には出さないようにする。
一方、対面の女子は表にすべてが浮いてきているようで、机を両手でバンッと叩いて腰を椅子から少し浮かして言う。
「うおー!! いいねー!! ――――よーっし、聞き込み調査をするぞー!」
ミヤコさんが辛い思いをしているというのに、浮かれまくっている小芽生さん。
こんなときに遊び半分の探偵ごっこをしているのは、いかがなものかと思ってしまうところだが、オレたちが高校生だということを考慮すれば、それでもいいだろう。
「具体的にはどうやって聞こっかな」
「直接もいいけど、とりあえずウチの知り合い全員にメール出しとくよ」