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夢見た自由は遠すぎて  作者: 沢木キョウ
第一章 花梗高等学校
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第三話 足音の響く通学路

昨日初めてPVとユニークアクセスの見方を知りました


今回で「夢見た自由は遠すぎて」の総文字数が一万字を突破しました、ありがとうございます


今更ですが、花梗高等学校って、花梗高校ってなって、平仮名にすると「かこうこうこう」ってなりますね。発音しやすそうですよね、「かこーこーこー」って


改稿 4/21 6/2


 数日前に入ったばかりのマンションで、慣れない朝を迎えた。


 花梗(かこう)高等学校の生徒は学校の用意した学生マンションに住まなければならないため、オレはここに引っ越してきたというわけだ。


 窓の外では鳥が(さえず)り、カーテンの隙間からは薄く光が差し込んでいる。


 覚えていないが、いい夢を見ていた気もする。


 ゆっくりとベッドから降り、全身を使って大きく伸びをする。


 洗面台に向かい、冷水で顔を洗って、歯磨きをする。


 部屋に戻り、カーテンを開ける。


 米をよそって、ふりかけをかけて食べる。


 朝はできるだけ手間のかかる料理はしたくないのだ。


 ふりかけご飯を食べ終わったら食器を洗う。


 その後、また洗面台に行き、うがいをして、寝癖を直す。


 少しの寝癖を残しながら、制服に着替える。


 一日のスケジュールを確認し、持ち物を準備して靴を履く。


 靴を履いたら、家の電気が点いたままになっていないか不安になって、一度靴を脱いで家の中を確認しに戻る。


 確認が終わり、心の安寧を取り戻したら、もう一度靴を履き玄関のドアを開ける。


 玄関を出て、オートロックが作動したことを確認したらエレベーターに向かって歩き出す。


 一階に降りるため、エレベーターに乗り込む。


 同じ制服を着ている人が、すでに下の階行のエレベーターに乗っている。


 エレベーターに乗り込み、一階に降りる。


 一階に到着し、エレベーターから脱出する。


 マンションの出入り口を通り抜け、外の空気を目一杯吸い込む。


 学校に向けて歩み始め、初登校の朝を存分に味わう。


 こうして希望に満ちた春が始まった。


 マンションから学校までは徒歩十分ほどの距離だから、朝焦らなくてもいいというのは、かなりのアドバンテージだ。


 天気は快晴、通学路には桜並木。

 鳥の鳴き声、風が吹き抜ける音、木々のざわめき、新入生たちの足音までもがよく聞こえる。


 それもそのはず、この花梗(かこう)高等学校の新入生は生徒会則により入学式が終わるまで、生徒同士で会話することを禁止されているため、生徒の話し声はなく、他の音に対しては、鼓膜が過敏に反応してしまう。


 この生徒会則は、陽キャにとっては窮屈に感じるかもしれないが、オレみたいな人見知りにとっては人と話さなくていい理由を与えてもらっている気がして、悪い気はしない。


「キャッ!!」


 気持ちよく歩いていると、後ろから女子の声が聞こえた。

 面倒事の匂いがしたが、反射的に声の方向を向かずにはいられなかった。

 足を止めて後ろを振り返ると、そこには、なにかに(つまず)いてしまったのか、オレと同じ高校の制服を着て倒れている女子がいたが、周囲はその女子を見て見ぬフリをして通り過ぎていた。


 おそらく、周囲の生徒たちは生徒会則を守ろうとして、彼女のことを無視しているのだろう。


 しかし、生徒会則が禁止しているのは、生徒同士の会話だけで、言葉を交わさないコミュニケーションは禁止されていないはずだということを思い出した。


 これはただの好奇心だ………。


 オレは、倒れている名も知らない女子の元に近づき無言で右手を差し出した。


 断じて、この子に好かれたいと思っているわけではない。

 そう、ただ生徒会則の穴をついてみたいという好奇心に従っただけなのだ。


 オレは彼女に近づいてみたものの、どんな表情をすればいいのかわからなかったので、精一杯の無表情を決め込んだ。


 その女子は顔を上げ、オレの顔を三秒ほど見つめ、差し出した右手を掴んで立ち上がった。


「………」


 相手も、生徒同士の会話禁止ということをしっかり把握していたのか、声を出すことはなく、代わりに感謝を示す笑顔を見せてくれた。


 その笑顔は、オレが見てきた中で一番かわいかった。まじで。

 二次元なら、ここから始まる恋があったっていいが、あいにく、オレは歴代最高の美少女とのコミュニケーションに緊張してしまってそれどころではない。


 こんな可愛い子と同じクラスになれたらいいなと思いつつ、おそらく転んでしまったと思われる彼女に、身振り手振りで足に傷がないか聞くことにした。


 オレは女子の足を指してから、自分の足を抑えて苦しんだ演技をした。


 周囲から見ると、身振り手振りの下手さが相まって、不審者に見えているのだろう。

 実際、登校中の生徒から「なにやってんだあいつ」「やばいやつおる」「関わらんとこ」みたいな視線を感じる。

 仕方ないだろ。オレは演技に関しては、ドが付く素人なんだから。


 目の前の美少女は少し困惑した表情を見せつつも、オレの言いたいことが伝わったようで、急に小悪魔のような表情に変わり、傷の有無をオレに伝えるためか、スカートを少し上げて太ももとふくらはぎを直接見せてきた。


「………!?」


 そのグラビアアイドルのように腰を捻ったポーズにびっくりして、目を逸らした。

 女子耐性皆無のオレにとって刺激的な出来事に、鼻の下が伸びてしまっていないかを確認し、一回深呼吸を挟んでから美少女の足を、靴の先から上に向けて見ていった。

 

 靴から足首、ふくらはぎ、膝、太ももを順番に見ていき、例のあれがギリギリ見えないところまで、傷がないかを念入りに確認した。


 これは仕方ない………傷の確認のため仕方ないことなんだ………………。


 己の魂をかけて全力で見たが、結論、傷はなく土一粒も付いていない綺麗な足だった。


 よかった。どうやら、ケガはしていないようだ。

 だけど………オレの方がダメージを負っている気がする………。

 このまま彼女と関わっていたら、鼻血が出てしまう予感が………。

 理性があるうちに離れないと………。


 オレは目の前の美少女と一緒にいると自分のリズムが狂わされる気がしたので、早く離れるのが吉だという結論を出した。

 オレは彼女にケガがないことを確認すると、すぐに進行方向を向き直して再び歩き出した。


 ふぅー、何事もなくイベント終了だ。

 それにしても可愛かったー。

 あと数十秒一緒にいたらつい告白してしまったかもしれないな。


「トントントントン…………」


 ん? すぐ後ろから足音が聞こえるような。


 偶々(たまたま)だろうと思い、そのまま歩き続けても、その足音はオレとの距離を一定に保ったまま鳴り続けていた。

 まさかと思い、足を止めて後ろを振り返った。

 

「フフッ……」


 さっき助けた女子が、オレから一歩半の距離に笑顔でついてきていた。


 これはもしかして、惚れられたのか!?

 いや自惚(うぬぼ)れるな、こんな美少女がオレを好きになるわけがない。

 

 オレは理性と戦いながら、なにも見ていないかのように前を向き直して歩き出した。


 あの女子に出会う前の清々(すがすが)しさは消え失せ、今は緊張で新たな学び舎を堪能する余裕すらない。

 心臓の鼓動が自分に聞こえるほどに焦っている。

 

 あれやこれやと考えていると、気づけば校門を通り抜け正面玄関の目の前までたどり着いてしまった。

 結局、後ろから付いてくる女子は正面玄関の前まで、オレとの一定の距離を崩すことはなかった。


「……………」


 正面玄関に入る直前に、その女子はスキップでオレを追い抜き、「またね」と言わんばかりの笑顔を見せて校内に姿を消した。


 なんだったんだろう、あの女子は………。


 オレは気を取り直して玄関に入り、校内を見渡した。


「うわー!!」


 校舎の中に入って初めて学校の綺麗さを実感した。

 壁や床には傷一つなく、新しくできた建物だということがわかる特有の匂いを感じた。

 オレは心の声を表に出すことは滅多にないが、出来たばかりの校舎に感動の言葉を出さざるを得なかった。

 

 こんなにも良い校舎に学費無料で通えるなんて、姉には感謝しなければならない。


 長かったような短かったような通学路を歩き切ったし、入学式に向かうとしようか。


これはただの好奇心だ

土一粒も付いていない綺麗な足だった

その女子は…「またね」と言わんばかりの笑顔を見せて校内に姿を消した


次回は入学式会場からお送りいたします。

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