第六話 愚問愚答
前回は、呼び出されました
今回は、愚問愚答です
「カエデ君、君は今すぐクラス代表をやめた方が良い」
サクラさんはオレを下から睨みつけるように言った。
それは催促ではなく命令と表現した方が正しいくらいの重圧だ。
オレのことを大して知らない分際で、よくもまあそんなことを言えたもんだな。
急に屋上まで呼んできたと思ったら、クラス代表をやめろって、自分勝手にもほどがあるだろ。
そんなに言われたら………全身の震えが止まらなくなってしまうではないか。
「………どうした、なにか言いたいことはないのか?」
それどころじゃないんだよ。
ビビっているのかわからないけど、今は体の内側から染み出てくる震えを止めるので精一杯なんだ。
オレはこの震えを抑えるために、目を瞑り、息を大きく吸う。
体内に満ちた新鮮な空気をゆっくりと吐き、目を開ける。
手はポケットに入れたままサクラさんを見て、彼女の真意を問う。
「なぜ急にそんなことを?」
オレは自分の中に現れた震えを彼女にバレないように、お得意の無表情で聞いた。
彼女は先ほどまでのように笑うことはなく、真剣な眼差しで答えた。
「昨日の一件を聞いた。あれはクラス代表としてあるべき姿ではない」
オレは黙って彼女の言葉を受け止める。
「クラスメイトには嫌われ、個人的感情で退学者を選び、結果、クラスは見事に分裂した」
「………」
「これが本当に代表と言えるのだろうか………………カエデ君」
彼女の言うことに異論の余地もない。
なぜならオレも全く同じ意見だからだ。
自分がクラス代表に向いていないというのは、他のだれよりも自分自身が一番よくわかっている。
「そんなリーダーがいるのだとしたら、風上にも置けないな」
彼女は険しい表情のまま鼻で笑う。
「フッ……たわけ……そこまでわかっていて、それでも玉座に縋りつくのは滑稽で仕方ないな。本当に笑える」
「………」
「なぜその椅子から降りないのかは………愚問だったな………」
一番知りたいところを濁された。
オレがなぜこの椅子から降りないのかを自分でも知りたい。
「じゃあ………その愚問愚答をしようか………」
「ほぉー……いい度胸だ。では聞こう。なぜカエデ君はその椅子から降りようとしない?」
「その問いに答えるなら、『答えはない』だ。君はどう考えている?」
「『答えはない』か………私は………フム……時に、君はこの言葉を知っているか?」
「………」
「『権力は人を酔わせる。酒に酔った者はいつかさめるが、権力に酔った者は、さめることを知らない』……」
「初めて聞いたが、なんだ急に」
「これは、ある国の政治家の言葉だ。今の君にはぴったりな言葉だろ?」
「………なにが言いたい?」
「ここまで言えば、私の言いたいことは伝わると思っていたのだがな」
「すまんな、オレはゼロから百まで教えてくれないと理解できない、おバカさんなんだ」
「そうか、では教えてやろう………。君は、酔っているのさ。クラス代表が持つ権力に泥酔しているのだ。しかし、君はそのことに気づいていないし、気づこうとすることもできない」
「………」
「普通、力に溺れそうになったら、他のだれかに諫めてもらうものだが、そもそも君は、その基礎となる人望すらも欠いている。だから己の権力への執着に気づくことができない」
「………」
「愛されない人間に、だれかを導くというのは不可能だ。だから私は言う。『君は今すぐクラス代表をやめた方が良い』と。取り返しがつかなくなる前に、己の傲慢さを自覚し、その椅子から離れろ」
サクラさんは冷静に、オレがクラス代表の椅子から降りない理由と、クラス代表をやめた方が良い理由を述べた。
彼女の言葉は、今のオレには深く刺さった。
昨日から悩んでいた、自分の考えとは異なる答えを繰り出したのにも関わらず、妙にスッキリしていた理由。
彼女の言うとおり、「権力に泥酔している」からなのかもしれない。
そしてオレには、人望も、優れた能力もない。
もしかしたら、今のうちに代表を降りるのが、みんなのためになるかもしれない。
でも………どうせなら………
「サクラさんの言いたいことはよくわかった。今すぐやめるのもありかもしれない」
「そうか。なら………」
「でもさ………」
「………!?」
オレはサクラさんの目を見て言う。
「それじゃあ、なにも面白くないだろう?」
カエデはずっと矛盾していますが正常です
次回は、出会います




