第三話 会いにきた
前回は、一週間ぶりに会いました
今回は、会いにきました
オレは菜々実さんと別れて、すぐに食事を済ませて教室に向かった。
教室の前のドアから入ると、そこには一人、オレよりも早く登校して教室の後ろの方で、出てもいない日光に当たる位置に椅子を三脚繋げて寝ている人がいた。
オレよりも早く学校に来ている人がいるのは珍しい。
なぜか負けた気分だ………。
その正体がだれか気になるけど、ここからじゃ見えにくいな。
オレは自分を負かした人がだれなのか確認するため、自分の机に荷物を置いてから、教室の後ろまで歩いて、その姿を見た。
「えっ………」
そこで小さく寝息を立てていたのは、このクラスのだれでもなく、一年二組の女子だった。
オレは思わず、ここが本当に自分の教室なのか信じられなくなり、四組の教室であることを確認するため、一度教室を出た。
間違い、じゃないよな?
たしかにここはオレのクラス、四組だった。
オレは教室に戻り、その子の元まで行き、自分の椅子を、寝ている女子の隣に運んできて座った。
オレは睡眠の気持ちよさを知っているからこそ、この寝ている女子のことは強引に起こそうとはしない。
ただ、オレ以外のクラスメイトが登校してくると、彼女の睡眠を阻害してしまうと思ったので、オレは静かに横で見守っているというわけだ。
しかし、隣でそんなに気持ちよさそうに寝られると、さすがのオレも眠たくなってくる。
ただでさえ昨日は帰りのホームルームからアドレナリンが出っぱなしで、夜は熟睡できなかったというのに。
今も気を抜いたら、盛大な欠伸をかましてしまいそうだ。
「んんー………」
オレが現実と夢の狭間を彷徨っていると、隣で寝ていた女子が体を小さく動かした。
彼女はそのまま両手で椅子を押して体を起こして、盛大な欠伸をかまして外を眺めた。
「ふぁーー……もうあはー(あさー)………??」
その子は大きく伸びをして、目を擦りながらまだ回り切っていない舌を使って言った。
もうあさー? って、いつからいたんだよ。
まるでここで寝ていたみたいな言い方………まさかな。
「もう朝だ」
オレは、彼女の後ろ側から、今はもう朝だということを伝えた。
彼女は椅子に座った状態で体を捻って、その眠たい目でオレの顔を見た。
「あさって………??」
彼女はまたしても意味のわからないことを言う。
「今日は木曜日、時間は午前八時の少し前、もうそろそろ他の生徒が登校してくる時間。つまり朝だ」
オレは懇切丁寧に今が朝だということを伝えた。
「ふーん」
彼女は自分で聞いておきながら、あまり興味がなさそうに答えた。
「ところで、なんでここにいるんだ?」
オレは今日、教室に来てからずっと疑問に思っていたことを彼女に聞いた。
そもそもの話、このクラスの生徒ではない人がここにいるのはおかしい。
単純に教室を間違ったのか、それとも別の目的があるのか。
まあ、いくら考えたって理解できないだろう。
なぜなら………
「にいにゃに………会うために………ここで………寝てた………」
「いつから?」
「昨日の夕方………あれ、夜? 忘れた………」
オレの中の当たり前が通用しない相手なのだから。
というか、この学校って泊まれるのかよ。
ヒカリさんがなんの目的でオレに会いにきたのかの見当はつく。
このタイミングでオレに接触を図る理由なんて一つしかない。
「………ハァー………んで、知りたいのは昨日のことか?」
昨日のこと。
つまりは、菜々実さん曰く学年中ですでに話題になっている、昨日の退学者指名の一連の出来事のことだ。
逆に今、これ以外でオレに話しかける変人なんてだれもいないだろう。
………伊波さん以外。
「ん?」
するとヒカリさんは、首を縦に振るかと思いきや、瞬きをして首を傾げた。
この反応は……まさか違うのか?
やはりなにを考えているのかわからないな。
もう素直に聞こう。
「いや……なんの用で会いにきた?」
オレが素直に聞くと、ヒカリさんは体も傾くくらい、さらに首を傾げた。
えっ、これはそんなに悩むところではないと思うのだが。
まだ寝起きで頭が働いていなくて理解に時間がかかっているのか?
オレってそんなに難しいことを聞いたかな?
彼女の謎さに頭を悩ませていると、彼女は体と首を元に戻して答えた。
「用があるとか………ないとか………そうじゃなくて………にいにゃに………会いにきたの」
この言い方的に、ここに来たのは単純にオレに会いにきただけだというのか?
そんなラブコメのヒロインみたいなことを言ってくれる女子がいるとは………。
もしヒカリさんがもっと純粋な女子なら、オレは間違いなく意識していただろうが、残念ながら彼女はヒロインというにはあまりにも謎すぎる。
ちょっと待てよ……謎多い系ヒロインもありか……?
ミステリアスな雰囲気というのも悪くな…………いやないな。
そもそもヒカリさんはオレと釣り合わないからな(オレが下すぎる)。
オレは胸がときめきそうで、全くそんなことはなかったということを自覚してから聞いた。
「そうか。目的が達成できて満足か?」
妙な詮索をされても面倒だし、前回会ったときと同じテンションで、自分の心の内を隠すように言った。
「ううん……もっと……一緒にいたい」
またヒロインのようなことを………。
やっぱりヒカリさんはオレの物語のメインヒロインに………ならないな。
もうオレの中で彼女に対する、ときめきの欠片すらないことを自覚した。
ヒロインというより、向こうが「にいにゃ」なんて言うものだから、完全に妹というイメージがついてしまった。
「ご自由に」
オレはあくまでも淡白に接した。
するとヒカリさんは小さく「うん」と言い、席を立ってこっちに向かってゆっくり歩いてきた。
「………………」
ヒカリさんはなにも話さないままオレに近づき、椅子に座っているオレの膝の上に座った。
そのまま彼女は流れるようにオレの胸を枕にするように寄りかかってきた。
オレが「ご自由に」なんて言ってしまったのが悪いけど、本当に好き勝手に行動するなー……。
これだけ近づかれたらさすがのオレも………………いやもうさすがにない。
もし自分に妹がいたらこんな感じなのだろうという感覚だけがある。
一応、本物の兄妹ではないし、セクハラ防止のために手は後ろに組んでおこう。
「にいにゃの胸………ゴツゴツしてて……変な感じ………」
ヒカリさんはウトウトしながらオレに体重を預けて言った。
こいつ、オレに胸を貸してもらっている立場なのに、なんという無礼。
「巨乳じゃなくて悪かったな」
オレは皮肉交じりに言った。
しかし、ヒカリさんはオレの皮肉には反応せず、話題を変えた。
「にいにゃは………気になってる人………いる?」
これは予想外、まさかの恋バナだ。
クラスの女子の間ではかなり定番の話ネタで、よく教室で話しているのが聞こえてくるが、それをオレも話すことになるとは思わなかったな。
なにを考えているかわからないヒカリさんのような人でも、一応思春期の女子だし、恋愛系は気になるのだろう。
オレが気になる人か―。
気になる人と言われて、最初に頭に浮かんできたのは、やはり伊波さんだ。
ほとんど一緒にいるし、クラス代表と副代表という関係も相まって考えずにはいられない。
でも、これが恋愛という感情なのかはわからない。
たしかに伊波さんはかわいいけど、今まで恋愛というものをしたことがないオレにとっては、なにが恋なのか区別がつかないのだ。
もしここで「いない」と答えてもつまらないし、どうせなら面白い答えを言ってやろう。
「ヒカリさん、かな」
オレは目の前にいる変人の名前を言った。
クックック………これでヒカリさんがどんな反応をするのか見てやろうじゃないか。
するとヒカリさんは顔を赤くして言った。
「えっ、あ……ありがとう………」
あれ? これは照れている??
なぜオレ如きの言葉で照れるんだ??
「なあ、なんで顔をあかk………」
「今日も弁当つくってきてくれたの―!?」
「はい! 昨日よりもたくさんつくってきました!!」
「えっ………アハハハハ―………ありがとー……」
オレがヒカリさんに顔を赤くした理由を聞こうと思ったら、廊下に響く二人の女子の声が聞こえてきた。
まずい、もうそろそろクラスメイトたちが登校してくる時間だ。
ヒカリさんがオレの膝の上で寝ている状況を見られたらややこしいことになるに違いない。
「ヒカリさん、行こう」
オレはヒカリさんに有無を言わさず、彼女を抱えて急いで教室から連れ出した。
「……急に……なにして……」
「いいから」
オレは珍しく全力でダッシュした。
「カエデ君! おはよう! 朝から元気だねー!」
オレの背後には、登校している伊波さんと椿さんの姿があり、ヒカリさんを正面に抱えて彼女らから見えないようにした。
オレは伊波さんからの挨拶に返事をする余裕もないほど、ヒカリさんを隠すのに全力だ。
「カエデ君、なにをあんなに急いでるんだろう」
「ウフフ……あれはおそらく、キジでも撃ちに行っているんですよ」
「へえー! さすがカエデ君!」
そして、オレは二組の前までたどり着き、二組の教室のドアの前にヒカリさんを下ろした。
「強引ですまん」
「いや」
「じゃあ……」
そこで多くは話さず、オレは急いで自分の教室へ戻った。
「おはよ! カエデ君! 狩り、お疲れさま!」
「えっ、あっ、うん。おはよう」
教室に入ると伊波さんに変なことを言われたが、本当のことを言うこともできないので、オレは狩りに行っていたことにした。
――――――――――
「おっ! おはよう、ヒカリ!」
「………」
「どうした?」
「にいにゃに………認められた……」
「認められた? そんなことより、昨日は放課後からどこにいた?」
「………忘れた」
「そうか」
――――――――――
恋の予感!?!?
次回は、呼び出されます




