第二話 もしもの話
今回で、総文字数150000字超えました
ありがとうございます
前回は、生徒会の会話でした
今回は、一週間ぶりのあの子です
クラス崩壊同然の出来事のあった日の翌日。
オレはいつもどおりの時間に起床し、朝の学食を楽しみに学校へ向かっている最中だ。
天気は曇り。通学路には元気の失せた草木が生えている。
昨日は多くのことがありすぎた影響で脳の処理が追い付いていなかったが、今日のオレは冷静でいられる気がする。
きっとオレは本格的にクラスの敵になったと自覚しているからこそ、もはや吹っ切れているのかもしれないな。
オレは枷が外れた鳥のように、羽ばたくような足取りで学校へ向かう。
まだだれもいない通学路を歩き、まだだれもいない廊下を通り、まだだれもいない四組の教室に荷物を置いて、もう一度だれもいない廊下を通って、学食のトビラの前につく。
きっと今日もだれもいないのだろうと、あまり期待せずにトビラを開ける。
すると、ヒンヤリとした空気がトビラの隙間を抜けてオレの顔に触れた。
オレはトビラを開ける手の勢いを緩めることなく、自分が余裕を持って入ることのできるくらいの幅を確保して、中に入った。
天気によるものか、目の前にはいつもより暗色が目立つ会場が広がっていた。
日光が入ってきているのかわからないくらい温もりを感じず、いつもは地面や机に映る日向と日陰の境目が、今日は曖昧だ。
オレはなんの意味もないと理解しながらも、入り口から学食全体を見渡した。
視線が、入り口に近い窓際の席にたどり着いたとき、そこにだれかが座っているのが見えた。
その人は入り口に背中を向けるように座っていたため、一瞬だれがいるかはわからなかったが、すぐにわかった。
オレは朝食セットを頼んでから、その人の対面の一つ隣の席に、なにも話さずに座った。
すると相手はオレに気づいたような反応を見せたが、それを気にせずに食事の手を進めていた。
仕方がないと思い、オレは自分から話しかけることにした。
「久しぶり」
オレは静かな声で言った。
約一週間ぶりの再会は久しぶりと言っていいのかわからないが、今一番話しかけやすい言葉として使った。
オレが話しかけると、相手は食事の手を止めて、考える時間をつくるように口の中のものをゆっくり咀嚼し、すべて飲み込んでから返答した。
「久しぶり……」
相手はオレに目を合わせて、気まずそうな笑顔をつくって答えた。
その人の正体は、オレの予想どおり菜々実さんだった。
前回、かなり様子がおかしかったから、またこうして笑顔の菜々実さんと出会えて素直にうれしい。
でも、このうれしさとは裏腹にうまく言葉が出てこない。
オレは気まずさを紛らわすかのように、一口分、食事を進める。
米を口の中に入れ、時間をかけて咀嚼して話す内容を考える時間をつくる。
「ごめんね……」
オレが一言目になにを言うか迷っていると、先手を取ってきたのは向こうだった。
突然言われた謝罪に、オレはまたしても、うまく言葉が出てこなかった。
「いや……こちらこそ」
とにかく返答しないと、という気持ちが先行してしまい、変な返しをしてしまった。
「カエデ君は謝るようなことしてないでしょ?」
菜々実さんに気を遣わせてしまった。
それを言うなら、オレは菜々実さんを不快にさせてしまったかもしれないけど、菜々実さんの方は謝るようなことをしていないだろう。
「いや、した…………と思う」
オレは謝るようなことをしたと言い切ることができなかった。
あのとき、オレが菜々実さんを不快にさせてしまったのは事実だとしても、なにがトリガーとなったかが、全くわからないからだ。
「ううん、カエデ君はなにも悪くないよ…………」
「……ありがとう」
結局、菜々実さんには最初から最後まで気を遣わせることになってしまった。
ここでまた、オレの方が悪いことをしたと言おうものなら、彼女の厚意を無駄にしてしまう気がしたから、オレが先に折れた。
それからはまた沈黙が続いた。
今の彼女は、笑顔をつくっているが、前回よりも明らかに元気がない。
だからこそ、オレは慎重に会話しなければならない。
しかし、会話が下手なオレにとって、気を遣いながら話すというのはかなり難しい。
「そうだ、カエデ君。昨日は大変だったって聞いたけど……大丈夫? その……クラスもそうだし、カエデ君も…………」
また先手を取ったのは菜々実さんだ。
そして彼女は、またしてもオレのことを心配するような口ぶりで言った。
ここまで来ると、感謝の気持ちより、気を遣わせすぎて申し訳ない気持ちの方が勝ってくる。
「クラスは大丈夫……とはさすがに言えないが、オレは大丈夫。というか昨日のこと、もうそっちのクラスにも広まってるんだな」
「うん、いい意味でも悪い意味でも、学年中で話題だよ……」
まだ、あれから二十四時間も経っていないし、噂が広まるのが早すぎる気がしないでもないが、これが現代高校生の情報網ということなのだろう。
菜々実さんは続けて言った。
「カエデ君はさ、もし………もしもの話ね…………同級生全員にクラス代表をやめろって言われたら……どうする?」
クラス代表をやめろ、か。
普通に考えれば、そんなに言われたら自分にはクラス代表の才能がなかったと自覚して、間違いなくやめると言うだろう………。
………やめると言うはずだった。
オレは昨日からおかしくなってしまった。
今思えば、あのときは、クラス代表をやめる選択をすることが、今後のオレの高校生活にとっても、クラスメイトにとってもいいことだったと確信して言える。
しかし、あのときのオレは結局クラス代表をやめる選択肢を取らなかった。
だからオレの答えはこうだ。
「やめない………と思う」
菜々実さんの質問は、昨日のオレの状況の学年全体バージョンだ。
スケールが変化したところで、オレは変わらず、やめない選択をするに違いない。
「なんでやめないの?」
菜々実さんはオレに、その理由を聞いた。
「………わからない」
オレは答えた。
しかし、オレはここで伊波さんの言葉を思い出し、続けて言った。
「わからないけど、オレが本当に求めているものは、クラス代表をやめるだけで手に入るものじゃないのかもしれない」
これは昨日、伊波さんが言ったことだ。
この言葉はオレの心に深く刺さっている。
「それが、他人を蹴落とすことになったとしても?」
菜々実さんはオレから視線を逸らして聞いた。
彼女の言葉どおり、もし他人を蹴落とすことになるのだとしたら、さすがのオレもクラス代表をやめるに違いない。
そこまで最低な人間になる気は毛頭ない。
だけど…………
「わからない………」
オレは昨日のあれのせいで、自信がなくなっていた。
もしかしたら、オレの本質はクソ野郎なのかもしれないという一抹の不安が拭い切れないのだ。
「………」
菜々実さんはオレの返答を聞くと、なにも話さずに食事を進めた。
最後に水を飲み干して、結局最後までなにも話さないまま席を立った。
この反応から察するに、オレはまたしても選択肢を間違えてしまったのかもしれない。
会話が下手なのは本当に面倒だな。
「カエデ君は、そっち側の人間なんですね………」
菜々実さんはオレに目を合わせないまま一言だけ言って、プレートを片付けて学食を出て行った。
彼女の残した一言を、オレは理解できなかった。
まだ、あれから二十四時間も経っていないし、噂が広まるのが早すぎる気がしないでもないが、これが現代高校生の情報網ということなのだろう
日々試行錯誤しながら書いてます
次回は、会いにきました




