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夢見た自由は遠すぎて  作者: 沢木キョウ
第一章 花梗高等学校
54/74

第五十話 例外 (六)

今回で、第五十話です

ありがとうございます

あと数話で一章が終わります、よろしくおねがいします


前回は、二人のどっちかでした

今回は、副代表です


 オレは生徒会の目的がいまいちわからない。


 それはきっと、まだオレが常識にとらわれているからなのだろう。


 「普通なら……」、「一般的に考えれば……」、「こうなるはずはない……」……。


 この常識の檻から抜け出したときに、「解放者」となり花梗(かこう)高等学校の本質に気づくことができるはずだという確信がオレを縛っている。

 そういう人たちこそが、この学校における常識となったとき、面白いことが起きるに違いない……。


――――――――――


「じゃあさ、私ってなんだろう?」


 オレの思考が停止させられていたとき、次に哲学者のような疑問を提示したのは伊波(いなみ)さんだ。


伊波(いなみ)さんは伊波(いなみ)さんだろ」


 オレは常識的な答えを返した。


「それはそうだけど……カエデ君はクラス代表としての仕事があるけどさ、副代表の私ってなにをすればいいのかな?」


 ここにも謎があった。

 それは、クラス副代表の役割についてだ。

 

 今回の場合、クラス代表は退学者を一人選ぶという面白い仕事があるが、副代表がすべきことが明記されていない。

 代表のサポートをすればよいのか、いつかくるかもしれない仕事まで静かに待っていればよいのかがわからないのだ。

 ただ、今回はオレ一人でなんとかできる内容だし、伊波(いなみ)さんには静かに見守ってもらおう。


「たしかに……だったら伊波(いなみ)さんは、今日はただ静観していてほしい。どんなことが起きても、それをただ見ているだけでいいし、そうだな……放課後にでも感想を聞きたい。オレが選んだ人をどう思うか、それを受け入れなければならない退学者とかクラスメイトとかの反応がどうだったか、それを第三者視点で見て、思ったことを教えてくれたらいい」


 オレは、副代表には俯瞰してもらい、放課後に感想をもらうことにした。


 これはオレ以外ならだれでもできるが、オレだけは絶対にできない仕事だ。

 だからこそ、その仕事を副代表に依頼してみようと思う。


 すると伊波(いなみ)さんは、机を両手の平で叩いて、席を立った。


「えー!! いいのー!? 私、カエデ君の頼みなら全力でこなしてみせるよ!! みんなのことを見ていればいいんだよね!? 静かにしてればいいんだよね!?」

「お、おう」


 伊波(いなみ)さんは満面の笑みで、テーブルを挟んでいるはずのオレに顔がぶつかってしまいそうなくらいの勢いで前のめりになって言った。

 その迫力に、オレは思わず目を見開き、椅子を若干引いたが、それほどまでに仕事があるということがうれしいのだろう。


「わかった!! 頑張るね!!」

「頼んだ……あ、そうだ。クラス代表として副代表に聞きたい」

「なんでも聞いて!」


 伊波(いなみ)さんは椅子に座りなおした。


 オレはこの昼休みに、多くのことを聞いているが、これが最後の問いだ。


伊波(いなみ)さんなら…だれを選ぶ?」


 オレは伊波(いなみ)さんならだれを退学させるかを聞いた。


 オレよりも今日までに多くのクラスメイトと関わってきた彼女の意見は、きっと参考になる。

 ……というのは半分建前で、もう半分は、ただ興味があるのだ。

 だれに対しても笑顔で接しており、だれからも好かれる性格をしておきながら、なぜかほとんどの時間はオレと一緒に行動しようとする独特な感性を持っている彼女の選ぶ人は、常識外なのかもしれないという、そういう興味だ。


 オレは、伊波(いなみ)さんのことを真っすぐ見た。

 すると、彼女は深く目を閉じてから、ゆっくりと開きなおし、オレに目を合わせて言った。


「カエデ君」


 彼女は光の灯っていない目をオレに向け、口元だけがほほ笑んでいるような表情をつくり、冷たい声でオレの名前を言った。

 オレは背中から銃を突き付けられているような、目の前の冷酷無比な拷問官に脅されているような感覚に陥った。

 

「え?」


 オレは思わず聞き返した。

 すると、彼女はもう一度深く瞬きをしてから言った。


「……って言ったら…どうする?」


 彼女が再び目を開けたとき、そこには先ほどまでのプレッシャーがすでになくなっていた。


 しかし、あれが冗談とは思えない。

 今、彼女がつくっている笑顔のほうが、現実味がないと感じるほどだ。


 オレは伊波(いなみ)さんから目を背けるかの如く、目を閉じて答えた。


「オレはそこまでの人間だったってことだな。なら受け入れるしかない。そこでいくら抗っても変えられないのなら、抵抗するだけエネルギーの無駄だろう。それなら、さっさと次になにをすべきかを考えるほうが得策だ」


 自分が本当にその状況になったらなにをするかわからないが、冷静に思考している今は、退学を受け入れるという答えを出した。


 ただ、理想と現実が一致するとは限らないし、なんなら一致するほうが珍しいと言っていい。

 そういう面でも、今日の退学者の様子をオレは気になっている。

 創作物のように華麗に去るのか、ただのモブのように適当な暴言を吐いて最後まで抗うのか、もしくは主人公のように大逆転を狙うのか……。


 ……オレは、だれが退学する瞬間を見たいのだろう。


 そんなことを考えながら、目を開け、伊波(いなみ)さんを見て言った。


「なんでそんな冗談を言った?」


 伊波(いなみ)さんが、なぜオレを退学者に選ぶという冗談を言ったのかを聞いた。


「そんなの、カエデ君ならよくわかってるんじゃない?」


 返ってきたのはまたしても予想外の答えだった。


 伊波(いなみ)さんが冗談を言う理由なんて全くわからない。わかるはずもない。

 そんな御業を成し遂げられるのは、もっと高尚な人だけだ。

 オレにそんな能力はかけらもない。


「さあな、見当もつかない」

「……カエデさん、これは彼女なりの意趣返しなんですよ」


 オレが、伊波(いなみ)さんの心がわからないことを伝えると、静かに会話を聞いていた椿(つばき)さんが冷静に言った。

 

 意趣返し?

 オレはいつ、どこで、なにをしたっていうんだ。

 やり返される覚えなんてないぞ。


 ……あっ。


(「もし、伊波(いなみ)さんか椿(つばき)さんのどっちかだって言ったら?」)


 そういうことかー……。


「すまん……」

「全然。すごく楽しかったよ!」

「一応反応しておきますが……ワタクシも楽しかったです!」


 オレは伊波(いなみ)さんと椿(つばき)さんに謝罪した。


 二人から返ってきた、これほど迫力に満ちた「楽しかった」をオレは他に知らない。


 そんな話をしながら、オレたちは昼食を終えた。


「おいしかったー!! でも……く、くるしい」

「オレも……おいしかった……あ、ありがとう…椿(つばき)さん……」

「そう言っていただけたら、つくってきた甲斐があったと思えますね! でも、ちょっと少なかったですかね……」

「そんなことないよ!」「そんなことない!」


 オレたち三人は、昼休みギリギリの時間に教室に戻って、また授業を受けた。


この常識の檻から抜け出したときに、「解放者」となり花梗高等学校の本質に気づくことができるはずだという確信がオレを縛っている

そういう人たちこそが、この学校における常識となったとき、面白いことが起きるに違いない……

そんな御業を成し遂げられるのは、もっと高尚な人だけだ


あっという間に五十話いきました


次回は、ホームルームいきます

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