第四十九話 例外 (五)
今回で、総文字数130000字超えました
ありがとうございます
前回は、俺でした
今回は、私・ワタクシです
「ひさしぶりにきたねー!!」
「いや昨日ぶりなんだけどな」
「あれ、そうだっけ?」
「フフッ」
伊波さん、椿さん、オレの三人は幽霊の出る場所まで来た。
そこはオレの予想どおり、昨日図書館に行く途中にあった多目的スペースだ。
昨日話したときに出た幽霊という話題から、伊波さんはここを幽霊が出る場所と表現したのだろう。
実際、オレたち以外には人気がなく、心霊スポットと言われたとしても妙に納得できる。
オレたちは三人で丸テーブルを囲んで、椅子に座った。
「ここって、本当にだれもいないんだねー」
「そうなんですよ。なぜか人が近寄らないんですよね! 本当に幽霊が……」
「でたら面白いかもね!! 図書館に幽霊を呼び出す方法が書いてある本とかないのかなー?」
「あると思いますよ! オカルトチックな本がまとめられている棚もあったはずです」
「そうなんだ! だったら借りてみよっかなー!」
「それもいいかもですね! あっ、そうでした。約束どおり、二人に弁当を持ってきたんです!」
椿さんは明らかに三人分とは思えないほどの、弁当箱と呼んでいいのかすら疑わしいボックス三箱を袋から取り出して、テーブルに置いた。
置くときに、普通の弁当箱からは絶対に出ないような重厚な音が鳴り響いたのは気のせいだろう。
この場所に来るまでに椿さんだけが大きな袋を持っていたが、その中には三人用の弁当が入っていたようだ。
「椿さん……それって……」
「はい! 弁当ですよ! じゃあ、早速開けますね」
椿さんは、とんでもなくワクワクしたような表情で、弁当箱(と思われる箱)を早々に開けていく。
伊波さんとオレは、椿さんの食欲を思い出しながら、固唾を呑んで箱が開けられる瞬間を待つ。
「おー!! すごいね、椿さん!」
未知の箱が開けられると、そこには米、卵焼きや唐揚げ、ミートボールにウインナー、ポテトサラダとミニトマトなどの定番食材に加えて、焼き鳥や焼きそばまで、さまざまな食材が入っていた。
そのどれもが食欲をそそる見た目をしており、それを食べてしまうのが申し訳ないくらいの気合いの入り方だ。
褒めるところだらけだが、たった一つだけ……
「すごい…たくさん…あるね」
三つの弁当箱にはそれぞれ同じ食材が入っており、その一つ一つが一人分とは思えない量なのだ。
弁当箱一つだけで、三人分くらいあるような気がする。
「はい! 二人とも、ものすごく頑張っているので、その分たくさん食べていただきたいなと思って……頑張っちゃいました!」
「そ、そうなんだ……あ、ありがとうね!」
あの伊波さんですら、上手く笑顔をつくることができていない。
椿さんが、善意でやってくれたことだから、余計に言えないのだろう。
「ありがとう、椿さん、これで午後の授業も頑張れそうだ」
「そう思っていただけたのなら、つくってきた甲斐がありました! じゃあ、ワタクシお腹が空きすぎて倒れそうなので、食べましょう!」
「いただきまーす!」
オレも椿さんにお礼を言って、三人で椿さんがつくってきてくれた弁当を食べ始めた。
「うわあー! なにこれ、おんいしー!」
「本当にうまいな」
伊波さんとオレは、この弁当の味に驚愕した。
弁当は、普通に食べるときよりも、いくらか味が落ちてしまうものだと思っていたが、それを感じさせないほどの美味しさだ。
「こんなに美味しい弁当をつくれるなんて、椿さんって料理が得意なの?」
「得意かどうかはわからないですけど、親にたくさん叩き込まれたので、そこそこのクオリティはつくれるようになっていると思います」
「そこそこなんて! この味なら、料理上手を名乗ってもいいと思うけどなー」
「そう…ですかね」
「絶対いいよ! ね、カエデ君?」
たしかに、このクオリティであれば得意と言っても問題ないだろう。
「そうだな、かなり美味しい。友達のつくる弁当ってちょっと憧れてたから、余計に感動してる」
「カエデさん……ありがとうございます!」
オレは本当に環境に恵まれているとつくづく思う。
一緒に話してくれて、ちょうどいい距離感を保ってくれて(伊波さんだけは、やけに近い)、クラス代表とか関係なく接することができる。
だからこそ、オレは二人に確認させてほしい。
「なあ、急に話が変わってしまって申し訳ないんだけど、朝のメールについて、二人はどう思ってる?」
普通であれば、今朝のメールを見たら他のクラスメイトのように、オレのことを警戒するだろう。
それでも二人は生徒会則の話を全く出さずに、いつもと変わらずに接してくれている。
その違いというものをオレは知りたいのだ。
「ワタクシは、あのメールのことにあまり関心はないですね。強いて言うなら、カエデさんがどんな人を選ぶのかにだけは興味がありますね」
「私も! カエデ君がだれを選ぶのかは気になる! ねぇだれを退学させるの??」
二人は、まるで自分が退学候補の一人ということを忘れているかのように話した。
これが彼女らと、クラスメイトとの違いなのだろう。
自分が選ばれるかもしれないという恐怖心がまるでない。
じゃあ、夢乃君のときみたいに聞いてみよっかなー。
オレはこの世界の王になった気分で二人に聞いた。
「もし、伊波さんか椿さんのどっちかだって言ったら?」
すると二人は、クラスメイトとは真逆の表情で答えた。
「おー! それも面白そう! もしそうするんだとしたら理由はなに?? ねえ、私、気になる!!」
「ワタクシも! それって、友達だからですか? もっと別の理由があるんですか? ワタクシたちの見えていない部分が、君には見えているのですか!?」
どっちかっていうと、食い気味だ。
この二人が、クラスメイトと違うということが、バカなオレでもわかった。
「すまん、冗談だ」
「えー!」
「そうでしたか……」
なぜか二人が残念がっているが、さらに続けて聞いてみたいことがある。
「話が少しだけズレるが、二人に聞きたい。なんで生徒会は生徒会則の違反者本人ではなく、クラス代表の指名で退学者を選ぶ形にしたんだと思う?」
「たしかにー! それも気になるねー!」
一般的な考え方をすれば、ミスをした本人を罰するのが定番だろうが、この学校では違反者本人以外を退学させることができる。
しかし、そんなことをしたら違反者が学校に残り続けてしまう可能性がある。
そしてクラスの悪者が、違反者ではなく、退学者を指名するクラス代表に変わってしまい、学級崩壊が起きかねない。
なぜわざわざそんなことをさせるのか、オレは気になるのだ。
「うーん……そんなものに理由なんかないんじゃないですか?」
すると、一足先に答えを出したのは椿さんだ。
彼女には似合わないそのギャップに、オレは魅入っていた。
そして、彼女が出した刺激的な答えは、オレの思考を完全に停止させた。
「理由なんてないか。このメールの結末に、生徒会の見たい景色があるのかもしれないな」
今は、オレが退学者を選ぶ理由を考えるのではなく、あえて、ただ流れに身を任せてこの物語の章の終わりを見てみようと思う。
得意かどうかはわからないですけど、親にたくさん叩き込まれたので、そこそこのクオリティはつくれるようになっていると思います
そうだな、かなり美味しい。友達のつくる弁当ってちょっと憧れてたから、余計に感動してる
これが彼女らと、クラスメイトとの違い
自分が選ばれるかもしれないという恐怖心がまるでない
「ワタクシも! それって、友達だからですか? もっと別の理由があるんですか? ワタクシたちの見えていない部分が、君には見えているのですか!?」
『君』
次回は、副代表です