第一話 中学三年生が持つ悩み
本編スタートです。
一年生編 第一章 第一話
といったところでしょうか。
改稿 4/21 6/2
迷っている。
およそ中学三年生は、ほとんど迫られる選択肢に、である。
この年齢になって初めて自らで道を選ばなければならないという人は少なくない。
偏差値が高い、スポーツが強い、校舎が大きい、制服が好み、家から近い。
さまざまな要素を考慮したうえで自分に適した選択肢を選ばなければならない。
もちろん、友達や先生、親など、周りの人に相談するのも正解だと思う。
まだ十年と少ししか人生を経験していないのに一人で全部決めろというのは無理な話だ。
よし、じゃあオレもだれかに相談して進路を決めることにしよう。
まずは、友達に当たってみようかな。
はい、いませんでしたー。
次は、先生に当たってみようかな。
はい、めっちゃ嫌われてましたー。
やっぱり、親に当たってみようかな。
自分で決めなさい。
一階にあるリビングで、テレビに釘付けになっている母は、オレのことなんてどうでもいいと見える。
わかっていたよ。
中学一年生のときに起きた事件から、だれもオレとは関わりたくなくなったってことはさ。
オレも相手の立場だったら、今のオレとは関わりたくないって思うだろうし。
これに関しては、もう仕方がないのだ。
あまりにも予想通りの返答だったもので、オレはなにかリアクションをすることもなく、二階にある自分の部屋に戻ろうとした。
すると、階段を上り切る直前に、オレに話しかけてくる声が聞こえた。
「カエデー、どうしたの?」
階段の下の方からオレに話しかけてきたのは、姉だった。
姉はオレと話してくれる唯一の人間だ。
自分で言うのもおかしな話だが、変わっていると思う。
「なんでもないよー」
オレは進行方向を向いたまま答えた。
なにかに期待しているわけではないが、そのまま逃げるように自分の部屋に向かってみる。
「弟よ……その顔は……悩みごとがあるんだな。よーし、姉ちゃんに言ってみなされ。このなずな様に身も心も全て曝け出してしまいなさい。無償の愛で受け止めてあげようではないか」
階段を上りながら、姉は逃げるオレに話しかけてくれている。
というか、そっちからは顔は見えてないでしょ、なんでわかるの、せめて声色で判断してくれ、普通にこわい。
姉はオレとは違い、優秀だ。
だれに対しても分け隔てなく接していて、モデルと見紛うほどの美貌の持ち主で、日本で一番頭のいい大学に主席で入学していて、詳細はわからないがたしか今は研究漬けだったような。
さらに、空手を幼稚園のときからやっていて、世界大会で入賞しているレベルで、オレは一度も試合で勝ったことはない。
母はそんな、超絶完璧抱腹絶倒ミラクルウルトラスーパー人間の姉と、その下位互換でしかないオレとを比べた結果、オレへの興味がなくなったのだと思う………つい語感がよくて変な言葉を繋げてしまった気がするが、まあいい。
その超人ぶりを間近で見せつけられると、嫉妬で避けてしまうようになるかとも思ったが、オレは姉のことを避けず、逆に唯一信頼さえしている。
その理由は単純で、例の事件を経ても変わらず接してくれたからだ。
今でもしっかり学校に通えているのは姉の影響が大きい。
そんな姉がオレに話しかけてくれている。
避けようとはしていないが、つい避けているような態度を取ってしまうのは思春期真っ只中のオレの悪いところの一つだ。
どう返事をしようか考えていると、気づけばオレは部屋の中に入ってドアも閉めてしまっていた。
やってしまった。
人の厚意に対しては真摯に答えるべきだということをわかっているのに。
今さら部屋を出て姉に話しかけに行っても変だしな。
どうしたものか。
「悩みごとはなにかなー?」
さっきまでの行動に頭を悩ませていると、不意に耳元でなにかが囁いてきた。
「うへぇぁあっ!」
その不意さとあまりの近さに変な声が漏れてしまったではないか。
オレは囁いてきたなにかから距離を取るため、前ステップを踏み、後ろを振り返った。
「ばぁっ!!」
そこにいたのは姉だった。
オレはたしかに、姉の言葉を無視してこの部屋に入ってドアまで閉めたはずなのに、なぜかオレと同じ空間に姉がいる。
この超人はついに壁を通り抜けることができるようになったようだ。
「はぁ…なんだ、姉ちゃんかよ」
当たり前の反応だろうが、一応言ってみた。
「姉ちゃんで残念でしたー! ……なんでも話してみなさい!!」
せっかく姉がくれた機会だし、正直に話そう。
オレは、腰に手を当てて立っている姉を前にして、その場に正座して悩みごとについて話した。
「実はな姉ちゃん、オレさ、高校どこに行くべきか迷ってるんだ」
姉はキョトンとした顔をしながらすぐに答えた。
「カエデは、そういうこと悩まない性格だと思ってた」
姉はオレをなんだと思っているんだ。
自分の人生について、そこそこ真面目に考えてもいい年齢になったんだぞ。
「なんでそう思ったの?」
オレという存在は、他人からどんな風に映っているのか、若干緊張しながらも、それ以上のワクワクを胸の内に秘めながら聞いてみた。
「なんというか、カエデなら『どこでもいい』って考えてると思ってさ」
姉は少しうれしそうに答えた。
予想外の返答と表情に、オレは一瞬、言葉の意味を正しく処理するための時間を要した。
その結果、オレは本人に真意を確かめるのが最適だと判断した。
「どういうこと?」
「いや、なんとなく思ったってだけで、深い意味はないよ………それで、もしカエデが道に迷っているようなら、姉ちゃんが道案内してあげようか?」
姉は安心した表情で答えた。
オレが珍しく真剣に投げかけた問いをはぐらかされた感は否めないが、相談に乗ってくれるなら、まあいい。
このまま姉に頼ってみることにしよう。
「ナビ、頼みます」
自分で決めなさい。
詳細は分からないが…
物語って、序盤とか第一章が大事ってよく聞きますよね
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