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夢見た自由は遠すぎて  作者: 沢木キョウ
記憶の章
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春逢魔 前編

投稿順的には、第一章と第二章の間ですが、いつ見ても問題ありません



「はいこれ……」


 お母さんに1000円だけ渡された。


 今日は待ちに待ったお小遣いの日だ。

 我が家では毎週日曜日に1000円のお小遣いが渡される。

 私たち姉妹はこのお金で、食事や風呂、洗濯などを行い、一週間を過ごさなければならない。

 もちろん、生きていくことができる量の食事を取るためには、風呂や洗濯などを我慢しなければならないから、これらができるのは、よくて週に一回、酷いときは一か月ほど間が空くこともある。


 なぜこのような生活になったのか、お母さんに聞いたことがある。


「お母さん、なんで私たちは1000円で生活してるの? お母さんとお父さんは一杯遊んでるのに……」


 そしたら……


「お前らを自立させるためだから、言うことを聞け」


 と言われた。

 お母さんにも考えがあるんだなって思ったから、私たちはそれに従っているというわけだ。


 さて、今日は日曜日。

 外から同学年くらいの子どもたちの遊んでいる声が聞こえてくるけど、私たち姉妹はこの日に作戦会議を開く。

 

 会議室(私たちの部屋)にて……


小春(こはる)よ……『1000円をどう使うか会議』を始めようではないか……」

「はい! 姉ちゃん! お肉食べたい! であります!」

「待ちたまえ、小春(こはる)よ……私のことは社長と呼べ……」

「はい! 姉ちゃん社長! お肉食べたいであります!」

「ふむ………………却下だっ!!」

「ガ―――――ン!!!!」

「お肉は高いからな……この程度では気軽に買えないのだ」

「え―――――!」

「安心しなされ…………小春(こはる)よ、今週の給食の献立を覚えているかね……」

「え――っと――……わかんないであります!!」

「教えてやろう……今週の金曜日に……肉じゃがが出る!!」

「ぃぃぃやった――!! であります!!」

「だから肉は却下だ。わかったな?」

「わかったであります!! 姉ちゃん社長!!」


 私たちは会議室、通称押し入れで毎週作戦会議を行っている。

 というか、ここ以外で過ごしていたら親に怒られちゃうんだけどね。

 私たちは学校に行くとき以外はこの狭い空間で過ごし、服は数着、教科書やノートは角に積み上げている。

 ここ以外だと、例えばキッチンも使えないから、冷蔵庫や電子レンジも使えない。

 だから食事はよく考えなければならないわけだ。

 

「これを見てくれ……」

「んん――――……暗くて見えない……」

「まあいい、これは極秘ルートで入手した近所のスーパーのチラシだ……そして……ここ!!」

「んん――――……どこ!?……であります??」

「なんと……2Lの水が6本で、500円だ!!」

「うおぉ――――!!」

「今週のお小遣いでこれを買って、あとの500円でなんとか耐えられれば、半年分くらいの水分を確保できるぞ……」

「よくわかんないけど、なんかすごいでありますね!?」

「ああそうだ……。そしてここには先週買った麺つゆが余っている。ということは…………」

「ゴクリ…………であります…………」

「今週もそうめんを食べることができるのだ―――!!!!」

「うおぉ――――…………でも、この麺つゆ、変な匂いがするでありますよ?」

「ん? きっと元からこういう匂いなんだろう…………というわけで、今週の『1000円をどう使うか会議』を終わる…………」


 こうして、春原(すのはら)姉妹、第何回目かの会議が終わった。


 私たちが、ほかの子と違うということは、薄々わかっているが、それでもこんな風に面白おかしく過ごせているから大した不満はなかった。


 ただ…………


――――――――――


 次の日。


「よし……小春(こはる)、学校行くよー!!」

「姉ちゃん待ってー!!」


 今日は登校日だ。

 風呂は一週間くらい入っていないし、服も数日間同じだけど、まあ大丈夫だろう。

 朝は、昨日買ってきた水をたらふく飲み、埃のついたランドセルを背負って、二人そろって、押し入れから玄関までダッシュして外に出た。


 外に出るたびに思うけど、この解放感がたまらない!!

 空気がおいっしい――――!!

 

「じゃあやるよ――! せーのっ!」

「スゥ―――……ハァ―――……」「スゥ―――……ハァ―――……」


 この絶品の空気を味わうために、私たちは一緒に深呼吸をする。


「ふぅ……小春(こはる)、手繋いで。行こっか」

「うん!」


 そして、私たちは一緒に手を繋いで学校へ向かう。

 小春(こはる)には言っていないが、常に二人で行動するのには理由がある。


「うわ、臭姉妹(しゅうしまい)と会っちゃったよ…………」

「あーあ、臭いが移っちゃうから洗濯物しまわないと…………」

「こいつらが近くにいたら、ちゃんと鼻をつままないと病気になるから気を付けよーぜー」

「うーわ、クッセー!! オエエエエエェェェ」


 そう…………この道を通るとき、近所のおばちゃんとか、登校している同級生とかに罵詈雑言を浴びせられるのだ。

 私だけならまだいいが、小春(こはる)にも同じような罵声を浴びせられるのが心配だから、常に二人で行動して、小春(こはる)の負担を少しでも分散させられたらいいなと思っている。


小春(こはる)、早歩きで行こっか」

「…………」


 この罵詈雑言ロードを早く抜けるために、私は笑顔で小春(こはる)に提案した。

 小春(こはる)は、なにも話さず、小さく頷き、正面だけを向いて私の言葉に従った。


 この子は、私と二人きりのときと、私たち以外の人がいるときとで表情が変わる。


 私は…………この子には元気に過ごしてほしい。

 私だけに見せてくれるあの表情を……外でも見せてくれるようになってほしい。

 もう、この子の……今みたいな目は……見たくない。

 

 小春(こはる)の笑顔が取り戻せるのなら…………


 私は、神にも悪魔にも魂を売ってみせる…………


この姉妹はキッチンが使えないので、そうめんは茹でずに水で浸して食べてます

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