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夢見た自由は遠すぎて  作者: 沢木キョウ
第一章 花梗高等学校
35/115

第三十一話 四日前 (三)

このエピソードで、総文字数80000超えました

ありがとうございます


前回は、伊波さん!?でした

今回は、こいです


改稿 4/23 第四話

※ストーリーの変更はないです


「ちょっとーやめてよー」


 オレの目の前に立って、蒸気機関人の拳を笑顔で受け止めたのは伊波(いなみ)さんだった。


 まじかよ……。

 二人の体格差からは考えられない。

 大柄な男の渾身のパンチを、普通の体格の女子が受け止めている。

 それも余裕そうに、片手で。

 その後ろ姿からは、武道に深く精通している面影を感じる……。


 この状況に、オレや佐藤(さとう)君たちも含め、この場にいた誰もが口を開けて固まっていた。

 

「カエデ君、早く行こ!!」


 伊波(いなみ)さんは、受け止めていた手を放して、何もなかったかのようにオレの方に振り向いて言った。


 伊波(いなみ)さん越しに見える蒸気機関人の顔は、さきほどまでの熱が引き、その代わりに冷や汗をかいており、オレを殴るために踏み込んだ足は、それ以上前に進むことも、後ろに逃げることも許されず、その場に留まることしかできていなかった。

 その過程で捻った体は、捻りっぱなしのまま静止し、伊波(いなみ)さんに解かれた手は、行き場を失って、重力任せに下に垂れていた。

 どうやらこの男子は、あの一瞬の出来事で、完全に力の差をわからせられたようだ。


 オレにとっては、伊波(いなみ)さんに時間を取らせず、相手をケガさせずに戦意を削ぐことができたことは、一番都合が良くなったと言える。

 これは彼女に感謝しなければ。


「ありがとうな」

「いいえ! で、一つ気になるんだけどさ、そこにいるケガだらけの二人はー……だれ??」


 伊波(いなみ)さんは、不良たちはそっちのけで、顔が腫れすぎて誰だか判別が難しくなった佐藤(さとう)君と鈴木(すずき)君の方を指差して言った。


「ひぃ!」


 面白いことに、伊波(いなみ)さんが鈴木(すずき)君を指差すと、彼を椅子代わりにして座っていた不良は、今までの態度が一変して、(へりくだ)るような態度で鈴木君から立って、赤髪の後ろに隠れた。

 どうやら伊波(いなみ)さんはあの一瞬で、場の支配権を奪い取って、赤髪だけでなく、青髪と緑髪のことまで、支配下に置いたようだ。


 オレはこの公園の王になった伊波(いなみ)さんに、あのケガだらけの二人の正体を伝えることにした。


「今、座られてたのが鈴木(すずき)君で、もう一人のケガしてるやつが佐藤(さとう)君。ほら、うちのクラスの授業に来てない二人」

「ふーん」


 すると伊波(いなみ)さんは、地面に倒れている二人の元まで歩いて行き、顔を近づけて観察したが、よくわかっていないような顔をしていた。

 一方、佐藤(さとう)君と鈴木(すずき)君は、美少女に顔を近づけられて、腫れて赤くなった顔をさらに赤面させた。


「やっぱり、ピンと来ないけど、二人は佐藤(さとう)君と鈴木(すずき)君……なんだよね?」


 伊波(いなみ)さんは、二人の顔を見ながら確認するように言った。

 

「はい……//」

「はい……//」


 佐藤(さとう)君と鈴木(すずき)君は、横たわった状態から正座に変わり、初恋を迎えた乙女のようにとろけた声で返事をした。

 その目には伊波(いなみ)さんのことしか見えていませんと言わんばかりの潤いがあった。


 高校生の男子が恋に落ちる瞬間を初めてみた……。


 この二人の青春を邪魔されるわけにはいかない。

 だから、この場に必要のない役者には退場していただこう。


「なあお前ら、邪魔だからどっか行っとけ」


 オレは赤髪、その後ろに隠れている青髪、そしてブランコに乗っている緑髪の目を見て言った。

 

「っ……」


 彼らは意外にも、オレの言葉に素直に従い、何も発言することなく、オレたちから逃げるように、公園を走って出て行った。


 あんな不良たちでも話してみると案外聞いてくれたりするもんだな。

 彼らも、対話さえ積めば善良な生徒に変わることができるのかもしれない。


 さて、これでやっと佐藤(さとう)君と鈴木(すずき)君の青春の一ページを綴ることができるな……。

 さっきまで座っていたブランコまで戻って、彼らのアオを快晴と一緒に満喫するとしよう。


 オレは、また存在感を薄くして、ブランコまで歩いて、座った。

 今度はスマホを開くことはなく、アオを眺めながら、両靴で地面の表面を削りながら待つことにした。


 ここからは、お前らの時間だ。検討を祈っている。



「あの……伊波(いなみ)さんですよね?」

「うん、そうだけど……君は、鈴木(すずき)君??」

「俺は佐藤(さとう)茂舞(もぶ)です……」

「あーごめん! 君が佐藤(さとう)君か! じゃあこっちが……」

鈴木(すずき)です! 僕の名前は、鈴木(すずき)菖蒲(しょうぶ)です! あの、さっきは助けてくれて、本当にありがとうございました! 伊波(いなみ)さんってすごくかわいいし、かっこいいんですね!」

「あー…うん…! 全然気にしないで! それより、二人ともケガだらけだけど、立てる? もしダメそうなら学校の保健室まで肩貸すけど?」

「いえ、立てます!!…………ほら! 俺たち男子は案外丈夫なんですよ!」

「おぉー!! さっすがだね! 鈴木(すずき)君!」

「俺は佐藤(さとう)です……」

「おっと、ごめんごめん! カエデ君と私は学校に向かうけど、二人は大丈夫?」

「……ちょっと不安もあるので、もしよければ……僕たちと一緒に行ってくれませんか!?」

「別にいいけど、ちゃんとカエデ君にも感謝は伝えておいてね?」

「……もちろんです!!」

「じゃあ四人で学校に向かおうか!」



 どうやら話はついたようだ。

 オレは伊波(いなみ)さんのほかに、佐藤(さとう)君と鈴木(すずき)君を含めた合計四人で学校に向かうことになったらしい。

 

 オレは、足を振って小さく揺らしていたブランコから軽くジャンプをして降り、三人の元へ歩いていった。

 佐藤(さとう)君と鈴木(すずき)君に近づくと、彼らはこっちに体を向けて、真剣な顔をして目を合わせてきた。

 

 そんな熱い視線を送られても、オレとのアオはなにもないぞ。

 まさか……男子同士の……禁断の!?


 二人の元まで着くと、彼らは息を吐いて、オレに頭を下げた。

 その角度は驚くほどの直角で、手は体の横に付けて、指先までしっかりと揃っていた。

 

 この二人は急にどうしたんだ。


「カエデ、ごめん!」

「僕からも、ごめん!」


 二人が最初に述べたのは、伊波(いなみ)さんが促した感謝ではなく、謝罪だった。

 でも、今の流れでオレに頭を下げる要素は一つもなかったはずだ。

 一体何に対してだろうか?


「二人とも、顔を上げてくれ。何に対しての謝罪なのかを教えてくれないか?」


 オレが謝罪の内容について聞くと、二人は顔を上げて、オレの影を見て言った。


「俺たち、噂を信じて、カエデのことを悪く言ってたんだ……」

「学食でカエデが昼食べてたときも、気を悪くさせることをした。でもこうやって、実際に関わってみると、全然噂通りの人じゃなくて、その……いいやつだった! 今なら言える…『カエデがクラス代表で良かった』って……」

「だから、俺たちはカエデに謝らないといけないんだ。すまなかった」


 二人はそう言うと、もう一度深く頭を下げた。

 

 なんだ、そんなことか。

 悪口とか、気を悪くする行動とか、本当にどうでもいいんだよなー。

 でも謝罪されたし、社会のルール通りに謝ることにしよう。


「わかった。二人の謝罪を受け取る」


 オレが謝罪に応えると、二人は顔を上げて若干照れながらも笑顔になった。


「ありがとう……!」


 まさか、伊波(いなみ)さんと待ち合わせをするだけのはずだった公園で、こんなにも濃い(恋)イベントが発生するなんて。

 泣日でも、外に出れば何かしらのサブクエストが発生することもあるんだなー。

 

「三人とも、もう大丈夫?」


 これまで空気を読んで、大人しくしてくれていた伊波(いなみ)さんがオレたち男子に言ってきた。

 さすがに、この公園で時間を食いすぎたし、起きてから何も食べてないから、もう腹が減った。


「俺は大丈夫だ!」

「僕も大丈夫! なんかスッキリした!」

「オレも腹減ったから早く行きたい」

「おっけー! じゃあ四人で学校まで、しゅっぱーつ!!」


 こうして、オレたち四人は学校に向かった。


 それにしても、伊波(いなみ)さんの動きは綺麗だったなー。

 攻撃してきた手をそのまま受け止めるのではなく、垂直に力を加えて軌道を逸らしつつ受け止めていた。

 あの技術を上手く使えば、体格差関係なく攻撃をいなすことができるだろう。

 どこで学んだかは知らないけど、相当な経験を積んでいることはわかる。

 いつか手合わせしてみたいな。


 オレたちはその後、四人で話しながら学校まで行き、保健室に佐藤(さとう)君と鈴木(すずき)君を預けて、伊波(いなみ)さんとオレは目的である学食に来た。


その後ろ姿からは、武道に深く精通している面影を感じる……

あー…うん…! 全然気にしないで!

悪口とか、気を悪くする行動とか、本当にどうでもいいんだよなー

どこで学んだかは知らないけど、相当な経験を積んでいることはわかる


佐藤茂舞がモブじゃないですね


次回は、昼飯食います

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