第二十九話 四日前 (一)
総PV800超えました
ありがとうございます
前回は、金曜日でした
今回は、土曜日です
今までに投稿したエピソードの修正をしていきます
ストーリー自体の変更はないです
修正したら報告していきます
新たな生徒会則が出て四日目の朝が来た。
今日から二日間は土日だから、学校が休みだ。
この花梗高等学校は、生徒会則が出されていなくても、土日は休みという基本的なルールは守られている。
なんと都合のいい……。
「さて、今日は何をしようか」
緑のカーテンの隙間から、太陽の光がオレのベッドを薄く貫いている。
その光が当たっている部分に触れると、日光に温められているようで、それは太陽が出て、ある程度の時間が経っていることを意味していた。
平日は朝の学食を楽しみたいという理由から、まだ外が薄暗い時間から起きているが、今日は朝食の楽しみよりも、平日を経て溜まりに溜まった睡眠欲の発散に没頭できることに喜びを感じていた。
今日は、学校に向かわなくても良い。
今日は、家でゴロゴロできる。
今日は、”自由”に過ごすことができる。
そんな理想的な、堕落した生活を送ることができるのが通常だろう。
しかし、この花梗高等学校においては生徒の自由を侵害する存在がある。
そう、生徒会則だ。
オレは気づいている。
新たな生徒会則の内容は「今日から一週間、毎日学食を利用しなければならない」で、平日がどうとか、休日がどうとかの定義がされていないということに。
言葉をそのまま捉えるのであれば、「今日から一週間」ということは、土日も含まれるだろう。
これの意味するところは、「休日でも学食を利用しに、学校に来なさいよー」ということだ。
これは許されざる暴挙ですよ……。
世の学生であれば共感してもらえると思うが、休日に学校へ向かうことはとてつもなく憂鬱だ。
授業に出なくて良いとしても、寝間着から制服に着替えてこれから学校に向かうんだという感覚と、平日と同じ道を歩いて登校をしているんだという感覚がある。
この感覚は一言で言うと、だるい。
このだるさを心に抱えたまま休日を過ごさなければならないのは、もはや休日と呼ばないのではないか?
だって休めてないし。
泣きたくなるほどだるい休日だから、これは泣日とでも勝手に名付けよう。
今日は休日ではなく、泣日だと思うと、少しだけ心の憂鬱さが和らいできた気がしないでもなくはない。
オレは軽くなった体を動かして、足を床につけて、人生で一番長い欠伸と伸びを同時に行い、息を吐きながらゆっくりと立ち上がった。
いつもよりも長く寝ていたことで固まってしまった体を、左右に二往復ほど捻って柔らかくして、また欠伸をした。
外がどれくらい明るくなっているかを確認するために、カーテンをゆっくり開けた。
あまりの眩しさに、目を一瞬瞑ってしまったが、すぐに目が慣れてきて外を眺めると、驚くほどの快晴だった。
雲は一つもなく、真っ青な空がオレの視界を埋め尽くした。
この一週間の疲れを吹き飛ばしてくれる天気だ。
オレは無意識に、カーテンだけでなく、勢いそのまま窓も全開にした。
窓を開けた瞬間に部屋に流れ込んでくる新鮮な空気は、先ほどまで暗かった部屋を明るくし、机の上に転がっているシャープペンシルを軽く回転させ、ノートを数ページほど捲った。
オレは思わず窓の外に顔を出した。
小鳥が鳴き、ちらほらと人が歩いている。
電線が風で小さく揺れており、ブロック塀の上では野良と思われる猫が気持ちよさそうに、体を丸めて寝ている。
しばらく、外の景色を堪能して、日光と風の気持ちいいコンビネーションに没入していると、机に置いてあるスマホから着信音が聞こえた。
窓の外に出していた顔を部屋の中に引っ張り戻して、自分の机の上のスマホの画面を確認すると、伊波さんからの電話だった。
そもそもオレに電話をかけてくる相手なんて伊波さんぐらいしかいないから、全く驚くこともなく電話に出た。
ついこの前ヒカリさんとも電話をしたから、人見知りなオレでも慣れてきたし、もう緊張はしないぞ。
「もしもし!!!!」
「うわぁ! びっくりした。いつもと声の大きさが違いすぎて、一瞬違う人に電話をかけちゃったかと思ったよ!」
ゼンゼンキンチョウシテナイゾ。
いまのは、たまたま声の調整を済ませる前に話してしまったから変な声が出ただけだ。
だけど、一応咳ばらいをしてから、落ち着いて話そう。
「コホン……ごめん。寝起きでうまく声が出なかった」
「うわぁ……次はイケボっぽくなってるよ! カエデ君って寝起きだとそんな感じなんだね!」
寝起きで人と話す機会なんて、今までほとんどなかったから、こういう反応をされるなんて新鮮だな。
ていうか、イケボ”っぽい”ってなんだ? イケボではないってことなのか? 今のオレはイケボを気取ってるイタいやつに聞こえたってことなのか?
まあ、受け取り方はどうであれ、オレの寝起きについての知見を得ることができたのは収穫だし、水に流すことにしようではないか。
本題に入ろう。
「オレは朝は弱くてな。で、どうした?」
「あのさ、今日一緒に学食行かない? 生徒会則があるし、どうせならカエデ君と行きたいと思って! どう?」
伊波さんからの電話は、学食の誘いだった。
オレとしては、断る理由もないし、問題はない。
「いいよ。どこかで待ち合わせとかする?」
「ありがとう! じゃあ、このマンションの裏にある公園とかどう?」
「わかった。じゃあ、またあとで」
「あとでね! 制服、それと学生証! 忘れないでね!」
「うん」
伊波さんとの通話が終わった。
実は、花梗高等学校の中に入るためには制服が必要で、学食や図書館などの校内設備を利用するには学生証が必要だ。
だから伊波さんは、この二つを忘れないように催促したというわけだ。
そして、このマンションの裏には人がほとんどいない公園がある。
人がいないと言っても、近所に小学校と中学校がなく、利用するのが花梗高等学校の生徒ぐらいだから、人が少ないということだ。
オレはスマホを机に置いて、学食へ向かう準備を始めた。
まずは、洗面台に行って顔を洗って、寝癖をある程度直す。
休日にわざわざ完璧にする必要もないだろう。
歯を磨き、窓を閉め、制服を着て、学生証とスマホを持って家を出た。
マンションの一階まで降りて、外に出て裏の公園まで向かう。
表の通りに比べると、裏の通りは人気がなく、幽霊が出てもおかしくない静かさだ。
天気は快晴にも関わらず、裏の通りに入ると、辺りが陰に覆われて、肌寒さを感じる。
オレは誰にも会わずに通りを抜けて、公園が見える場所まで着いた。
うちの学校の生徒が数人見えるが、それは全員男子の制服を着ており、伊波さんはまだいなかった。
さすがに、男子と女子だと準備ができるまで時間差があるだろう。
少し、公園のブランコに揺らされながら、伊波さんを待つことにしよう。
オレは公園まで歩いていった。
近づいていくと、少しずつ男子たちの声が聞こえてきた。
「てめぇ、調子乗ってんじゃねーぞ」
「ず、ずびばぜん!!」
あらまー。
これは喧嘩というにはあまりにも一方的な、殴り合いにも満たない、もはやいじめと呼ぶにふさわしい現場ですなー。
あまり近寄りたくないけど、伊波さんと待ち合わせしてしまったし、約束通りこの公園で待つことにするか。
オレは公園の中にこっそりと入っていった。
公園にいる人数は合計五人で、殴っている人数が三人で、殴られている人数が二人。
オレはその近くを通って、ブランコに乗った。
オレの存在感を消すスキルを使えば、誰にもバレずにブランコに座ることなんて容易いのさ。……ん? あれは……。
殴っている生徒は知らない顔だけど、殴られている方は見たことがあるような……。
あれは……佐藤君と鈴木君だ!
じゃあ、このマンションの裏にある公園とかどう?
佐藤君と鈴木君は仲がいいです
次回は、友達です