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夢見た自由は遠すぎて  作者: 沢木キョウ
記憶の章
3/114

恋する少女は桜笑み 前編

空気が変わります

ちょいダークです


投稿順的には「第四話 サクラ舞い散る入学式」の次ですが、どのタイミングで見ても問題ありません


※実はこの話は読まなくても問題はないです。なのでダークな描写が苦手な人は控えてください





「さくら、私はあなたの笑顔が大好きよ」


 この言葉は私の救いだった。



 私は専業主婦のママとサラリーマンのパパと三人暮らしだった

 私たち家族は何不自由ない生活をしていた


 でもママはいつも暗い顔をしていた

 ママ、辛いの?

 と聞いたらママは私に視線を合わせて

 ママはさくらの笑顔が見られるだけで幸せよ

 と私に言った


 私が笑ってママが幸せになれることが嬉しかった

 だから私はいつも笑顔で過ごすようにした

 朝起きるときも

 ご飯を食べるときも

 学校にいるときも

 友達といるときも

 家族と過ごすときも

 お風呂に入るときも

 夜寝るときも


 そしたらだんだん私に良いことが起きるようになった

 テストはいつも100点になったし

 友達はいっぱいできた


 まだ小学生だったけど

 数えきれないくらい告白もされた


 でも一度も告白を受け入れたことはなかった

 好きっていう気持ちが分からなかったから


 私に断られて相手が悲しい気持ちになるのは嫌だったから

 必ず最後に付け加えた


 これからも一緒に遊ぼうねって


 この魔法の言葉を言うと

 みんな幸せそうな顔をしてくれた


 私の笑顔で周りのみんなも笑顔になった

 

 でもパパにはあまり笑顔を見せてあげることができなかった

 パパは仕事のある日は朝早くから家を出ていたし

 家に帰ってくるのは私が寝た後だった


 寝ているとたまにパパとママの声が聞こえてきた

 すすり泣く声と

 怒鳴っている声


 でも私は心配していなかった

 だってママは幸せだったんだから

 だから私はそのまま眠りについていた


 その次の日は大体ママの目元は腫れていた

 ママに聞いた

 ママ、目元赤くなっているよ?

 そしたらママは笑って言った

 さくらの笑顔を見られてつい嬉しくなって涙が出ちゃった

 ママは涙で目元が腫れてしまったらしい


 一方でパパはどこかスッキリした笑顔を浮かべていた

 パパに聞いた

 パパ、今日はなんで笑顔なの?

 そしたらパパは笑って言った

 さくらの笑顔が見られてつい嬉しくなってパパも笑顔になったんだよ

 パパは私の笑顔で笑ってくれていたらしい


 パパも私の笑顔で幸せになってくれた


 私は理解した

 笑顔はみんなを幸せにするって


 それからはもっと良いことが起きた

 テストは当たり前のように100点を取った

 地元のコンクールで入賞した

 マラソン大会で優勝した

 同級生全員と友達になった

 ママは毎日目元を腫らして

 パパは毎日笑顔になった


 私たち家族は何不自由ない生活をしていた


 そんなある日

 いつも通りの一日を過ごして

 パパが返ってくる前に寝た


 深夜にトイレに行きたくなって

 部屋から出た

 そしたらリビングの電気がついていて

 パパとママの声と

 鈍い音が聞こえた


 音につられて明るい場所に行くと

 パパがママのことを笑顔で叩いていた

 パパが笑顔なのはきっと良いことなんだろうけど

 ママは苦しそうな顔をしていた


 二人は何しているの?

 私がそう聞くとパパが笑顔で言った

 遊んでいるだけだよ

 ママは震えながら涙を流してこっちを見ていた


 みんなを幸せにできないパパの笑顔はダメだと思った

 でも聞いてみた

 ママは今幸せなの?

 ママは下手な笑顔を浮かべながら私から目を逸らした

 

 私は決めた


 パパ、ママ、私は寝るね

 と言った


 私は一度部屋に戻って

 算数の授業でよく使うコンパスを手に取った

 部屋を出てまたリビングに行った


 パパがママのことを笑顔で

 今度は静かに叩いていた


 私はコンパスを全開まで開いて

 こっそりとパパの後ろに近づいた

 間合いに入ったところで


 笑顔のパパの耳を聞こえなくした


 パパはそれをされた瞬間

 大きな声を出した


 ママを苦しめていたパパの笑顔がなくなった

 家に笑顔がないのはダメだと思ったから

 私は笑うことにした


 パパは私の顔を見た

 きっとパパは私の笑顔で笑ってくれると思ったのに

 まるで怪物を見たかのような顔で私を見た


 怖いものが見えてしまうその目が可愛そうだと思ったから


 目を見えなくしてあげた

 

 そしたらパパは漏らした

 それが臭いせいで

 周りのみんなが笑顔ではなくなってしまうと思ったから


 七回刺してそれを使えなくした


 パパは変な唸り声を上げるだけになってしまった


 ママを不幸にしていたパパの笑顔をなくしてあげたから

 ママは笑顔になれていると思った


 床に寝転がっているママの顔を見ると

 パパと同じような表情をしていた


 私はママに笑顔になって欲しかったから

 今までにないくらいの笑顔を見せてあげた


 ママは目を見開いたまま私の顔を見つめた

 おかしなことにママは笑っていなかった

 だから私は笑顔で聞いた


 ママは私の笑顔が好き?大好き?

 それとも嫌い?


 ママは質問には答えなかった

 ママはパパに苦しめられていたショックが

 まだ抜けていないと思ったから

 私が励まさないといけないと思った

 だから私は魔法の言葉を笑顔で唱えた


 これからも一緒に遊ぼうねって


 そしたらママは目を見開いたまま

 ゆっくりと立ち上がって

 なにかぼそぼそと呟きながら

 キッチンに向かって歩き出した


 ママはキッチンで包丁を取り出した


 数秒の後

 キッチンに赤い絵の具が飛び散った

 キッチンもリビングも赤い絵の具だらけになってしまったし

 ママとこれから一緒に遊べなくなってしまったから

 私は残念に思った


 キッチンまで歩き

 すでに動かなくなってしまったママの顔を除くと

 赤い絵の具だらけだったけど

 スッキリした笑顔をしていた


 やっぱりママは私の笑顔で笑ってくれた

 きっと意識がなくなっていくときも

 私の笑顔のおかげで幸せになってくれたと思った



 そうだ

 パパも幸せにしてあげよう


 パパ―

 まだ意識あるー?

 一緒に遊ぼー


 私はコンパスを右手に携えて

 笑顔でパパの元へ向かった


さくらは七という数字が縁起がいいと思っています

こんなときでも幸せを考えてくれるなんて

健気な子どもですね

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