第二十四話 七日前 (四)
今回で、総文字数60000字超えました
ありがとうございます
あのー、書くのが楽しくなっちゃって、途中怒涛の「かわいい」があります……
ちょっと、やってみたかったんです……
前回は、なくしました
今回は、かわいいです
改稿 6/6
伊波さんとオレは、スマホを持っている人が学食にいるということを知って教室から学食に向かっていた。
さっきまで伊波さんの顔色が悪かったが、どこにスマホがあるかが判明し、精神が安定しているように見える。
「よかったー!! 一時はどうなることかと思ったよー! もしあのまま当てが無かったら、内なる私が目覚めちゃってたかもー!」
「よかったな」
どうやらいつもどおりの伊波サクに戻ったようだ。
これで良かったが、彼女の新しい一面を知ることができて良かったとも思っている。
人当たりが良くて、マジメで、かわいくて……非の打ちどころがないのは良いことだが、どこか人間らしさを欠いている気がしていた。
欠陥があってこそ、生きていると実感するし、さらに成長しようと苦悩し、道を右往左往しながらも前に進んでいくことができると思う。
ただし、これには例外が存在する……。
「カエデ君、本当にありがとうねー! よかったらこの後学食でデザート奢ったげるよ!!」
伊波さんが、ついに笑顔を取り戻して話した。
さっきオレが見返りに要求した、デザートを奢ってもらえる機会が早速来たようだ。
適当に出した要求だったが、午後の授業でオーバーヒートしたオレの脳内コンピューターを再起動させるには絶好のタイミングであること間違いなしだな。
「ありがとう。ちょうど、オレの頭が糖分を欲していたところ」
これで、オレたちの貸し借りはプラスマイナスゼロになった。
オレは伊波さんに協力し、伊波さんはその対価としてオレにデザートを奢る。
損得勘定として見ても、これは悪くない終着点だ。
「それにしても、私のスマホを預かってる人ってどんな人なんだろう??」
伊波さんは、腕を組んで斜め下を見ながら考えていた。
「どんな人かは会えばわかるだろ!」というツッコミは控えるが、たしかに気になる。
一体、なんの用があって、放課後の学食にいたのだろうか。
伊波さんには、今わかっている情報だけを共有しておこう。
「性別は女子、声は高めで、眠そうだった」
電話は情報が少ないため、今わかっているのは精々このくらいだ。
すると伊波さんは、オレの情報に感心するように目を見て言った。
「へぇー!! さすがカエデ君だ!」
そんなに驚くことでもない気がするが、あえて見栄を張ってみようと思う。
「このくらい当然」
「フフッ」
オレの見栄に、伊波さんは笑顔を見せてくれた。
……たまにはかっこつけるのも悪くない。
伊波さんは笑い声に続けて、興味津々に言った。
「その子ってかわいいかな??」
ついに来ました。男子には絶対に理解できない魔法の言葉の一つ「かわいい」。
今日の昼に、椿さん、伊波さんと昼食を取りに学食に行ったとき、椿さんが、チーズなんたら牛丼を頼んだときに、伊波さんがそれに対して「かわいい」って言っていた。
あのときは自分に話が振られていないため適当に流したが、今回はオレが「かわいい」の判断をしなければならない。
「かわいい」って、なにが判断基準で、どこからが「かわいい」なのか、この曖昧さは、自由とか天才とかに匹敵すると思う。
学食で待っているであろう女子が「かわいい」かどうかを判断できる材料は、今のところ電話越しの声しかない。
声だけで決めていいのであれば、あれは間違いなく「かわいい」。
しかし、男子は女子の前で、別の女子を「かわいい」と言ってはならない、とネットで書いてあるのを見た気がする。
つまり、こんなに素直に「かわいい」と答えるのは違うと思う。
今、伊波さんに聞かれているのは、「その子ってかわいいかな?」だから、ニュアンス的には、おそらく見た目のことを聞いているのだろう。
見た目が「かわいい」かどうかなんて、結局はその人のさじ加減でしかない。
オレは「かわいい」と思っても、伊波さん的には「かわいい」とは違うと判断したとすると、その人はサンプル数二つの範囲では、普通という評価になってしまうのだ。
そして「かわいい」には種類がある。
例えば、小さな子どもの「かわいい」、ペットとか動物の「かわいい」、女子の「かわいい」、さらには男子に対する「かわいい」だ。
小さな子どもに対する「かわいい」は、男女問わず使うことができる「かわいい」で、そのモチッとした表情とか、無邪気な笑顔とかに対して言う。
ペットとか動物に対する「かわいい」は、クリっとした目とか、体の小ささとか、独特な表情や鳴き声に対して言う。
まだ、前二つは理解できなくはないが、女子に対する「かわいい」は、定義が広すぎる。
髪型を少し変えたことで出る「かわいい」はわかるが、今日の昼のように、チーズなんたら牛丼を食べて出る「かわいい」は本当にわからない。
たしかに見た目とか雰囲気とはギャップがあるけど、それは「かわいい」っていうより、意外っていう言葉の方がマッチしていると思う。
いや、逆に考えると「かわいい」という言葉の中には、意外という意味も内包されているということなのだろうか。
やばい、早く答えないとオレを見ている伊波さんの「かわいい」笑顔が、とんでもない意味を秘めていると錯覚してしまう。
考えれば考えるほど、「かわいい」という言葉を理解できない。
最後の男子に対する「かわいい」は、意味不明だ。
今聞かれている「かわいい」かどうかは女子が女子に言う「かわいい」だ。
オレは「かわいい」の正しい意味を理解することができないから、どうにかして誤魔化すしかない。
だから、オレの解答はこうだ。
「それは、会ってからのお楽しみにしよう」
「おー! カエデ君はエンターテイナーだねー!」
「まあな」
よし、なんとか切り抜けたっぽいな。
オレは伊波さんから見えないように深呼吸をした。
そうこうしていると、オレたちは学食のドア前に着いた。
「じゃあ、行くか」
オレがドアを開けると、昼休みに賑わっていたときと比べて本当に同じ場所なのかと疑ってしまうほど閑散とした会場だった。
また、朝とは違う、数時間前まで人が渋滞を起こしていたということがわかる温かさが空気に乗っていた。
学食全体を見渡すと、オレたちが昼に座っていた席にだれかが椅子を三脚並べて寝ているのを見つけた。
「伊波さん、あの人じゃない……? ほら、あそこで寝てる……」
「ぽいね……」
生徒たちが下校している廊下から漏れ出ている喧騒により、学食は完全に静かというわけではなかったが、オレたちは無意識に声量を落としていた。
伊波さんに無言で合図を送り、存在感を薄くしながらオレを先頭にして一歩後ろに伊波さんが付いてくるポジション取りをして、その生徒に近づくことにした。
丁寧にミッションを遂行し、寝ている生徒の近くまで行くと、学食入り口では喧騒により聞こえなかった寝息が聞こえてきた。
ここでオレたちは気づいた。
結局起こさなければならないのであれば、こんなにコソコソする必要もなかったということに。
オレたちは気配を消すことをやめて、椅子を三脚使って寝ている女子の顔が見える位置まで近づいた。
「なにこの子!! かんわいいいいいいい!!」
伊波さんがその子の顔を確認すると、そこそこのボリュームを出し、その女子の頬に両手を添えて、その子の顔をフニフニしながら、自分の腰をくねらせて悶えた。
その突飛な行動に、オレは開いた口が塞がらなかった。
すると伊波さんにフニられていた女子が目を開けた。
「ひぇ?? ひひゃひひひゃひひへひゅうー(え? ヒカリになにしてるー)」
「あらまー起きたお顔もかわいいねー」
「ひゃーひぇーひぇー(やーめーてー)」
「もう少しだけ、デュフフフッ…」
「ひいひゃへん…ひゃへひょー(いい加減…やめろー)」
「おっと!」
その子は伊波さんの手を振り払って上体を起こした。
そのとき、オレは初めてその子をしっかりと見たが、髪は長くて、身長は小さく、まるで人形のように「かわいい」女子だった。
これは伊波さんが飛びついてしまうのも無理はないと納得できてしまうほどだ。
オレがその子の顔を見ていると、その子は急に伊波さんからオレに視線を移した。
すると、その子は寝起きの目を大きく開けて言った。
「にいにゃ……」
……にいにゃ??
欠陥があってこそ……前に進んでいくことができる
ただし、これには例外が存在する
にいにゃ……
「かわいい」が約35個ありました
次回は、ヒカリです