第十七話 全く慣れない
今回で「夢見た自由は遠すぎて」ep.20になります
ありがとうございます
前回は、飯食べました
今回は、帰ります
改稿 6/5
オレは昼食を取り終えて、目立たないようにこっそりと一年四組の教室に戻ってきた。
教室には、友達と話しながら弁当を食べている小芽生さん筆頭の女子グループ、買ってきたものを食べている夢乃君筆頭の男子グループ、そして、すでに食べ終えて、読書をしたり睡眠を取ったりしているソロ組がいる。
さっきまで学食にいた飛勝君も寝ているようだ。
教室の喧騒に紛れてオレは自分の席に座って机に伏そうとすると、隣から声が聞こえた。
「カエデ君! どこ行ってたの!?」
オレが教室に入るたびに話しかけられている気がするが、今度は少し怒っているようだ。
「あ、伊波さん。さっきまで学食で昼食べてた」
「先に言ってよー! もう! 言ってくれれば私も学食行ったのに……。明日からは一緒に食べたいな……」
「喜んで」
「約束だよ?」
「うん」
「よろしい!!」
いいか?
勘違いしないで欲しいんだが、オレは、美少女に誘われたのがうれしくて鼻の下を伸ばしているわけでは決してなく、クラス代表と副代表として了承しただけだ。
オレは伊波さんから顔を隠すようにして反対を向き、机に伏した。
それ以降は、もちろんだれも話しかけて来ず、そのまま昼休みが終わり、佐藤君と鈴木君がいないまま午後の授業が始まった。
昼食を取った後の授業、それも高難易度ともなれば、夢の世界にトリップするクラスメイトが現れてしまうのは疑いようがなかった。
体感だが、こういうとき、昼に元気に話していた組は寝てしまっている確率が高いが、逆にソロ組は起きている確率が高い気がする。
案の定、夢乃君はずっと頷いているし、小芽生さんに至っては寝息が漏れている。
一方で、ミヤコさんや自称天才君や飛勝君は起きている……。飛勝君やっぱりマジメだ。
そしてなんと、伊波さんは先生に質問できるくらい集中しているし、おそらく授業について行けているようだ。
オレも何度か眠気に襲われながらもなんとか授業を乗りきり、放課後までたどり着いた。
「っしゃあああ!! 授業終わったあああ!!」
「も、もうだめぇ…」
「授業初日からきつすぎるだろおおお!!」
教室のあちこちからは歓喜の声が飛び交っている。
オレもみんなに見えない程度にガッツポーズをして伸びをする。
「早く家に帰ろう」
辛い授業を乗り越えるために、過剰にエネルギーを消費したオレの脳みそを休ませなければならないと思い、帰り支度を速攻で済ませて教室を後にした。
シャットダウン寸前の意識と格闘しながらも、校門を通り抜けたとき、後ろからだれかが駆けてくる跫音が聞こえた。
「オレの他にも家が恋しい人がいるんだな……ん?」
跫音はオレを追い越すことなく止まり、代わりに激しい呼吸音が近くから聞こえてきた。
「ハァ、ハァ、ハァ……ま、まってぇ…」
この学校で一番馴染みのある声が聞こえてきたため、オレは後ろを振り返った。
そこにいたのは、疲れきって呼吸が乱れている伊波さんだった。
「どうした、伊波さん?」
「ど、どうしたも…ハァ…こうしたも…ハァ…ないでしょ…カエデ君…」
「大丈夫か? ほら、一旦呼吸を整えて」
伊波さんは呼吸を整えて再び話し始めた。
「……ふぅ、もう大丈夫! ていうかカエデ君! 一人で勝手に帰らないでよ!!」
「なんで?」
「なんでって、私たち友達でしょ? 二人で帰ろうよ!」
「……わかった」
伊波さんは、オレが了承するとうれしそうに笑んで隣に並んだ。
ただ一つ、伊波さんに言いたいことがある。
「伊波さん、言いたいことがあるんだけど、オレはクラスであまりいいように見られていないと思う。だから学食に行くときも家に帰るときもなんだけど、オレと一緒にいると伊波さんの評判も悪くなると思う。それでも大丈夫?」
オレはクラスであまりいいように思われていないのを理解しているつもりだ。
全然クラスメイトと上手く話せていないし、不愛想で過ごすようにしているし………極めつきは、こんなオレみたいな凡人がクラス代表になってしまっている。
昔から、こういうキャラには慣れているが、それで他人まで巻き込みたくない。
だから、オレは基本的には一人で行動しようとしているし、伊波さんに注意喚起をしている。というわけだ。
「あー、そういうことね………。いーの!!」
「……理由を聞いても?」
「んーとね……私はカエデ君といる方がワクワクする!!」
伊波さんは、満面の笑みで言った。
デジャブだ。
オレは似たようなことを、似たような表情で言っていた人物を知っている。
具体的な根拠はなく、抽象的な言葉でひとまとめにしてしまう、そんな人物を。
彼女が、全く慣れない心地いい違和感を与えてくれる存在だからこそ、オレも感じることがある。
「ワクワクか……オレも伊波さんといるとワクワクする気がする」
「ありがと! じゃあさ、お昼ごはんを食べるときも、帰るときも一緒ね!!」
「任せるよ」
そう、オレは凡人ならではの、ワクワクするかもしれないという、ずるい期待を抱いているのだ。
「うん! 私の好きなようにするね! あのさ、心配しているわけじゃないんだけど、この学校には慣れそう??」
伊波さんがした質問に対して、オレは願望混じりの答えを返そうと思う。
「いや、全く」
このとき初めて障壁のない笑顔を解いた。
昔から、こういうキャラには慣れている
オレは似たようなことを、似たような表情で言っていた人物を知っている
具体的な根拠はなく、抽象的な言葉でひとまとめにしてしまう、そんな人物を
彼女が、全く慣れない心地よい違和感を与えてくれる存在
オレは凡人ならではの、ワクワクするかもしれないという、ずるい期待を感じている
文学チックになりました
もうそろそろ
次回は、三日目に入って……