第十六話 心の勝負
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今回で総文字数が40000字を超えました
「あらすじ」を更新しました
いつもありがとうございます
前回は、昼食を取りに来ました
今回は、話してみます
改稿 6/5
二つ隣の席に座っている飛勝君のオーラに緊張しながらも、気づいていないフリをして日替わり定食(無料)を食べる。
彼は昨日のホームルームで、クラスで一番短い自己紹介を披露した生徒である。
彼のように見た目が不良の生徒は、取り巻きの二、三人は連れていると思ったが、どうやら一人のようだ。
「いただきます」
なんと、飛勝君は食事の前にいただきますと言っているではないですか。
授業にも、ちゃんと出ていたし、根はマジメなのかもしれない。
相変わらずの不愛想だが、礼儀も正しいのか?
人は見た目によらない例もあるんだな。
飛勝君は、箸を手に取りラーメンを口元まで持ってくると、それを口の中まで入れることなく寸前で止まった。
「おい」
彼の見た目と行動のギャップに関心していると、獲物を狩ろうとしている狩人の如く睨みつけられた。
オレの楽しい楽しい高校生活が終わったかもしれない。
「お前、なに俺のこと見てんだ、殺すぞ」
「ごめん」
飛勝君の恫喝とも思える迫力に、オレの本能が勝手に口から謝罪の言葉を放った。
ただそれでも、自己紹介イベントのときから感じていた、彼と話してみたいという思いは消えることはなく、無意識に彼の方に体を向けていた。
「チッ」
飛勝君は、オレの謝罪に対して舌打ちをし、味噌ラーメンを食べ始めた。
これ以上、彼の琴線に触れてはならないと思い、オレも体を机に向きなおして、日替わり定食を食べ始めた。
互いに意識しながらも続く沈黙に、オレは居心地の悪さを感じていた。
すると食事をしながら彼の方から沈黙を破ってきた。
「お前、悔しくないのかよ」
急に脈絡のないことを言われても、なんのことかさっぱりだ。
「それ、オレに言ってる?」
身に覚えが無さ過ぎて、彼の話しかけている対象が本当に自分なのかを確認するほどに。
「あぁ? あたりめぇだろ、殺されてぇのか?」
彼は眉間に皺を寄せて答えた。
「いや、殺されたくないけど、身に覚えがなくて」
「……お前、マジで言ってんのか?」
オレには身に覚えがないことを正直に言うと、彼はオレの顔を見て驚いた表情に変わった。
話しながらでも、食事を進めていた手が止まっている。
そんな記憶に残るくらい、オレにとっての悔しい出来事とはなんだろうか。
「さっぱりだよ」
「……はぁあ。なんだ、気づいてないのかよ…………。お前なぁ、さっき佐藤と鈴木にいろいろ言われてたんだよ」
彼は大きく溜息を吐いてどういうことかを教えてくれた。
どうやらオレがあまりにも身に覚えがない反応をするものだから、佐藤君と鈴木君に悪口を言われたことに気づいていないと思ったのだろう。
「あぁ、そのことか。悔しくない…………というか、もうどうでもいい」
飛勝君に言われるまで悪口の件は忘れていたくらい、オレは気にしていない。
だって、あれは昨日のオレの行動が引き起こした現象だし、結果は受け入れるしかない。
だから、佐藤君と鈴木君に悔しいと感じる要素は一つもないのだ。
「気づいていたのに……お前は、根っからの負け組なんだな」
「??」
飛勝君は呆れたような声で言い、オレは首を傾げた。
会話はオレの首傾げで終わり、飛勝君は高速で食事を終えて席を立った。
これは勝ち負けとか、そういう話なの?
仮にそうだとしたら、勝ち組が佐藤君と鈴木君で、負け組がオレってこと?
たしかにクラスカースト的には下かもしれないが、少なくともオレは負け組だなんて思っていないぞ。
どっちかっていうと……そう、中立組だ!
オレは勝ち負けの試合の当事者ではなくて、それを観戦しているだけの傍観者でいたいのだ。
飛勝君が出ていってしまったし、オレもそろそろ食べきって教室に戻ろう。
そう思っていると、オレに話しかけてくる声が聞こえた。
「お前、ぼっちじゃん!! かんわいそー」
「俺たち優しいからよぉ、一緒に食ってやろうか?? お・前・の・飯・を・なっ!! ウヒャヒャヒャ!!」
絡んできたのは佐藤君と鈴木君だ。
授業には出ず、昼食のときだけ学食を食べに学校に戻って来たのだろう。
オレは返答が思いつかなかったため、二人の声が聞こえていないフリをして箸を進める。
「…………」
「おい、無視すんなよ!!」
「…………」
気にせずに箸を進める。
その行動にイラついたのか、佐藤君が鬼風の形相に変わり、拳を固く握って、上に振り上げた。
「!! ………この雑魚が……調子乗ってんじゃねーぞ!!」
(ガシッ)
佐藤君の右手がオレに向かってきたと思ったら、その手首は後ろからだれかに抑えられた。
抑えた人は、ガタイが良く、顔が怖くて、制服を着崩している……飛勝君だ。
というか、オレ調子乗ってるように見えたの?
自分の見られ方を理解するのには、もう少し時間がかかりそうだな。
「おい………」
「ひ、ひぃいいいいい、いや、こ、これは………じょ、冗談!! じゃれてただけなんだよ!!」
飛勝君が睨みつけると、佐藤君と鈴木君は腰が引けてしまったように背中を丸めてしまった。
体は震え、顔は引きつり、手汗をかいていることから、飛勝君の眼光だけで完全に力関係をわからされたようだ。
「じゃあよぉ…俺とじゃれ合おうぜ…なぁ」
「いや…あの…遠慮しときます……なぁ、菖蒲! ゲームの続きをしに帰ろう!! なっ!?」
「お、おう、そうだな」
「じゃあ、自分らは帰りますんで……さよーならーーーー」
佐藤君と鈴木君はその場から逃げるように走り去っていった。
やっぱり飛勝君は優しい性格(?)をしているんだな。顔は怖いけど。
それにしても、飛勝君は学食を出たはずでは…。
「チッ」
「ありがとう飛勝君」
また舌打ちだ。
相変わらずの不愛想だが、おそらくオレのことを助けにきたのだろう。
「ただ、忘れ物を取りに来たついでだ、小心者」
「小心者?」
助けに来てくれたと思ったら、次は小心者呼ばわりですか。
なぜそんな悪口を言うのだ。
佐藤君と鈴木君と変わらないのではないか?
「お前、あいつらに抵抗する気ねぇだろ? 殴られそうになってたんだから、やり返す素振りくらい見せてくれや。だからてめぇは小心者なんだよ」
「??」
「チッ、じゃあな」
飛勝君は忘れ物を取ると、すぐに戻っていった。
オレは佐藤君の攻撃に抵抗する気はなかったが、正直あのレベルなら抵抗する必要すらないと思っただけなんだけどな…。
そりゃオレだって命の危機を感じるレベルなら全力で抵抗するけどね。
……小心者か。言い得て妙だ。
夢に絶望したオレにとっては相応しい言葉かもしれない。
飛勝君に助けられてから程なくして、オレも昼食を取り終わり、教室に戻ることにした。
どっちかっていうと……そう、中立組だ
自分の見られ方を理解するのには、もう少し時間がかかりそうだな
正直あのレベルなら抵抗する必要すらないと思っただけ
夢に絶望したオレにとっては相応しい言葉かもしれない
飛勝君は味噌ラーメンが好きです
次回は、慣れてきます