第十五話 不自由な選択
前回は、ホームルームが始まりました
今回は、学校行かなくてもいいです
改稿 6/4
「自分の席に戻れ。ホームルームを始める」
教室に入ってきたのは四ノ宮先生だ。
さっきまで各グループで話していたクラスメイトらは自分の席に戻り、そのどさくさに紛れるようにオレも机に伏していた顔を上げる。
「さて、今日からは本格的に学校生活を始めてもらうわけだが、もちろん授業は通常通り行う、学校だからな。ただし…参加は義務ではない。ホームルームへの参加も自由だ。極論、学校に来なくても、なんら問題ない」
これは驚いた。
この学校の自由が、まさかこんな形で表現されているなんて。
みんなも困惑と喜びが混ざった表情をしている。
すると、クラスの代弁者、夢乃君が挙手をして先生に言った。
「それって、その…学校側は大丈夫なんですか?」
なにか裏があるに違いない。
学校側はなにか罠を仕掛けているのではないか。
夢乃君は、そのことを遠回しに聞いているのだろう。
「学校側がどうか、というより、生徒会則に『生徒は学校に来なければならない』というようなルールはないだろう? 我々、教師陣も生徒会則に逆らうことはできないのだ。だから、強制しないし、問題もない。心配するな、お前らは自由だ」
「そう、ですか………」
夢乃君は納得のいっていない様子のまま下を向いた。
「これで、朝のホームルームを終わる。十分後に最初の授業を始める。帰りたいものは帰っても構わない」
四ノ宮先生は、鉄面皮でホームルームを終えて教室を後にした。
先生が教室を離れていく足音が消えるにつれて、クラスのざわつきが大きくなった。
学校に来なくていいと、それを先生に言われれば揺らぐのも無理はない。
今は、「やる気がないなら帰れ!」と言われて本当に帰ると「なんで帰るんだ!」と理不尽なことを言われる状況とは違うのだ。
廊下に響く足音が完全に消えたとき、オレの後ろで喜びの声が聞こえてきた。
「っしゃあ!! 俺は自由だ―!! なぁ菖蒲! 帰ってゲーセン行こーぜ!!」
「おっけー!! 昼飯食うときだけ学校来るのどうよー?」
「まじ天才だな!! よっしゃー平日から遊ぶぞー!!」
その声は、さっきオレの悪口を言っていた佐藤君と鈴木君だ。
二人は迷うことなく帰る準備をして教室を出ていこうとすると、クラスの視線が二人に集まる中、呼び止める声がした。
「ちょっとまって、二人とも! 授業には普通に参加したほうがいいと思うんだけど……」
呼び止めたのは、これまた夢乃君だ。
やはり、さっきの四ノ宮先生の言葉に思うところがあったのだろう。
二人は教室のドアに手を触れたところで、クラスメイトに顔を向けることなく答えた。
「別にいいだろー? じゃあねー」
そのまま二人は教室を出ていった。
廊下には、二人の走り騒ぐ音が反響していた。
それを反面教師とするように小芽生さんが席を立ちあがって言った。
「ウチらは普通に授業受けよ!! ねっ! みんな!!」
「やっぱりそうだよね!!」
「小芽生さんが言うなら…」
たった一言で、クラスメイトの迷いが吹き飛ぶとは。これがクラスカーストのトップに君臨する者の力というわけだ。
しかし、小芽生さんの顔をよく見ると、その視線はある人に向かっている。
「ありがとう、小芽生さん!」
「の、望君! い、いや!! 全然、そんなこと…ない……よ//」
「そんなことあるって! よし、オレらも授業を受けよう」
「おう!!」
その対象は夢乃君だ。
なるほど、夢乃君が授業を受ける派だったから、その意見を後押しするために小芽生さんも……いや違うな。ただ単に、彼にアピールしているだけだろうな。
昨日、明らかにそういう雰囲気を醸し出していたし、昨日の今日でそういうことなのだろう。
クラスのまとめ役である二人が同じ意見なら、それはクラスの総意になる。
だから、二人のグループではない人たちも授業に出る空気になっている。
そう、オレも。
だがしかし、それで良いのだ。
ここで、あえて二人の意見に反する必要もないだろう。
というか、後で面倒になる可能性を排除するという意味でも授業には出るつもりだったし。
「カエデ君はどうするの?」
そのとき、オレの耳元に囁くように話しかけてきたのは伊波さんだ。
吐息が耳に触れるリアルASMRさながらの可愛らしい声に、体が反応してしまうのと、顔がヘニャらないように注意しながら答えよう。
オレは伊波さんの顔から遠ざかるように体を傾けて答えた。
「普通に授業を受けるよ」
「そっか!!」
伊波さんは上機嫌そうに返事をすると、授業の準備を始めた。
なんで伊波さんは、オレが授業に出るって答えただけで機嫌が良さそうなんだ…。
それから程なくして四ノ宮先生が教室に戻ってきて最初の授業が始まった。
結局、授業を受けずに帰ったのは佐藤君と鈴木君の二人だけだった。
いざ授業が始まってわかったことは、難易度はかなり高いといえる。
まず、各教科の初めに、かなり分厚くて、情報量がとんでもない教科書を渡され、それに沿って授業が進んでいく。
そして、進行スピードが尋常ではなく速い。
この調子で進むのであれば高校三年生でシュレディンガー方程式に触れるのではないかと思うくらいだ。
授業に出なければ確実に置いていかれてしまう密度といえる。
――――――――――
授業初日の午前からハードなスケジュールを終えて、オレは一人で学食に向かうことにした。
昨日は夢乃君と小芽生さんと伊波さんと一緒だったが、さすがにみんな、それぞれの友達と昼食時は過ごしたいだろうと思い、速やかに、静かに教室を出て行った。
午前の、ほぼ刑務作業ともいえる勉強から解放されて賑わっている廊下を、忍者の如き忍び足で通り抜け、学食に直行し、もちろん日替わり定食(無料)を頼み、一番人気のない、学食の窓際の角の席に座った。
存在感を消し、心の中でいただきますと言って箸を手に取り、いざ食べようと思ったとき、二つ隣の席にだれかが座ってきた。
だれも近寄るなオーラを放っているその人の顔を見ると同じクラスの飛勝君だった。
生徒会則に「生徒は学校に来なければならない」というようなルールはない
なんで伊波さんは、オレが授業に出るって答えただけで機嫌が良さそうなんだ…
この調子で進むのであれば高校三年生でシュレディンガー方程式に触れるのではないかと思うくらいだ
忍者の如き忍び足で通り抜け
自由な学校に一歩近づきました
次回は、飯食べます




