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夢見た自由は遠すぎて  作者: 沢木キョウ
第一章 花梗高等学校
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第十一話 青い風吹く帰り道

今回で総文字数が30000字突破ですありがとうございます


今回は、家に帰ろう回です


改稿 6/4


 伊波(いなみ)さん、夢乃(ゆめの)君、小芽生(こがやおい)さん、そしてオレの四人は、昼食を終えて帰路についた。


 登校しているときには堪能できなかった、春の風と桜並木。

 一緒に歩んでいるのは、同じ学校の制服に身を包んだ数年ぶりの友達。

 この何気ない一コマが、オレの心に強く刺さる。


 ここにいる人は、お互いの過去を知らず、今を見てくれる。

 人生がリセットされたような気分だ。


 この居心地の良さは、まさに()()に近しいものがあると思う。

 でも、それは完全ではなくて、どこか物足りなさを感じてしまう。

 なにかが足りない。なにかが違う。

 その正体はわからないが、今だけは久しぶりの感覚を存分に味わおう。


 小芽生(こがやおい)さんは、太陽光を全身で浴びるように両手を広げた。


「ふぅうー!! 気ん持ちいー!! 友達もできたし、おいしいご飯も食べられたし、今日は満足だよー!! 明日からも楽しみー!!」


 オレは、日光に照らされている小芽生(こがやおい)さんを見て、今日一日を通して気になったことを聞いてみることにした。


小芽生(こがやおい)さんはどうしてそんなに元気なんだ?」


 今日初めて会った相手にする質問ではないのはわかっているが、初日にも関わらず、「自分」を表に出すことの意味するところが、なんなのかが気になったのである。

 嫌われてもおかしくないリスクを背負いながらも、なぜ初日から元気でいられるのか。

 実際に、オレや、その他の大多数はまだ様子見の段階だろう。

 そんな中、あんなにも明るく前に立った彼女は、オレには考えもつかない解答を持っていると直感したのだ。


「んー………あの教室にはウチが必要だったから………かな」


 面白い答えが返ってきたな。

 この解答は、ただの自画自賛ではないことはわかる。


「というと?」

「だって、あのままだと、クラスの雰囲気が暗くなっちゃいそうだったから、ウチが明るいキャラでいかないとって…………。それに……」

「それに?」


 小芽生(こがやおい)さんは少し迷って、頬を赤く染めて夢乃(ゆめの)君を見ながら言った。


「それに………(のぞみ)君の負担が軽くなればいいなって思って……」

「俺の?」


 当然、夢乃(ゆめの)君は困惑している。

 彼は率先して四ノ宮(しのみや)先生に質問したり、最初に自己紹介をしたりすることに抵抗がないからこそ、小芽生(こがやおい)さんの行動に疑問を抱いたのだろう。


 小芽生(こがやおい)さんは焦ったように早口に変わって、誤魔化すように言った。


「うん……あ、きっ、気にしなくていいよ!! (のぞみ)君はなにも気にしなくていいからねー!! ウチが好きなようにやっただけだからー!! あははー………」

「そ、そうか、ならいいけど、あまり抱え込むなよ。なにかあれば、なんでも俺に相談しろよ」

「………ありがとう//」


 これはー…あれだ。恋ってやつだ。

 クラスカーストトップともなれば、学校が始まって初日からアオハルが始まるんですね。全然、嫉妬とかしてないですよー。


 オレと伊波(いなみ)さんは、互いにアイコンタクトを取り、夢乃(ゆめの)君と小芽生(こがやおい)さんの一歩後ろを歩くことにした。


伊波(いなみ)さん、これはあれですか」

「カエデ君、これはあれですぞ」


 伊波(いなみ)さんもさすがに、あの青を悟ったようで、朝の登校時にオレに見せた小悪魔のような笑顔をしていた。

 オレは被害者だからわかるが、あれは完全に悪巧みをしようとしている顔だ。

 

「あー!!」


 伊波(いなみ)さんが急になにかを思い出したかのように叫んだ。

 オレたち三人が彼女の顔を見ると、声のトーンとは裏腹に、隠しきることのできない笑顔があった。


「どうしたの!! サクちゃん!!」

「なにか問題でもあった? 困りごとなら俺が…」


 おそらく、いや、絶対にそういうことではないぞ。夢乃(ゆめの)君。

 優しいのはわかるけど、これは多分…


「ごめーん!! 学校に忘れ物しちゃったー!! 私、取りに戻るからみんなは先に帰っててー!!」

「それならウチらも一緒に…」

「じゃっ、また明日ねー!! バイバーイ!!」

「ちょ、ちょっとー!」


 伊波(いなみ)さんは明らかに嘘を発しながら、学校の方向に走っていった。


 なるほど。多分だけど、伊波(いなみ)さんが狙っているのは、夢乃(ゆめの)君と小芽生(こがやおい)さんを二人きりにすることなのか。

 となると、オレもこの場から離脱しなければならないわけだけど、どんな理由をつけて離脱しようか。

 

 違和感がない、かつ現実的な理由は……、


「じゃあ、オレは伊波(いなみ)さんが心配だからついていってみるよ」

「それなら俺もついていくよ!」

「いや、何人もついていったら、伊波さんは申し訳なく感じるだろうから、オレだけでいい」

「それは……そうだな。じゃあ任せたよ、カエデ」

「おう」


 オレは夢乃(ゆめの)君と小芽生(こがやおい)さんを二人きりにして学校の方向に歩いた。


 さて、作戦は無事に成功したわけだけど、どこで時間を潰そうか。

 いっそのこと、このまま本当に学校に向かってしまおうか。


 そんなことを考えていると、ポケットに入れているスマホから音が鳴った。

 スマホを取り出して画面を開くと、通知が一件入っていた。

 

 だれかからメールが届いていたのだ。

 この学校では、生徒間のやりとりは情報漏洩のリスクを抑えるために、学校側がつくったオリジナルアプリで行われる。

 相手の学籍番号を指定すると、その人のスマホにメールを届けられるという仕組みだ。


 オレは姉以外からの久しぶりのメールにワクワクしつつ、メールを開いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ちゃんと二人きりにできた??

―――――――――――――――――――

 教室に来て


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 だれからのメールかは明記されていなかったが、推測は容易い。


 オレは学校に向かうことにした。


この何気ない一コマが、オレの心に強く刺さる

人生がリセットされたような気分だ

この居心地の良さは…何かが足りない。何かが違う。

「んー…あの教室にはウチが必要だったから…かな」


初日から恋愛って…あっ、全然嫉妬とかしてないですよー


次回は、二人きりです。

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