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夢見た自由は遠すぎて  作者: 沢木キョウ
第二章 崩壊の後
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第五十一話 身につけた特技は不必要


 自覚はないが、伊波(いなみ)さんから見ると、オレは冗談を言うことが増えたらしい。

 ずっと適当に話しているだけなのに、無意識下で冗談が出てくるような口になってしまったようだ。


 オレが伊波(いなみ)さんに「そうか?」と聞くと、元気よく「うん!」と返ってきて、


「気づいてないかもしれないけど、ラクと話してる雰囲気のまま、それを小芽生(こがやおい)さんにもやってたっていう感じがしたの。前のカエデ君だったら、もっとありきたりな文字列を並べてやり取りをするだけだったと思うけど、ラクと話すときみたいな変な言い回しになってる」


「そう、なのか。もしかして今のオレのしてる会話って違和感あるか?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど、カエデ君が別人みたいになったなーって」


「オレが別人?」


 オレは精神疾患を抱えているわけではないはず。

 多重人格キャラは中学生のときにすこしだけ脳内でかっこいいなーと思った程度で、表に出すような恥ずかしいことはしていない。中二病を患っていても、そこらへんの節度は守っているつもりだ。


「そうそっ。いつからか、少しだけおしゃべりになったかも。でも全然悪い方にいってるわけじゃないから、そのままでいいと思う!」


「ならいいか」


 楽観的かもしれないが、悪い違和感でないのであれば、今の会話のテンポを矯正する必要もないだろう。何か支障が出始めたら考え始める程度で問題なさそうだ。


「なんなら、私は今のカエデ君もめっちゃいいと思う! 小芽生(こがやおい)さんも楽しそうに会話できてたし、ラクとか一ノ瀬(いちのせ)さんと話すときも、うまく馴染めてたからね」


「コミュニケーション能力が上がったってことか?」


「んー、部分的にそう!」


「オレたちってアキネーターでもやってたっけ?」


「ほらそれ! その切り返しとかだよ! 前のカエデ君なら『そうか』みたいに一言だけ返してたと思う」


「そうか?」


「ほーらそれ! 多分、コミュニケーションがうまくなったというよりも、漫才力みたいなのが上がったんじゃない? こういうボケにはこうツッコんで、こういう人にはこうボケるっていう塩梅がよくなった感じ」


「なんだよ、その能力が伸びたところであまり嬉しくないな」


 オレの抱える八百万の欠点の一つであるコミュニケーション能力不足の解消が少しでも叶ったと思いきや、その希望はすぐに漫才力に打ち消される。別に漫才師を目指していないのに、その能力が開花し始めたからって、オレにはなんの得もない。周囲に笑顔を届けられるというメリットはあるものの、そういうことをするタイプではないし、注目されすぎるのも勘弁だ。


「それよりも、あれを見てみろ。何を話してるか聞こえないけど、どんなコミュニケーションを取っているかわかりやすいぞ」


 オレは話題のヘイトを逸らすように、伊波(いなみ)さんの視線を夢乃(ゆめの)君と小芽生(こがやおい)さんのいる場所に指を差して誘導する。

 伊波(いなみ)さんは「へー、どんな感じなんだろう!」と、あの二人の状況に興味を示すように素早く振り返る。


 見事オレの作戦は成功したようで、オレたちは二人を観察することにした。

 二人にできるだけ悟られないよう、体は正面に、首と視線を限界まで回して二人を見る。


「うーわ、小芽生(こがやおい)さん顔真っ赤!」


「あれでバレてないと思ってたのは、さすがに無理があるな」


 まず夢乃(ゆめの)君の対面に座った小芽生(こがやおい)さんの顔を見ると、夢乃(ゆめの)君の頬の腫れが霞むくらいの赤が灯っていた。顎を引き、若干の上目遣いをして、自分の足元と夢乃(ゆめの)君の顔とを行き来している。

 緊張ばかりということもなく、口元は頻繁に動き、積極的に話しかけていることがわかる。


夢乃(ゆめの)君の方は、ちょっと気まずそう?」


「そうだな、話してはいるけど、目線を合わそうとしてないな」


 一方で、夢乃(ゆめの)君の方はテーブルの上で指を交互に絡めて、自分の親指の付け根あたりを見ている。口元の動く量は小芽生(こがやおい)さんと比べると明らかに少なく、その代わりたびたび首を縦や横に振ってコミュニケーションを取っている。


「午前中、四組の教室に行ってなかったから、そりゃ気まずくなるよねー」


「他の人が心配してるときに、当の本人は普通に学食にいるって、どんな状況だよって感じだもんな。夢乃(ゆめの)君はそれをわかってるからこそ、小芽生(こがやおい)さんに申し訳なく思ってそうだな」


 あれは互いが互いを気遣うことで生じる気まずさだろう。決してカップルの修羅場というわけではない。

 

「何を話してるのかなー? もう本題に入ってるのかなー?」


「どうだろうなー。聞き込みのことの話し合いとかの無難なところから入ってるんじゃないか? なんで教室に来なかったのかは、もう少しブレイクしてから話し合いそうだが」


 二人が何を話しているのかの予想大会を繰り広げていると、どこからともなくオレたちに話しかけてくる声が聞こえてくる。


「調子はどうだ?」


「結構いいかんじだよー。そっちはどう?」


「こっちはメシ食った後だから気分は最高潮だ」


「おー、私はまだなんだよねー」


「お前ら、今は食べることよりも大事なことがあるもんな」


「そうなんだよー。あの二人の恋の行方……じゃなくて、作戦に集中しなきゃいけないから…………って、え?」


「え? 伊波(いなみ)さん、誰と話してる?」


「えっ?」


「えぇ?」



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