いつもの場所で 1000字
俺はA国のスパイとしてこのB国に潜伏している。だが…かつて無い苦境。
俺は…スパイであることがバレた。
本来なら自ら命を絶ち、情報が漏れるのを防ぐべき。だが、上層部からそれを止められた。
脱出するため…連絡を待てと。
そう、伝えられた。
いつ殺されるかわからない状況。恐々として過ごす1日1日は俺の精神をはげしくすり減らす。
日曜日。人混みの中でスパイ仲間とすれ違いざま、懐に紙切れを滑り込ませられる。
「スパイだとバレている。隙を見て脱出させる。自決せず、連絡を待て」
月曜日。家から出なければ、関係ない人にも余計な疑念を抱かせることになる。そう判断し買い物に行くと、視線を感じる。つけられているのだろう。
火曜日。視線の元を探る。だが焦燥感に駆られ、冷静さを失っている状況下ではそうもいかない。すぐに日が暮れる。
奇妙だと思うだろうか?スパイだとバレていて尚何も起こらないのは。
だが、それも理由がある。
B国の奴らからすれば、折角判明したスパイ。利用したいのだろう。すなわち、情報の入手。必定、それが済めば殺される。
スパイにとって貴重なもの。それは安全な情報交換や伝達の場である。盗聴器などの可能性を排除できる場所の確保というのは容易なことではない。
バレれば…それは他のスパイまでも危険にさらすこととなる。
そして…それが俺の最期だ。恐らくB国が俺を生かしている理由はそのため。それさえバレてしまえば…もうB国が俺を生かしておく理由はない。
行動から一切の情報を掴めないように細心の注意を払って過ごす。
俺たちの場合…その安全な場所は町外れの小さなバーだ。
水曜日。連絡が来て、どこで待ち合わせになってもそれを悟られないよう、あちこちを回る。朝から映画館に行き、カフェでお昼を食べ、美術館を見て、レストランでディナー。
そしてアパートの部屋に戻ると置かれていた1枚の手紙。封を切ると
「金曜日の20:00 いつもの場所で」
と、無機質な文字。
俺は頭を抱えた。
木曜日。悶々としながらまた色んなところへ行く。カフェに入り浸り、バーをはしごする。
そして金曜日。時刻は19:55。
俺は…バーにいた。
賭けだった。
この手紙が本当ならば…俺は助かる。逃げられる。
だが…この手紙自体が罠だったとしたら?
俺はこの「安全な」バーを敵に明かすことになり…そして殺される。
20:00
後ろから声をかけられる。祈るような思いで振り返る。
そこにいたのは果たして…
お気づきの方もいるかもしれませんが、「女か虎か」というショートショートをイメージして書きました。
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