初めての 1000字
少し暗く、雑然とした室内。目の前には1人の男性。
「やあ、はじめまして。私は研究者のワイリー。君は?」
それが、僕の初めての記憶。
どこで生まれ、誰に育てられたのか。その記憶は、ない。ワイリーと過ごした時間が、記憶のすべて。
いつだったか、ワイリーに聞いてみたことがある。
「君の親か…もう、話すべきかもしれないね」
ワイリーから告げられたのは両親の敵、隣国の国王についてだった。
「君は両親をその国王に殺され…孤児になったんだ」
見たこともない親。なのに、怒りはふつふつと沸き上がってきた。
「君には才能がある…私なら君を戦えるように鍛えてあげられる」
迷いなどなかった。
1年とちょっとで、僕は強くなった。剣の太刀筋は鋭く、魔法は即座に放てる。危険な魔獣と戦えば蹂躙できる。
復讐は一瞬だった。城に忍び込み、影から突然喉元に刃を突き立てた。
初めて人を殺したというのに、自分でも驚くほど落ち着いていた。
数日後、こんなことを告げられた。
「国王に君の両親を殺すよう進言したのはその国の宰相だ」
僕はまた、敵を討った。
「なんとか逃げようとしたところを捕まえたのは将軍だ」
僕はまた、敵を討った。
「君の両親を処刑する法案を作ったのは、あの法学者だ」
僕はまた、敵を討った。
1人殺すごとに、心が死んでいく。人を殺すことへの抵抗が消えていく。
「お前の両親を殺した国王が国王になったのは、国民のせいだ。」
そんなワイリーの指摘に、僕はもう、何も感じなかった。
村を燃やし。
逃げた人を斬り捨て。
援軍を灰燼に帰し。
要塞を滅ぼし。
血に染まった手を何とも思わず、家に帰る。部屋の前で、ワイリーの独り言が聞こえた。
「うーん…あの国を滅ぼしたら…次は何処を滅ぼさせようかな。あいつは妄信してくれるから楽でいい」
どういうことだ?
もっとよく聞こうとして扉に膝をぶつけてしまう。
まずいと思ったが手遅れ。ワイリーに気づかれ、押さえつけられてしまう。
「どういう…こと…」
「あーあ、聞かれちゃったかぁ」
猟奇的な男へと変わってしまったワイリーは呟く。
「どうせ最後だし教えてあげるよ。君の両親を殺したのは…俺さ。君を国家征服のための手駒にするために…ね」
ナニヲイッテイルノ?
「殺しはしないよ。色んな事を忘れてもらうだけさ」
蒙昧な意識の中で声が響く。
「それじゃあ、おやすmーー
少し暗く、雑然とした室内。目の前には1人の男性。
「やあ、はじめまして。私は研究者のワイリー。君は?」
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