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Time After Time

 僕はAグループになった。二人一組で分担して調べることになり、僕のペアは山田だった。


 山田は大学の3回生でゼファーとDT250を持っている。災害時というのもあるが、今日はオフロードバイクのDT250で出るようだ。山田は悪路をものともせずにDT250を走らせるのだろう。

 僕に「ゼファー使います?」と聞いてきたが、免許がないし運転の仕方を知らないから断った。僕は山田のバイクの後ろに乗らずにすめば、何でもいい。


 僕たちは学生寮から南に下って海までを確認するルートだった。

 まずは、阪急王子公園駅を目指してゆっくりと坂を下っていった。ところどころ家の塀が潰れて道路にはみ出していた。屋根瓦、自転車、よく分からない物が道路に散らばっている。

 山田は「ここ気を付けて下さい!」と僕に注意を促しながらゆっくりとバイクを走らせる。道路に散らばった残骸を避けながら進んでいくと、道路が陥没しているところがあった。電信柱は斜めになっていて、橋は根元から盛り上がっていた。


 スクーターから見ている限りでは、被害は少ないような気がした。ただ、阪急電車の線路を越えて少し行ったら、被害が増えていたように思う。


 僕がスクーターをゆっくり走らせていたらラジオが聞こえた。僕も知っているKiss FM KOBEというローカルのFM放送局だ。

 この地震の中放送しているのにびっくりした僕は、スクーターを停めた。


 ラジオからは知っている曲が流れてきた。その曲は、亜紀がクイズを出した思い出の曲だった。


***


 あれは亜紀と須磨海水浴場に行った時のことだ。


 須磨は神戸で有名な海水浴場。念のために説明しておくと、神戸港は船の発着場だから海水浴はできない。神戸の海水浴場といえば須磨か舞子だ。

 大阪には有名な海水浴場が無いし、京都は北側(日本海側)しか海に接していない。だから、兵庫、大阪、京都の人が神戸の海水浴場に押し掛ける。関東の湘南エリアの海水浴場をイメージしてもらえばいいかもしれない。


 夏になると関西中から神戸の海水浴場に押し掛けるから、須磨海水浴場はものすごい混む。

 が、舞子(アジュール舞子)はそれほど混んでいない。なぜかは分からないが、神戸で海水浴というと須磨なのだ。


 車で行くと駐車場に停めるのに一苦労だから、僕と亜紀は電車で須磨海水浴場に行った。僕はJR三ノ宮までスクーターで行って、彼女と元町で合流した後、約15分かけてJR須磨駅まで行く。

 JR須磨駅を出たら、たくさんの人が細い道を歩いていた。海の家の呼び込みの声が聞こえてくる。僕たちは人混みをかき分けて、比較的空いているところまで移動した。


「すごい人だね」と僕が言ったら、「そやな、ナンパも多いで」と亜紀は指さした。


 亜紀が指さす方向を見たら、何人かの男の子が歩いてくる女の子のグループに声を掛けていた。男の子たちは断られたようだが、次に来た女の子のグループに声を掛けた。

 次も軽くあしらわれ、男の子たちは次の女の子のグループへと歩いていく。


「あのメンタル、すごいなー」

「そんなもんやって。ナンパは成功する確率がすごい低いから」

「断られること前提に声を掛けていくんか……」

「そうやなー。中にはナンパされに来てる女の子もいるから、そんな女の子に会うまでナンパを続けなあかん」

「確率論の世界やな……」

「そういうこと」


 亜紀はドヤ顔で僕に説明した。僕の国でも女性に声を掛けるナンパはよくあることだ。

 でも、男の子たちを見ていて、少し可哀そうな気がした。あまりにも効率が悪すぎる……


「ナンパされに来てる女の子は『ナンパしてください!』ってプラカード持ってたらよくない? 効率的やのになー」

「まあ、それは女子のプライドが許さんやろなー」

「じゃあ、ナンパする男の子が『ナンパしてほしい女子は、僕に話しかけてください!』ってプラカード持つのは?」

「そんなん、自分から「私をナンパして下さい!」って行くわけないやん」

「そっか、ダメかー」


 僕は亜紀と話しながら、ナンパしている男の子たちを見ていた。

 男の子たちは全ての女の子グループに声を掛けているわけではなく、少しだが選り好みしているような気がする。


「あのグループには声を掛けへんのやな」

「まぁ、最低限は選んでるんやろな」

「あれだけ手あたり次第に声を掛けてるのになー。それでも、選ぶんやなー」

「みたいやな」

「でもさー、あの男の子たちに声を掛けられんかった女の子はショックじゃない?」

「あー、それは分かる。ナンパしてくるのは鬱陶うっとうしいけど、全く声を掛けられんかったら悲しいな」

「へー、女心は難しいなー」


 僕はふと思いついた。


「今から亜紀があの男の子たちの前を通って、声を掛けられるか、掛けられへんかゲームする?」

「いーやーでーすー」

「自信がないとか?」

「ちーがーいーまーす。3人組の男の子は1人で歩いてる女の子に声掛けへんやろ」

「なんで?」

「私の取り合いで喧嘩になるわー」

「あー。まぁ、そういうことにしとこか」


 その日は亜紀と海で泳いだり、ビールを飲んだり、焼きそばを食べたりして過ごした。夕方になったから亜紀に「そろそろ帰る?」と聞こうとしたら、亜紀は座って遠くを見ていた。


 亜紀はたまにこんな感じになる。ふとした瞬間に、自分の人生がこれで良いのか? と考える。僕は亜紀に話しかけた。


「亜紀は迷子みたいだ」

「そうかな? みんな将来について悩んでると思うけど」

「まあね。僕もどうするか悩んでる」

「ホセも迷子なんだ。私たち二人とも迷子か……」

「だね」


 亜紀は少し考えてから、笑いながら言った。


「もし君が迷子になったら、私を探して。そうすれば私が見つかるから」

「なんか、それ聞いたことがある。何だったっけ?」

「ヒントほしい?」

「うん」

「英語にしてみて」

「もし君が迷子…… If you’re lost……。あーっ分かった!」

「私、あの歌好きなんだ」

「僕も。続きは……もし君が倒れたら、私が支える……か」


「ホセが大変なときは、私が支えてあげる」

「じゃあ、亜紀が大変なときは、僕が支えるよ」


 僕はそういうと亜紀にキスした。

 さっき食べたカキ氷のイチゴの味がした。


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