9.横溝正史『悪霊島』(1980)・映画『悪霊島』(篠田正浩・1981)&『八つ墓村』(1951)
異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズで「横溝正史みたいな長編やりたーい!」と思いついて早3ヶ月。
なかなか巧いことプロットが組めず、一度全体の流れを書くところまで行ったのですが、この設定じゃカタリナが推理で犯人当てられない&犯人普通に逃げられる……ということになって、しょんもりなのです。
いや、ドロドロな旧家で連続殺人事件(できたら秘密の洞窟も欲しい)、巻き込まれたカタリナが高笑いしながら解決!てのがやりたいだけなんですががが。
なんでこんなに難航してしまうんやろ、ここはオリジナルを読み返して、自分の中の横溝正史的なるものを再確認するべきでは……?ということで、とりま読み返してみることにしたのです。
『犬神家』は何年か前に読み返した気がしますが、他の作品は中学生の頃読んだきり、だいぶ忘れてますですしね。
横溝正史の有名作品といえば……
『本陣殺人事件』(1946):岡山の田舎が舞台。唯一のガチ密室殺人。
『獄門島』(1948):岡山の島。復員問題、見立て殺人(俳句)
『八つ墓村』(1951):岡山の田舎。背景に落人殺戮伝説&津山三十人殺し。洞窟アリ。
『犬神家の一族』(1951):長野の田舎(那須湖畔)。見立て殺人。
『悪魔の手毬唄』(1959):岡山の田舎。見立て殺人(子守唄)。
『悪霊島』(1980):岡山の島。洞窟アリ。
一番好きなのは圧倒的に『犬神家』ですが、アレは諸悪の根源・犬神佐兵衛が孤児だったせいもあり、母親が違う三姉妹がギスギスしているだけで、分家がどうとかそういう話はナシ。
実は田舎ドロドロとはちょっと違う&なんでかしらんけど洞窟要素やりたいという気もするので、とりま『八つ墓村』と『悪霊島』と買ってきました。
没後40年経っても、主要作品なら近場の本屋ですぐ手に入るって、やっぱ凄いですね横溝……
【『悪霊島』】
まず読んだのは『悪霊島』。
他の作品はわりと敗戦後の混乱感が残っている感じなので、そのイメージで読み始めたのですが、普通にヒッピーとか出てきてびっくりです。
よく見たら、1980年完結ですしね……
市川崑『犬神家の一族』(1976)の横溝ブーム以降に書かれて、すぐ映画化されているし、角川が相当せっついて書かせたんやろな感。
舞台設定は1967年。
かつては海上交易で栄えた刑部島が時代の流れに取り残され〜からの水島工業地帯大発展で漁業もあかんくなり、みたいな話になっております。
刑部島を仕切るのは、平家の落人の血を引くという刑部大膳以下刑部家(貿易商兼ねて島唯一の宿屋運営[遊女屋でもあったかも?]&平家の落人を祀った神社)vs.もともとこの島の網元の越智家。
んで越智家の跡取り・竜平と、刑部神社の跡取り娘・巴が戦争中に恋仲になったはいいが引き裂かれ〜からの、竜平は本来受けるはずがなかった徴兵くらって戦場へ、巴は無理やり結婚させられ、ということが過去にあり。
竜平は戦後、アメリカに渡って成功し、その資金で島の再開発を計画中と。
そんでまあ、金田一耕助は越智竜平の依頼を受けて刑部島にやってくるのですが、速攻旧知の磯川警部に捕捉され、折しも発生した変死事件の捜査に巻き込まれ〜という発端。
派手な感じの死人が出るわ、それだけじゃなく過去にも行方不明者がちょいちょいいることが発覚し、諸々混迷深めていくのですがががが……
<読んでみた感想>
・もしかして……推理小説としては、わりとガバガバ!?
詳細はバレがアレですので、伏せますが。
あと、冒頭部分の「鵺の鳴く夜は気をつけろ」という超有名ダイイング・メッセージ。
なんでこんな持って回った表現にするかな??
ダイイング・メッセージの意味がようわからんくて、混乱する系の作品はちょいちょいありますが(クリスティの『なぜエヴァンズに頼まなかったのか』とか)、死に際のことですから、心にかかってることをまんま言うてしもうたのが、周りの者には通じないというのが肝要だと思うんですよ。
これはなんつーか……こういう表現には絶対ならんやろ系いいいいいい!
なんか納得いかねえな……こういう話だったっけ?ということで、ついでにアマプラでレンタルして映画版も見てみました。
・金田一耕助は鹿賀丈史。
飄々感はいい感じ。
むしろ、『犬神家』とか『八つ墓村』とかあのへんもやってほしかった気も。
市川崑の『犬神家』(金田一は石坂浩二)は大好きですが、原作でちらっと描写されている金田一耕助の色気的な部分は、鹿賀丈史が一番あるかもです。
・巴御寮人は岩下志麻。
色気がやべー。着物姿でも、なんか妙にぬめぬめっとした感じがある。
・越智竜平は伊丹十三。
謎のインテリヤクザ感が設定と合わないような。
もっとがっしりした、コテコテの男の色気ー!系の演者の方が良かった気がする。
・古尾谷雅人が巻き込まれ青年役。
謎の超棒読み演技させられてるのなんなん?
当時の「いまどきのよーわからん若い者像」だったんですかね……
・横溝お約束の下男役は石橋蓮司。
色々おもしろシーンがありました。
そしてこの作品、結構主要登場人物の設定を改変しており、巴御寮人に双子の姉がいたりするんですが、そこらへんの描写とか結構雑でして、今の眼で見るとちょっとないなー感がががが。
あともうひとつ、重大な問題が。
私、広島出身でして、港まわりの様子、海と街が異様に近い感じはこれ広島の御手洗じゃね?と思ったらクレジットに入ってたり、瀬戸内海の島でこんなに断崖絶壁あるんかしら思うてたら普通に隠岐だったりして、ロケ地当てがちょっと楽しかったのですが、洞窟が……ここ秋芳洞(山口県)ちゃうか思うたら秋芳洞だったんですよ!!(一部は岡山県の満奇洞)
秋芳洞だとわかったのが何が悪いかというと、あそこは昔っからめっちゃ観光地化されていて、すっごい大きな空間で足元も完全に整備されてて、なんならちゃんと照明入っているような空間で、最後の芝居をするんですよ探偵vs.犯人チームが。
洞窟のおどろおどろしさ感、わりとナイ。
あかんやろ! これあかんやろ!
技術的な制約でおどろおどろしさ出せる場所で撮れなかったんなら、セット組めや!! 当時の角川なら金突っ込めたやろ!!と、かなりブチギレました。
なんのための朝倉摂(美術)だあああ!
ま、鹿賀丈史の金田一は悪くなく、岩下志麻はエロく、良演出なショックシーンもあり、最初のシーン(鹿賀丈史と古尾谷雅人がボロボロのローカル列車で乗り合わせる)と、ラストシーン、時代に取り残された島から金田一が現代に戻っていくところは大変エモくてよろしかったです。
ニコニコ動画ですが、ラストを切り出してオリジナルの「レット・イット・ビー」をかぶせたのがあるのでよろしければご参照ください。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm36413678
なんでも、オノ・ヨーコが嫌がって、DVDとか配信ではカバーが使われているとかめんどくさい事情があるらしいです。
それにしても、金田一が泊まる宿の手伝いの娘が、分厚い丸眼鏡に二つ結び、黄色のプリーツミニスカ、白のハイソックスというキテレツな格好でうろうろしているのはどういう演出意図だったのか意味わからんかったですが。
『犬神家の一族』の宿屋の女中の坂口良子が良かったから、女中のキャラ立てないと!とかあったんですかね……
Wikipediaみると、どうも自分の中の『悪霊島』ってドラマ版(1999年・古谷一行主演)じゃないかという気もしてきましたが、こっちもこっちで大幅改変&横溝の別作品混じってる感強いな……
【『八つ墓村』】
思うてたんと違う??となった『悪霊島』ですが、気を取り直して『八つ墓村』へ。
こちらも尼子の落人を殺した伝説から「八つ墓村」と呼ばれるようになった村、二十数年前、津山三十人殺しモチーフな大量殺人を起こして消えた田治見家の先代当主、そして田治見家の後継問題が超こじれてる、なにかある度に「祟りじゃ!」と煽ってくる老尼……などなど、これぞ横溝正史!な設定です。
もちろん洞窟つき!!
映画化は4回、ドラマ化は7回。
市川崑の映画(1996年・金田一耕助は豊川悦司)がちょっと見たいですが、Wikipedia見ると、いずれも相当簡略化されている模様。
ま、原作、登場人物多すぎ&一族と田舎のしがらみがてんこ盛りすぎですからね……
横溝作品では『犬神家の一族』に次ぐ人気作品です。
開幕は、八つ墓村のいわれ&大量殺人の経緯の説明。
ラジオの尋ね人番組にお前の名前でとったぞと上司に教えられた主人公・寺田辰弥が、弁護士事務所を訪問すると、どうやら田治見家の先代当主の妾腹の息子やぞということになり、母方の祖父に引き合わされたと思ったら、おじーちゃん急死してしまうという展開から本編スタート。
が──
こっちはもっと思うてたんと違いました。
なにが違うか言うたら、視点人物がずっと寺田辰弥なんですよー!!
金田一も磯川警部も当然出てくるんですが、殺人事件が起きたら辰弥の証言取りに来るくらい。
『悪霊島』の方は、刑部家と一体化してる宿屋に金田一が泊まっていることもあって、色々関係者と絡めていたんですが、こっちでは田治見家とは別のところに泊まっているのもあって、そんなに出てこない。
そして、寺田辰弥の手記の体裁を取っているので、事件と関係ないことは飛ばされる。
田治見家で死人が出ました、お葬式しました、その次の段落でいきなり初七日の話になったりします。
葬儀から初七日の間といえば一週間あるわけで、この間、金田一は頭を掻きむしったり、磯川警部も色々仕事してたりするはずなんですが、辰弥はそんなん見ていないので、すぱんと飛ばされてしまう。
で、その結果なにが起きるかというと……
推理パートは少ないのに、バカスカ人が死ぬ!
わりと脈絡なく死人が出るんですが、この作品は毒殺が多い&田舎なのでみんなお互いの家を出入りしすぎ、セキュリティガバガバだから殺す機会がある者が絞り込めなくて犯人特定むずい!
大量殺人やらかした要蔵の子である辰弥は、そもそも村から浮きまくっているし、田治見家そのものが村から浮いている家ということもあり、情報入って来ない……
というわけで、「またしても何も知らない寺田辰弥さん」状態のまま、描かれている坊主が抜け出してくる画の謎やら、洞窟探検やら、最初はどうとも思わんかった従姉妹に懐かれてるうちにかわゆく見えてきた♡とか、埋蔵金やら母親の恋文発見!などなどで右往左往しているうちに、事件はわりと力技で終幕へと向かってしまうのです。
もともと横溝正史は伝奇系書いてた人ですし、伝奇要素を推理小説にがっつり盛り込みたかった、でも伝奇要素が多すぎて、金田一耕助の推理の片手間に展開できなくなって、伝奇パートは辰弥、推理パートは金田一と分かれてしまい、推理パートの方が後景に退いてしもうたんちゃうかという気もしました。
びっくりしたのが、解剖により「ある毒物」による殺害だとわかったとだけ書かれていて、結局なんの毒だったかようわからんまま終わること。
いや普通、毒物の名前出すよね!?
そんな感じなので、入手経路から犯人を絞り込む〜とかもないんです。
も一つ問題がありまして、辰弥はあくまで巻き込まれ右往左往なので、読者としてはだんだん「なんやようしらんけど、大変そやね……」って感じになってしまう。
葛藤とか、心理的なドラマはむしろ、辰弥の姉の春子とか、犯人の方にあるんだけれど、脇筋でちょろっと示唆される感じ。
犯人もその動機も、結構面白いんですけどね……
これ、倒叙だったらどちゃくそおもろかったんちゃうか、とか、異世界恋愛読みとしては春子視点の話読みたいわーとか思ってしまいました。
というわけで、読めば読むほど「横溝正史的な世界」が自分の中で空中分解していく流れになってしまっていますが、自分のやりたい要素を改めてしぼってみると
1)舞台設定のおどろおどろしさ
とりま、落人伝説的なアレな背景はほしいですよね!
2)二代三代に渡る因縁
『公爵令嬢カタリナの推理』で、祖母と父親の因縁が現在に響いて人間関係が歪んで殺人事件発生!っていうのをやってみたんですけど、やっぱりこういうのたーのーしーいー!
3)洞窟シーンはやっぱりいいよね!
おどろおどろ感が盛り上がります!
異世界恋愛ミステリだったら、城の地下にある秘密の通路とかカタコンベ的ななにかでもいいかも。
4)複数の殺人事件
公爵令嬢カタリナシリーズで、殺人事件を扱った『推理』『計略』『災難』いずれも、殺人事件は1回だけしか起きていないんですが、横溝世界観目指すなら1回だけだとやっぱり寂しい。
横溝某作品の8回とかはやりすぎですががが。
あたりですかね……
あと、厳密な整合性はそこまで気にしなくてもよい、傍証がそれなりにあり、犯行が可能で動機が割れればおkおkくらいの感じで緩めに考えてもよいのかも。
一応、自分なりに整理はついたので、改めて構想ねりねりしていきたい所存です。
今年度中にはお目にかけたいですが、どうなることやら……
【2023.8.23追記】
コメント欄で有理守先生に「異世界恋愛ミステリの参考にするなら、名家の令嬢の求婚者が殺される『女王蜂』はいかがでしょう」とご教示いただき、市川崑版(1978年)を見るるしてみました。
岸恵子の女家庭教師がめっちゃいい!
加藤秀の等々力警部(金田一を馬鹿にしてくる系警部)がノリノリでおもろすぎる!
などなど面白かったです。
あと、謎の男・沖雅也の顔がいい…ま、今の世の中ではNGー!それNGー!ってなる強引系ですが。
女性一人に対して求婚者3人て、実は『犬神家の一族』と同じで、これはこれで「横溝正史的なお話」の大事な要素なのかもです。