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18.S・J・ベネット『エリザベス女王の事件簿』シリーズ

2022年に96歳で崩御したエリザベス2世。

在位がちょうど70年というイギリス最長の在位期間記録を持ち、幼い頃から活発で利発。

第二次世界大戦中は義勇隊に入隊して、大型自動車免許をとってトラックの運転をしていたこともある、パワフル&キュートな人柄で知られています。

ちなみに、夫のエディンバラ公フィリップ(ギリシャ王子およびデンマーク王子)とは一目惚れ。

エディンバラ公の姉がナチスと関係のある貴族と結婚していたことで反対もあったそうですが、押し切って1947年に結婚。

現国王であるチャールズ3世、馬術でオリンピック出場&誘拐犯を撃退等々なにかとかっちょええアン王女、なんかやらかしたアンドルー王子、エドワード王子の三男一女に恵まれました。


で。そのエリザベス2世が、実は推理にも才能があり、ひそかに事件を解決していたー!というお話です。


今のところ邦訳は第一作『エリザベス女王の事件簿 ウィンザー城の殺人』、第二作『エリザベス女王の事件簿 バッキンガム宮殿の三匹の犬』の2冊が出ています。

英語版のウィキペディアみると、あと2作あるっぽい。


第一作『ウィンザー城の殺人』は、2016年設定の話。

ウィンザー城でロシアの新興財閥夫婦とか招いてお泊りつきの晩餐会をしたら、ロシア系のピアニストがクローゼットの中で死んじゃってたのが発覚!

最初はセルフお楽しみ中の窒息事故かと思われていたのですが、他殺という証拠が出てきてしまい、こんなん一般に漏れたらめっちゃ面倒くさいことになるので、秘密裏に捜査を進めるしか……という展開。


第二作『バッキンガム宮殿の三匹の犬』も同年設定。

女王が海軍基地に視察にいったら、昔、自分の寝室の前の廊下に飾っていたはずの絵がなんでかあった!王室の資産はデータベース化して管理しとるはずなのに、なんでこんなところに??ということで、調べさせているうちになにやらきなくさい話になり……という展開。


ですが、女王陛下がポワロ張りに関係者を集めて、犯人はお前だああ!とかやるわけにはいきません。

なにしろ女王陛下なので、秘書官とか警視総監とかMI5長官とかにも配慮しないといけない。

彼らの頭越しに事件を解決してしまったら、彼らは萎縮してしまうし、萎縮されてしまうと信頼関係が損なわれてしまうので、それはNGなのです。

特にMI5長官は、女王を「めっちゃ育ちのよい、なんにも知らないおばあちゃん」と思い込んでおり、上から保護目線がいちいち鬱陶しい。

いうてエリザベス2世、ロンドン大空襲を生き延び、即位以来自国の首相とは週イチで面談、ケネディともレーガンともプーチンともローマ法王とも会談しているし、世界最高峰に世慣れているのですががががが。

ま、「キュートで上品なおばあちゃん」てイメージ強いですからね。


もちろん、自分自身で犯行現場を見に行ったりとかも、いくら自分の城の中とはいえなかなかできることではありません。

しゃーないので、自分で調べられないところは秘書官補のロージー(ナイジェリア系の移民3世で、陸軍出身のつよつよ有能女子)や引退した元護官マクマランに頼んだり、専門家の助言が必要だったら友達のレディ・なんとかに頼んでお茶会にプライベートで招待してもらって、内密に話したりという感じで捜査するしか。


で、しゃーないので、ロージーやらマクマランに調べてもらって、そういうことか!ってなったら、適宜ヒントを出しておっさん共に「気づかせる」。

おっさん共は女王陛下に誠心誠意お仕えするのだああ!と強火ではあるのですが、ヤツらのメンツを潰さないためには色々考えてやらんとあかんのです。

何度もヒントを貰ってようやく真相に気づいたおっさん共が、「複雑な話なんで、陛下にご理解いただくにはどうご説明したらええんやろ…」と打ち合わせ&練習したりもしつつ(ちょっとかわいい)、ヒント貰ってやっと気がついたくせにドヤ顔しちゃったり。

女王陛下は知らん顔して聞いてあげますが、ロージーが噴いてしまうのもむべなるかな。


というわけで、かなり変わった推理小説なのですが、面白かったです!


以下、異世界恋愛ミステリに役立ちそうな要素をご紹介します。


1)「公務」の複雑怪奇さ

いやー、もう大変です。マジで大変。

日本の皇室だと春秋の園遊会が有名ですが、アレにしたって出席者のバックグラウンドを調べてもらってそれを覚えて、めちゃくちゃ準備して臨まれているわけじゃないですか両陛下および皇族方。

イギリス王室も同じで、叙勲式的なものもあるし、傷痍軍人会とかいろんな慈善団体とかなんじゃかんじゃなんじゃかんじゃでもう大変。

特に、バッキンガム宮殿に招くとなると、招かれた側は最高の体験を期待しますから、特に重要なイベントは会場のしつらえも含めて、女王みずから最終チェックしてたりしています。

地方公務なんかは、チャールズ皇太子&カミラ妃(当時)にだいぶ振ってるようなんですが、いやはやいやはや大変です。

しかも複数のイベントの準備を同時進行でマネジメントしないといけないし。

もちろんスタッフはたくさんいるんですが、スケジュールが押し押しで大変。

政治は政府が行い、王室は関与しない現代王室でもコレですからね……

国王が直接政治をしていた時代ってどうしてたんでしょう。


2)巨大な組織のトップとしての「女王」

本宅に相当するウィンザー城で勤務している人が500人、という説明が出てくるんですが、バッキンガム宮殿、バルモラル城(スコットランド・夏の離宮的なところ。崩御したのはココ)にもぞれぞれ相当数いるはずで、合計何人になるんだろう。

職種も多様で、女王を支える秘書官・会計官・護衛官などが互いに協力しあいつつ、美術品の管理官とか専門職も交えて仕事を回している模様。

秘書官とかは、お城の中の従業員用アパートメント〜屋根裏部屋的なところに住み込んでるようです。

職種にもよりますが、激務&さまざまな交渉で細かく神経を使う仕事なのでもう大変!

なので、互いに信頼しあって、モチベーション高く取り組まないとあかんのです。

なんですが、人がようけおると好き嫌いとか揉め事とか発生しがち。

そういう揉め事は、女王のお心を煩わせてはならんと見せたがらない人が多いので、女王の方が気がついて、軌道修正しないといけないところは修正せんとあかんのです。

大変だ\(^o^)/


3)特別な存在としての「女王」

なろう異世界恋愛では、ポンコツ王太子とか、ポンコツ王太子を甘やかしたり、逆に即見切りをつけて廃嫡&挿げ替えしちゃう国王夫妻とかそんなんばっかり出てきます。

ま、実際にはルードヴィヒ2世のようなキテレツ王族もちょいちょいいるので、なろう異世界恋愛的な王族像がありえないとか間違っているとか言うつもりはないのですが。

王族ならではの尊さ的なものが描かれた作品て、王族がよく出てくる割にはあんまりないんですよね。


実は私、今の上皇様が譲位される前、生で見たことがあるというか、なんちゅうことはない道路際がちょいと人だかりになっていて、警官もおるけどなんじゃろう??と寄ってみたら、上皇様がお車でゆっくりめに通られたことがありまして。

公務ではなかったようなんですが、窓を開けてにこにこにこーっとお手振りしていただいて、ほげえええ!?ってなりました。

0.1秒くらい当時の天皇陛下と目があったと思うんですけど、異様な感覚でした。

とても言語化しにくいんですけれど、一瞬、すれ違った相手一人ひとりがそこに存在していることを、陛下は全力で喜んでくださっている、という直観というかなんというか。

こんなことを、この方は何十年も毎日毎日やっていらっしゃるのかと驚倒いたしました。

尊い。尊さの極みでございます。

神ではなくなった天皇がなぜ特別な存在であり続けているのか、よくわかりました。


エリザベス2世もまた、特別な存在。

イギリス人にとって、また外国人にとっても、女王と対面するというのは特別な経験なのです。

第二作の終盤近く、どさくさに紛れて殺されてしまった被害者の遺族を彼女は城に招きます。

短い時間なんですが、天涯孤独になってしまった遺族を女王はもてなして、故人やその父の業績を称え、改めて勲章を授ける。

そのことで、世の中との糸が切れてしまったようになっていた遺族は、力を取り戻すという展開になります。

ここ、遺族視点で描かれていてめっちゃよかったです。

第一作でも、遺体の引き取り手が現れないロシア人のピアニストを、まぁまぁベターな形で葬って関わりのあった人と一緒に悼むという場面がありました。

何曲か演奏を聴いて、一曲踊っただけの赤の他人なんですが、でもその人がいたということを大切にするんですね。

世の人々を包摂し、支える力というものが、王族や皇族を特別な存在にしているキラキラの素だと改めて思いましたです。


なかなか体感する機会がないものではありますが、こういう「特別さ」が描けると、王族・貴族の話を書く甲斐があるんちゃうかなーと愚考したりするのです。

自分ができているかというと、あんまりやれてないですけどね\(^o^)/


リアル重視系の推理小説ですが、なにはともあれ面白かったです。

女王の少女時代の事件の話とかもはよ…!

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― 新着の感想 ―
[一言]  琥珀先生、こんばんは!  またまた楽しそうな作品をご紹介いただき、ありがとうございます。  「ウィンザー城の殺人」図書館で予約できました。三連休で読めるかな? 楽しみです。  ロンドンオリ…
[良い点] 三匹の犬、読んでました! なので思わず書き込みに来ました。 ウィンザー城の殺人は入手できず、未読ですが……。 人間関係も密ですけど、日常生活のちょっとしたやりとりがなんともいいシリーズで…
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