17.「レディ・ヴィクトリア」シリーズ(篠田真由美)
以前、『琥珀の城の殺人』を読んだときに、篠田真由美がどうやら19世紀末のロンドンを舞台にしたシリーズを書いていると知って、一気読みしてきたのですが……
なんか……not for meだった……
異世界恋愛のベースの一つである後期ヴィクトリア朝の世界観で、女性主人公でミステリという、私がまっしぐらにくらいつくタイプの話なのに、なんでダメなん!?!?
ということで、他山の石として、どこがノリきれなかったのか雑にまとめてみたいと思います。
このシリーズがお好きな方がいらしたら大変恐縮です。
(1)登場人物の設定が理詰めで、なんかノレない……
視点人物はメイドのローズなことが多いのですが、メインヒロインはレディ・ヴィクトリア。
小柄かわゆい系の彼女は子爵の未亡人で、少人数の使用人に傅かれながら、ギリ中の下が住むタウンハウス(貴族の首都用邸宅じゃなくて、幅の狭い家がずらっとくっついた長屋形式の方)を5軒分ぶちぬいた家で暮らしてます。
使用人のメンツは以下の6名。
・執事(アイルランド出身。なんか昔は武闘派だったっぽい)
・従僕(インド出身。同上)
・侍女(いわゆるレディーズ・メイド。フランス人。同上)
・コック(中国人)
・メイド(黒人の少女・ヴィクトリアの乳母の孫)
・メイド(前述のローズ。田舎育ち)
+アメリカのピンカートン社の探偵が、うろちょろと出入り。
大英帝国の版図(中国は一応違うけど、アヘン戦争後なので)+アメリカも入れてワールドワイドな感じですね。
ちなみにレディ・ヴィクトリア、元はアメリカ南部の大農園主の娘で、パリにいたときに実家が南北戦争で吹き飛び、その後当時妻帯者だったイギリスの子爵(あちこち大旅行するのが好きな人)と知り合い、子爵の妻の死後、結婚したけど死に別れたという人。
今は子爵位は最初の妻の息子が継いでいるので、「レディ」の称号は息子の嫁に行って、子爵の未亡人ではあるけど正式にはもうレディではないという設定になっております。
なんですが、この「チーム・ヴィクトリア」は、メイドのローズが来た時にはすでに出来上がってて、なんというか相互の絆というか、ケミストリー的なアレがあんまり描写されているわけでもなく。
もしかしたら、一人ずつ加わっていくプロセスから読めればもうちょっとチームとして面白がれたのかもしれませんが、ちょいちょい過去の匂わせが入ったり、中国人コックの過去の因縁回とかもあるものの、なんつーかなー…ノレねえな…と思ってしまいました。
あと、使用人の皆さん、レディ・ヴィクトリアにやたら強火なんですけど、なんでこんなに強火なのかいまいちわからん。
フェアな主人で、使用人の負担を減らすように省けるところは省いてくれてるし、ちょうかわゆい系の人ではあるんですが、忠誠ってそれだけでは出てこないじゃないですか。
そこが私にはわからなかった。
これが一番アレかもしれません……
(2)当時の風俗習慣の描写は緻密なのに、リアリティがなんか肝心なところでほんわり
読んでてちょいちょい引っかかったのが、ローズの視点から書かれているのに、ローズの設定からするとこういう反応になるんかな?というところ。
ロンドンから鉄道で直接行けるレベルとはいえ田舎町は田舎町。
たぶん、ローズにとって、同僚たちが初めて見るフランス人インド人黒人中国人だったと思うんですよね。
今の子でも、ちょっと面食らうと思います。
ましてや、19世紀後半ですからね…
なにか特別な背景でもない限り、それなりの摩擦というかストレスというか偏見というか色々あってもおかしくないんですけれど、そういう描写がほとんどないまま、普通に仲良くなってて、ちょっとびっくりしました。
視点人物がローズでなければ、良かったかもですががががが。
あと、ローズの教育レベルは小学校相当、ついでに新聞や雑誌を読む機会はあまりなく、兄がちょっと読みきかせ的なことをしてくれたくらいなのですが。
これは小学生レベルではわからんやろと思うような文語表現を言われてもつるっと理解していたり、逆にここはわかりません、なんですか?とか聞き返したり戸惑う場面がないんですよね。
ローズは一応、屋敷の本を読んでもいいですよとは言われているんですが、実際に読んでいる場面はほぼなかったです。
新聞雑誌や本などを辞書を使いながらor人に聞きながら読む場面が一瞬でもあれば、引っかからなかったかなとは思うんですが。
すごい細かいことを言うてる気もするんですが、例えば19世紀頭の話なのに自動車が唐突に出てきてなんの説明もなく走り去っていくような心地がいたしました。
視点人物でこういうことをやったらあかんなー…ほんとにあかんなー…と思いました。
まーあと、レディ・ヴィクトリアの敵というか勝手に逆恨みしてる勢も、「そういう設定の人ならそういう行動は取れんじゃろう」としか言いようがないことをやらかしたりし……
衣装であったり、使用人の階級であったり、そういうところは緻密に説明されていて、勉強になるんですが、「この設定の人物では、できないこと」を十分な説明なしにさせてしまうと、結局リアリティがないという印象になってしまうんですよね……
(3)一番やりたいことをぶつけてない(と思う)
一応はミステリというか、あんまり謎解き要素は濃くないので、サスペンスというかそのへんの感じなのですが。
最後の5作目のラストで、切り裂きジャックの匂わせが出てくるんですよね。
切り裂きジャックといえば、王族の一人が犯人だったという説があったりするんですけど、わざわざ多人種の使用人たちを設定してなんじゃかんじゃやってきたのは、アメリカ生まれの「レディ」&このチームが大英帝国の闇に切り込む的な展開がしたかったんじゃないかなと思いました。
ですが、その前に中途半端なところで試合終了。
執事とか侍女とか従僕とか色々背景を匂わせつつ、そのまんま……
仕事でも報告書的なものを書くことがあるんですが、自分が言いたいことをがっつりぶつけるのって、意外と難しいんですよね。
読み手or聞き手としては、「めんどくさいんで結論から4649!!」ってめっちゃ思うのに、自分が書く時にはどうも臆してしまう。
本当に伝えたいことを伝えるには、蛮勇を持って書かなきゃいけないんだよー!と思いつつ、なかなか作品でも仕事でも書けておらんのですががががが。
大英帝国の闇が絡んでる版の切り裂きジャックvs.アメリカ生まれのコスモポリタンな前子爵夫人+多人種チームだったら、ホームズで19世紀末ロンドン刷り込まれている人には興味を惹かれる話になってたんじゃないでしょうか。
少なくとも私は絶対読みたい。
そのへんの話を第一作に持ってきて、その後、謎の秘密結社とかなんじゃかんじゃ展開していかれてたららららら……と思うと、もったいないなーと思いました。
今回の結論:蛮勇大事
ということで「19世紀後半のイギリス文化の勉強にはなるけど、面白いか言われたらちょっとnot for meだった……」というシリーズでした\(^o^)/
書くということは難しいんやなということで、ここは一つ……(雑なオチ)
 




