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15.リース・ボウエン『英国王妃の事件ファイル/貧乏お嬢さま、メイドになる』(2008)

 たまったま、普段行かない地元図書館の分館をうろついててめっけたコージー系ミステリのシリーズです。

 コージー系ということで、ヒロインが巻き込まれて右往左往してたら、なんかわかっちゃった!的なライトミステリなので、推理ガチ勢にはあんまりオススメできないですが、いろいろおもろかったので。


 時は1932年、場所はイギリスのロンドン。

 ま、だいたい映画「英国王のスピーチ」の前半あたりと思ってください。


 ヒロイン・ジョージーはラノク公爵の妹。

 スイスの花嫁修業学校を出て、社交界デビューもした芳紀21歳の公爵令嬢。

 ヴィクトリア女王の曾孫で、イギリスの王位継承権34位を持つガチお嬢様。

 正式な名前は「グレンギャリーおよびラノク公爵の娘、ヴィクトリア・ジョージアナ・シャーロット・ユージニー」。

 って長いわ! 履歴書に入らんやろ……


 ラノク公爵家、ヴィクトリア女王の娘の一人が、スコットランドの貴族に降嫁、それに伴い公爵になったという設定のお家柄で、父は国王ジョージ5世の従兄弟、王太子デイヴィッド(後のエドワード8世)、その弟バーティ(後のジョージ6世)などなどはジョージーの又従兄弟。

 ちなみにラノク家は相当な脳筋一族で、「片腕を切り落とされたけど、もう片方の腕で剣を拾って戦い続けた」とか、「身体が穴だらけになるくらい撃たれたけど、5人殺してから死んだ」とか、十字軍以来、有名な先祖はそんなのばっかりの模様です。


 んが、ジョージーの母に捨てられて以降、父は、モンテカルロあたりで賭博にハマり。1929年の世界恐慌で資産を吹き飛ばして猟銃自殺。

 それでなくても家が傾いていたのに、巨額の相続税を払う羽目になってしまい、とりあえず先祖伝来のラノク城(エリザベス2世が亡くなったバルモラル城の近所)と最低限の地所は死守したものの、お金がない!


 異母兄のビンキー(本名はヘイミッシュ…なんでこんな変な呼び名なのかわからんですが)との仲は悪くないのですが、ジョージーの母は庶民出身の女優だったこともあり、ビンキーの妻のフィグ(本名はヒルダ。だからなんでこんな呼び名…)は、「くっそ学費高い学校出させてやったんやし、義務はもう果たした!うちにはお金ないんや!さっさと嫁にいけ!ルーマニアの魚顔のナルシスト王子ジークフリート(ゲイ疑惑もあり)とか、ちょうどええぞ!」とか、まあまあアレな扱いを受けててしまい。

 とりあえずラノク城を出て、ロンドンのラノクハウスに一人で移るのですが、メイドを雇う金もないし、なんなら食費すらヤバい…と思っていたら、なんでかメアリー王妃に召喚され、「王太子デイヴィッドと不倫してるウォリス・シンプスンの動向を探れ」とか「バイエルンの王女を預かり、巧いことデイヴィッドとくっつくように段取りつけれ」とか、ヤバいミッションを無茶振りされて奔走する羽目になるのです。

 というのが、基本的な流れ。

 それにしても、エドワード8世、よく考えたらそのへんの「なろう異世界恋愛バカ王太子」よりも、やらかし度がエグいですよね……


=良かった点=


1)みんな大好き!「ちょいポンコツ&けなげなポジティブお嬢様の一人称小説」


 不愉快な男性と結婚するか、ラノク城で義姉に嫌味を言われながら甥の家庭教師代わりにされるか、それとも高齢の王女の侍女になるしかの三択しかないジョージー、わりと詰んでいるのですが、基本陽性なので楽しく読めます。

 隙あらば義姉にもやりかえすしね!

 あと、狂乱のジャズ・エイジなので、性的にめちゃくちゃなキャラが大量に出てくるんですが、高身長&「健康的」なジョージーはそのへん慎重タイプなので、ご安心を。

 ガチお嬢様なので、たまーに何が起きているのかよくわかってなくて、気がついたら大ピンチになってますけど\(^o^)/

 あとやっぱり、使用人に傅かれて生きていた人が、いきなり一人暮らししようと思ったら、どこが大変なのかとかディテールが面白い。

 第一作とか、暖房用の火の熾し方がわからなくて、人に教えてもらって、石炭を地下?の倉庫 (しばしば、蜘蛛がたくさんいるらしい)から取ってくるとこから始めるんですけど、専用の道具とかあって、これどうやって使うん??とかもう大変。

 1930年代なので、自動車もあるし電気も電話もラジオもあるのに、まぁまぁ異世界です……


2)レギュラーキャラがおもろすぎる


★義姉フィグ

 ジョージーの兄の奥さん。

 暖房費や使用人の人件費をとにかく切り詰めたがるケチケチキャラだけど、フォートナム・アンド・メイソンのジャムを買うのはやめられない。

 母親が女優のジョージーより、公爵夫人でそれなりの名家の出である自分が上だと思ってるけど、王族に親戚扱いされるのはジョージーなので、ジョージーが「王妃様にお茶に呼ばれてる」とか言うと、自分は呼ばれないのに!ムキー!となるのがお約束。

 ちなみに、兄自身は悪い人じゃないけど、ちょいぼんくら気味。


★親友ベリンダ(セクシー系美人)

 スイスの学校時代の友達で、準男爵の娘。

 21歳を機に財産の一部を分与してもらい、小さなコテージを買ってメイドを一人雇って一人暮らし中。

 ファッションデザイナーもどきとして自活してることになってるけど、イケイケ遊び人。


★ジョージーのママ

 ベリンダの上位互換。

 労働者階級出身の女優で、妻を亡くしたラノク公爵と結婚。

 社交スキル高くて、わきまえた振る舞いをしていたので、王家にも一応受け入れられていた模様。

 が、ラノク城の僻地っぷりとか隙間風っぷりとか諸々に耐えかねて、ジョージーが2歳のときに出奔&離婚。

 以降、カーレーサーとか探検家とかアメリカの富豪とか、ドイツの実業家とかと結婚したりしなかったりしつつ華麗に人生を満喫中。

 ジョージーとしてはもっと甘えたい気持ちはあるのだけど、ママは殿方の間を飛び回るのに忙しいので諦めがち。

 せつない。


★ウォリス・シンプスン(実在)

 いわゆる「王冠をかけた恋」で、エドワード8世を退位させたアメリカ人の人妻(後に結婚)。

 ジョージーをディスってきたり、ジョージーのママとやり合ったり、なかなか大変な人。


★おじいちゃん

 母方の祖父。

 元警官の常識人。

 肺とかあちこちがよろしくないお年頃なのですが、それでもジョージーのためにあれこれ頑張って助けてくれる神。

 ラノクハウスに使用人がいないのをごまかすために執事のふりをするとことか、おもろすぎ。

 というか、うっかりおじいちゃん死んじゃったりしたら、マジで泣くので、作者様はそれだけは勘弁してほしい。


★メアリー王妃(実在)

 ジョージーに無茶振りしてくる王妃様。

 どんな無茶振りでも、彼女に頼まれたら断れないという謎の能力持ち。

 ジョージーにお金がないとか想像もしていないので平気で無茶振りしてくる……

 ちなみに王妃様とのお茶では、いろいろお菓子を出されても、王妃様が食べたものだけ食べるのがマナーらしく、美味しいものに飢えているジョージーは涙目になりがち。

 この王妃様、骨董品収集が趣味で、うっかりええもん見せると、献上すると言うまで褒めちぎり倒す悪癖があり、王妃様がうちの城に来るなら大事なものは隠すように言わないと!とかジョージーが焦る場面があるんですが、ウィキペディア見たらマジでそういう人だったらしくてびっくりでした。亡命ロシア貴族とか、家宝わりと持ってかれてもうたそうです…乙…


★謎の紳士

 ジョージーの相手役となる紳士がいたりするのですがああああ、第一作のネタバレに直結するので自重。

 ま、彼をめぐって、その後数巻に渡って、もだもだが大発生するので、お楽しみに!


 という感じで、それぞれキャラが立ってるだけでなく、全体的なバランスもよい感じです。


・ひたすら引っ掻き回してくる枠

 王妃様とシンプスン夫人。

・引っ掻き回すけど、助けてくれることもある枠

 ベリンダとママ、謎の紳士、後の巻から出てくるメイドのクイーニーなどなど。

・圧倒的に助けてくれる枠

 おじーちゃん&おじーちゃん関係者。


 なんかこのへんのバランス、黄金比とかありそうな気がしました。

 ついでに言うと、ノエル・カワードとか、ココ・シャネルとか有名人も出てきます。

 第17作『貧乏お嬢さまと毒入りタルト』では、アガサ・クリスティと二番目の夫マローワンも登板!


3)ラノク城やロンドンのラノクハウス、王宮関連施設とかの描写


 第一作の冒頭は、スコットランド高地地方の湖のほとりにあるラノク城から。


 抜書しても、なんかちょっと意味がわからないのですが……

・巨大な煙突のせいで、年中風のうなりが凄い

・トイレは天井が高くて、タータンの壁紙が貼られた広い洞穴みたいなところ(吹雪が吹いていようが、常に窓はあけっぱなし)

・夜明けのバグパイプ演奏で叩き起こされる

・なんなら先々代公爵の幽霊がバグパイプ吹いてる

などの描写があり……


 特にトイレ、いったいどういうこと!?


 ま、とにかく、兄のママが早逝したのも、ジョージーのママがとっとと出奔したのも、ラノク城に年の半分はおらんといけんからや……とかジョージーは独白したりしています。

 乗馬、狩り(期間限定)、散歩くらいしかやることがないので、たしかに社交界でちやほやされるのが本業のママには無理ゲーだったんではないか感はある。


 7作目の『貧乏お嬢様と時計塔の幽霊』でケンジントン宮殿に、ギリシャの王女の付き添いとして滞在する場面があるのですが、外部の人が見学できる展示室のわりと近くに、公務から引退した老齢の王女(ジョージーの大叔母様)が暮らしている区画があったり、どういう造りになっているのか謎。

 こちらには、ソフィア王女の幽霊やら、昔の王様がかわいがっていた子供の幽霊が普通に出ます。


4)料理や酒の描写が巧い

 ジョージーは料理がまったくできないので、ベイクドビーンズの缶詰開けてトースト用意するのが精一杯。なので常に美味しいものに飢えており、美味しいものに巡り合ったときの感動とか、あーアレが食べたい〜という描写が濃ゆめ。

 おじーちゃんのお隣さんの未亡人が料理上手な人で、いろいろ食べさせてもらったりです。

 まずいまずいと評判のイギリス料理ですが、家庭料理は普通に美味しい模様。

 あと、クランペット食べたいクランペット食べたいとジョージーがうるさいので、クランペットを出すカフェを探して行ってみたら、たしかに美味しかったです。

 イーストで発酵させた柔らかい生地を、上下に割ったイングリッシュマフィンくらいの大きさに焼いたもので、パンとパンケーキの中間というか、もちっとした感じ。

 あと、ちょいちょい出てくるダンディ・ケーキとかいうのが気になってるので、こちらもどっか食べられるところを探してみたい所存です。西荻窪になんかイギリス料理を出す店があるっぽい。


=もったいない点=


 ただこのシリーズ、邦題の付け方があまり良くないのががががが。


 たとえば、第3作までを並べると、


第1作『貧乏お嬢様、メイドになる』:HER ROYAL SPYNESS ※Her Royal Highness(妃殿下)

第2作『貧乏お嬢様、古書店へ行く』:A ROYAL PAIN ※イライラする痛みという意味のスラング

第3作『貧乏お嬢さま、空を舞う』:ROYAL FLUSH ※ポーカーのロイヤルフラッシュ


 となってます。

 ロイヤルという言葉が入っているのを示すために、英国王妃の事件ファイルというシリーズタイトルをつけてるのかなとは思うんですが、王妃様からの無茶振りがきっかけになってるのはなってるけど、かなり違う気ががが…


 第一作では、ジョージーは「しばらく留守にしていたロンドンの邸宅に戻ってくる時に、家具の覆いを外して換気するなど簡単な準備をするサービス」をなんちゃって起業。作業するのは彼女自身ではあるけど、メイドになったわけでは一応ないし、なんだかなぁとなりました。

 第二作では、ジョージーが古書店に行く場面はたしかにあるんですが、メインのシーンではないし、ぶっちゃけなんでこのタイトルにしたのかさっぱりわからない。

 第三作では、飛行機のシーンがクライマックスなんで、まぁまだマシかな……でも本質的なところを巧くほのめかすタイトルの方がいいよね……


 翻訳自体は、私は読みやすくて好きなんですけどね。


 とりあえず、翻訳は16作目まで出ているようなので、ぷちぷち読んでいきたいと思います。

 ラノク城のトイレが一体全体どういうことになってるのか、読んでも意味わからんので、アマプラとかでドラマ化してくれんかのー……


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