10.映画「エリザベート1878」(2023)
https://transformer.co.jp/m/corsage/
予告編面白そうすぎて、観たいなーと思いつつ、あんまり上映しとるところないし、配信待ちかな…いやいやいや、アマプラが配信するかどうかわからんぞこれはということで、急遽観てきました。
タイトルでわかる通り、オーストリア皇后エリザベートが40歳の1878年を描いたものです。
原題は「Corsage」。コルセットという意味のフランス語です。
エリザベートはヨーロッパ宮廷一の美人と言われた女性で、身長172cm、ウエスト51センチで体重は生涯43〜47kgだったと言われています。
もちろん維持するためには、一日三回体重とかウエストとか計測してチェック、食事はオレンジを一切れとか厳格に制限、乗馬とかフェンシングとか運動もがっつりやって、部屋には吊り輪体操用の吊り輪があったり、ダンベル転がっていたりという描写が映画でも出てきました。
エリザベートの影武者を侍女が務めるために、前夜からご飯抜いて、コルセットを締め上げるんですが、短時間でも耐えきれず、すぐ引っ込んで速攻吐きながらコルセットを緩める場面とかもあり、いや普通はそうなるよ…となりました。
このエリザベート、もともとは皇后になるとかそんな予定は一ミリもなく、フリーダムに育てられてきていたのに、皇帝フランツ・ヨーゼフが、ガチ一目惚れしてしまい、1年くらいお妃教育詰め込まれて速攻皇后になった人なのですが、案の定王権神授説堅持のガチ保守派な夫&姑と全然あわず、ウィーンの宮廷を嫌って、地中海周り〜イギリスとかを転々と旅して回り続け、「流浪の皇妃」と呼ばれたりした人。
ちなみに、エリザベートは女優のカタリーナ・シュラットをフランツ・ヨーゼフに紹介して、三人、異様に仲が良かったという謎エピもありますが、カタリーナと出会うのはもっと後なので、この映画には出てきません。
映画は、エリザベートが40歳になる直前から。
序盤、皇帝夫妻が視察に行く場面があり、少年合唱団がお歌を歌って出迎えてくれるんですが、「いつまでも美しい皇后が、偉大な皇帝を支えてハピエンハピエン!皇后陛下万歳!皇帝陛下万歳!」みたいな歌詞で、うへあな気持ちに。
そんで会う人会う人、とにかくルックスを気にさせるようなことばっかり言う。
もちょっと言うと、皇后がハンガリー贔屓なことが気に入らなくて、わざと嫌味言うてくるヤツもおる。
なんか言うたら、まためんどくさいことになるので、もう喋らずにニコニコし続けるしかない。
ま、とりあえずこの公務はやってらんねえということで、エリザベート、急に失神したふりをしてバックレます。
「美しいお飾り」であることだけを期待されているのだけれど、エリザベートももう40歳。
美しさを維持するのがたいがいしんどいと言うか、過度の食事制限してハードトレーニングしてってやっても、もう無理無理無理、てなっているのだけれど、やっぱり期待されるのは「美しさ」。
そしてウィーン宮廷の基準で「皇后らしく」振る舞うこと。
長年のプレッシャーで、エリザベートの認知もたいがい歪んでしまっており(というか、史実のエリザベートは完全に摂食障害ですよね)、自分を崇拝している青年を誘惑しにかかる?風にとれる場面があるんですが、そこで「私を見つめるあなたを見ていたい」とか平気で言い、エリザベートに岡惚れして、婚約を先延ばしにしていた青年は、この人全然俺自身のことはどうでもええんやなと気づいて、超絶望で終わるというなんともなシーンも出てきます。
ちなみに、エリザベートといえば従兄弟の息子にあたるバイエルン王ルートヴィヒが出てくるのがお約束ですが、なかなかにエロい感じのルートヴィヒとの間には愛はあるものの、彼はガチゲイですので、行き場はまったくなく……
で、さらにきっついのが、子どもたち(皇太子ルドルフと末娘のヴァレリー)が成長したために、彼らからも「皇后らしくしてほしい」プレッシャーかかってくるんですよね。
これはマジで辛い。
そもそも、フランツ・ヨーゼフが「君を愛することはない〜」的なビジネス夫だったら、色々期待されてもそんなん知らんがなで切り離しやすいんですが、フランツ・ヨーゼフはエリザベートのことをめっちゃ愛してるんですよ。
彼女がなにをどう感じているのか、全然理解できないんだけど、とにかく愛している。
そのことはエリザベートもわかってる。
そんで、エリザベートがフランツ・ヨーゼフが嫌いとか憎んでるとかなら、まだマシなんですけど、好きか嫌いかで言えば明らかに好きだし、やっぱり愛してるんですよね。
でも、彼の期待には応えられない。
子供たちもめっちゃ愛しているけど、やっぱり期待には応えられない。
つら! なにもかもつら! もう無理!!!
と、完全にこじれきってるところに、医者が「無害デス」「痛みや苦しみが減ります」と勧めてくるのがヘロイン。
実際、19世紀には毒性がまだよくわかってなくて、普通に乱用されており、史実でもエリザベートはヘロイン使っていたようなのですが。
そうは言うてもヘロイン使いだしたら色々ヤバいですよ…というわけで、エリザベートはどんどん壊れていきというか、壊れることで解放されていきというかそんな方向になってしまいます。
ほんと面白い、美しい映画でした。
おすすめでございます。
ところで、異世界恋愛書きとしての教訓はなんでしょうね。
愛しているが故に、しがらみがしがらんでノーフューチャーというような濃ゆい話は、なろう異世界恋愛ではほぼほぼ見ないというか、水上栞先生の「背徳の画家ミロスラヴとそのパトロネス」(https://ncode.syosetu.com/n2037ht/)くらいしか覚えがないし、その水上先生がプロフィールに「なろうのテンプレから100万光年くらい外れた、こってり重たい小説を書いてます。薄味がお好きな方はご注意ください。」てお書きになってるくらいで、ほぼほぼ別ジャンルの作品ではあるのですが。
以前、うすうすなテンプレ婚約破棄物がなんでこんなに読まれるのか問題について、輪形月先生が「スパダリの対偶」第7回で、「女性に愛されることを当然とみなし、その奉仕、労働を要求するバカ王太子」は、女性読者の夫(通称「産んだ覚えのない長男」)的ななにかではないかと指摘をされており、わかりみが深すぎて床がすこーんと抜けた心地がしたのですが、テンプレって読者の無意識的なニーズに応じて流行しているもののはずで、ということは、女性の生きづらさというかそんな部分を巧いこと刺して、ストレスが解放されるようなほにゃららを書くとよろしいのではないかという算段もありえ、生きづらさ的なほにゃららとはなにかを考える上で、この映画はめっさ役立つのではないかとも思ったりです。
いうて私は異世界恋愛ミステリ書きになってしまったので、新たな異世界恋愛テンプレ創出は読者の皆様にぶん投げですがーー!
あ、そうだ。舞踏会シーンはないのですが(晩餐会シーンはあります。皇帝夫婦が二人で晩飯を食べる時は長いテーブルの端と端なのだけど、晩餐会だと向かい合わせに座るので逆に距離近いの面白かった)、オーストリア皇帝一家の日常生活はがっつり描かれておりますので、特に侍女・従僕の動き方などリアリティある描写をする上で参考になると思います!!!!(雑なオチ)
<メインテーマ曲>
camille · she was *corsage trailer song*
https://www.youtube.com/watch?v=Ekn3viO0FKA
 




