1.サラ・ウォーターズ『荊の城』(2002)
初回は、歴史犯罪小説サラ・ウォーターズ『荊の城』(2002)。
原題は「FINGERSMITH」。
俗語として、助産婦の意味もあるそうですが、指-職人でスリ師の意味もあり、読んでいくと、「ああああ、たくさんたくさん意味を重ねとるタイトルなんやな!!!」ってなります。
CWAヒストリカルダガー賞受賞&BBCでドラマ化(ヒロインはサリー・ホーキンスが演じてるらしくてめっちゃ観たい…)、あと、韓国で『お嬢さん』(2016)として植民地時代の韓国を舞台に変えて映画化もされています。
アマプラで『お嬢さん』が気になって、つい原作から先に行ってしまったパターン。
韓国映画、暴力描写が妙に生々しくてあびゃーってなる作品が多いので、見るかどうするか迷ってますが。
19世紀なかばのロンドン。
下町の盗品買取屋で育った少女スウは、紳士な詐欺師リチャードに誘われて、田舎の古城「ブライア城」で暮らす令嬢モードの侍女として潜り込むことに。
モードお嬢様、伯父のもとで寂しく暮らしているのですが、結婚したら1万5000ポンドの遺産が貰えるとかで、リチャードがモードと駆け落ち結婚し、モードを精神病院に放り込んで財産を奪うのを手伝えば、3000ポンドの分前をくれるというのです。
スウを大事に育ててきたサクスビー夫人も賛成し、「ブライア城」に向かうことに。
慣れない環境に四苦八苦しつつ、なにしろ3000ポンドがかかっていますので、生粋の世間知らずなお嬢様のモードとの距離を縮めていくスウなのですががががが…というお話。
【良かったポイント】
・ディケンズ的世界観からのガチ百合R18展開…からのどんでん返し!
・ラスト、ほんとに良いです!
・ママ…(´・ω・`)
・モードの伯父さんがクソ過ぎて燃やしたい
・↑の絡みで、フェミニズム文学的な側面も結構ありますが、作品世界と一体化していて、なるほろ…なるほろ…となります
女性には財産権も参政権もないのが当たり前だった時代から、どうにかこうにか現状まで持ってきた先人に感謝…圧倒的感謝…
【ためになったポイント:別視点もやりようによってはダルくない!】
この作品、視点人物が何度か切り替わってます。
で、視点人物が切り替わる場合、
①A、Bと視点人物を変えながら時間を先に進めていくパターン
②Aが語った流れを、Bがもう一度語りなおすパターン
③「Aが現在を語り、続いてBが過去を語る」みたいに視点人物と時系列をシャッフルしていくパターン
とあるかと思います。
なろうでよくあるのは②の語り直しですよね。
正直コレ、Aの語りでわかってることをBが繰り返してるだけのことが多いので、基本飛ばすんですけど(非情)、この作品の場合は②の仕掛けがめちゃくちゃおもしろかったです。
どうして面白かったかと言いますと…
・どんでん返しかました直後に、視点人物の交代&語り直しになるので、どうしてこうなったのか知りたい気持ちがMAXになっている状態
・Aの語りとは矛盾していないし、あーここが伏線だったのかーとか回収しながらも、Aの語りでは推測不可能な超展開
・語り直しになる必然性がもりもりある(特に下巻で、あああああ!ってなる)
むしろ、この作品は②にしなきゃいけない作品なのかなと思いました。
②の語り直しはおもろないなーと自分の中で勝手に外してましたが、そんなことは普通になかったという…
必然性、大事ですね。
そういえば繰り返しが超効いている作品としては、圧倒的に泡坂妻夫『湖底のまつり』よなーとか思い出し、初めて読んだときはほんとに腰が抜けたので、生まれ変わって記憶をリセットしたらもう一回読みたい…とかよくわからんことを口走りつつ、この回雑に〆でございます。
=2023/1/20追記=
結局『お嬢さん』観ました。面白かったです。
・ディケンズ感は捨てて、ガチ百合度大幅増量! ぼかしは入りませんが、フルヌード情交シーンやら隠語連呼シーンがございますので、家族と見るのは1ミリもオススメできません!!
・お嬢様役のキム・ミニが松嶋菜々子っぽい一見おっとりお嬢様、侍女役のキム・テリがちょい野性味ある元気な少女で良かった良かったでした。
・衣装も美術もめっちゃ良かった。一部は三重県桑名市の六華苑(鹿鳴館やニコライ堂を設計したジョサイア・コンドルの洋館と和風建築が合体した超豪邸)で撮影したそうです。いつか見に行きたいな六華苑…
・残虐シーンはありますが、まあちょっと目をつぶっとく方向で…
・原作を踏襲しつつ、違う展開になっていくのですが、詐欺師の「紳士」&クソな伯父も掘り下げてあり、そのへんも良かったです。