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牢獄ノ中デ

 気がついたときは俺は牢獄のようなところにいた。

 えーっと…俺、何したっけ?

 

 さっきのことを思い返す。

 

 ピリっとした感覚の後…そっか、俺、多分気を失ったんだな…

 さすがにここまで来ると、映画にしてはちょっとおかしいと思い始める。

 そういえば美春はずっと張り詰めた表情してたっけ。鈍感なのは俺だけか?

 しかし、俺は牢獄の中とはいえ体に異常は感じられない。俺の事は大丈夫そうだが…美春はどうなっただろうか。

 俺と同じに牢獄に入れられてないだろうか…あの男…鋭い目をしていた。痛めつけられてたりしていないだろうか。

 

 薄暗いここは、全体石造りで、ひんやりとした空気があまり気持ちいいとは言えない。

 牢獄の中には毛布が1枚あるだけ。

 鉄格子から通路側の様子を伺う。

 人の気配はなく、静寂が俺の周りを覆う。…俺一人だけなのか?

 そう思うと途端に不安になってくる。

 

「だれか~…いませんか~…?」

 大声を上げるのもちょっと怖いので少しトーンを下げて誰かに呼びかけてみる。

 

 …………くす…………

 

 微かに、本当に微かに、静寂でなければ聞こえなかったであろうくらい小さく、笑い声が聞こえた気がした。

 え…?誰か…いるのか…?

 

「誰…だ…?」

 さっきと同じくらいのトーンで静かに話しかける。

 

 …………くす………くすっ………

 

 まただ。

「誰だよ?」

 今度はもう少し大きめの声で話しかける。

 

 

 だが、今度は何も聞こえない。

「誰かいるんだろ!?」

 今度は大声をあげてみた。

 誰でもいい。お願いだからこの静寂を破って欲しい。

 

「私の…気配がわかるとは、なかなかですね」

 ふいに女の人が現れた。

「……」

 思わず見とれてしまうほどの超絶美人だ…。

 外人か…?

 腰まで伸びた銀髪、透けるような白い肌、モデルかと思うようなスタイル…

 腰には宝石の散りばめられている短刀、白いローブはさっき俺らを捕らえたやつらのものと違い、装飾も凝っていてなんだか威厳があり、それなりに上位の位置にいる人なのだろうと予測する事ができる。

「あんたか?さっき笑っていたのは」

 俺の質問に眉を顰める美人の姉ちゃん。

「何を言っているのかわかりません」

 あれ…?この人じゃない…?

 じゃあさっきの笑い声は誰だ…?

「あなた、魔の力を使ったそうね」

 

 また”魔”かよ…少しうんざりしながら答える。

 

「”あなた”じゃねぇよ、竹井 悠斗!」

「…タケイ、ユー……ト?」

「おうよ、んで、そちらさんは?」

「…」

 短い沈黙の後、美人な姉ちゃんは口を開く。

「イシュカ…」

 名前からしてやっぱし外人か…。

「それで、タケイユート、あなたはどこからどうやって来たのですか?」

「竹井は別に言わんでいいよ…それ、苗字だし…」

「…そう…なのですか?…では、ユート、私の質問に答えてください。ここには魔の力を封じる結界を張ってあります。あなたが魔の力を使っても無駄ですので抵抗なさらないように」

 なんだかよくわからんがつまり、俺はその”魔の者”ってやつと勘違いされているのか?

 

「俺だってどうやってここに来たのかわかんねーよ、なんか学校の帰りに公園寄ったら森があって、そこ入って進んできたらここに来たんだよ。てかここどこよ?」

「何も知らずに来たと言うのですか?」

「だから、そう言ってるだろ」

 そんなことより、ここはどこなのか、どうやったら帰れるのか早く教えてほしいぜ。

 少し考えたあとイシュカは続ける。

「あなたが、魔の力を使ったのは…事実なはずです…。ウルフの…傷口から微かな魔力を感じた…と…そう報告にあります。ですが、私はそれに違和感を覚えてならないのです」

 何を言っているのか意味不明だった。でも俺が理解しているかどうかなんていうのはイシュカにとってどうでもいいことだったようだ。

「魔力を持つものであれば、私がその魔力を感じ取れないはずがないのです…あなたからは、それが感じられない…あなたは、何者ですか?」

「俺は…だから、竹井悠斗、17歳、ただの高校生だ」

「高校生…?それはなんという種族ですか?」

 いやいや!この姉ちゃんなんかズレてんぞ?

「高校っつーのは!学校の事だよ!ガッコウくらいわかるだろ?」

「学校…あなたは、学校で魔の力を身につけているのですか?」

 はぁ???

 もうなんだか話が噛み合ってない気がするぞ?

「いや…そうじゃなくて…とにかく!俺はただの人間だよ。その魔力とか、魔のナントカとか、一切関係ないから!頼むよ、えっと、イシュカ、だっけ?ここから出してくれないかな。早く美春のとこに行ってやらないと…あいつきっと泣いてるぜ…」

「美春…というのは、あなたと一緒にいた女の子ですね」

「あ、あぁ、知ってるのか?」

「彼女はあなたの護衛ですか?なかなか腕の立つ剣士ですね」

 はぁ?剣士??

「彼女でしたら、逃げましたよ。兵の剣を奪い、”ユートを助ける”…と言いながら」

 …え?

 剣を奪い…逃走???

 俺が美春を助けるんじゃなく…美春が俺を助けるの!?

 めっちゃ俺ダメ男じゃん!

「番兵が門を閉めたままですので…城内にはいるでしょうね」

 そして続けて呟く

「どうして、こんな時に風の声が聞こえないの…?声さえ聞こえれば…」

 そう呟いた彼女は唇を噛み締める。

 

 風の声が…なんだって?

 

 

 …………くすくす………くすっ………

 

 

 また、誰かが、笑った。

 

「ユート…あなたはまだ謎だらけですね。でも、あなたから負の力や魔の力を感じない…いえ…むしろ……」

 イシュカは何かを言いかけたが思いとどまる。

「とにかく、私には、あなたが皆がいう程の者には見えないのです…。まだここからあなたを出すわけにはいかないけれども、あなたの身の安全は保障致しましょう」

「そりゃ、どーも。でもあんたにそんな権限あんのかよ?」

「…私は、風の神殿の巫女です。その中でも、唯一風の声を聞き、風の力を最大に受け継ぐもの…この国では風の力持つ者こそ最高権力に一番近いとされます…本当は、権力など使いたくはないのですが…」

 

 ほほぅ…なんかよくわからんがとりあえず、すっごく権力者なんだなってことだけはわかった。

 こんなとき美春だったらこれだけの情報で色んな事がわかっちまうんだろうな。

 まぁ、その権力者に安全を保障されたのなら安心なのかな…?

「じゃあついでに、美春も安全保障してくれよ」

「…彼女は…わかりません…」

「え!いや、それ困るって!なんで!?」

「事情があろうとも、国の兵に剣を向けたわけですからね。ですが、ユートが望むなら、最善策は取りましょう。」

 イシュカはそう言うと踵を返した。

「また来ます。くれぐれも下手な事はなさらぬよう…」

 そう、忠告を残していなくなる。

 下手な事ってなんだよ。

 結局、ここがどこなのかも分からなかったし。風の神殿に…巫女…風の声…風の力…最高権力…。

 色々と腑に落ちない。

 

 ふと時間が気になり時計を見ると16時20分を指したまま止まっていた。

 ウルフとの戦いの時に壊れてしまったのか…。

 格子から外を覗くと少しづつ日が傾いて来ているのが見える。

 

 美春…頼むから無事でいてくれ…。


 俺は祈る事しかできなかった。


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