魔ノ使イ
「……」
「……」
無言が…つらい…
斜面を下るとそこには草原が広がっていた。
「はぁ…やっと地上に出た、って感じがするね」
無言を破ったのは美春だった。
「一応…さっきからずっと地上を歩いているわけだがな…」
とりあえず突っ込んでみる。
それにしても、どうも様子がおかしい。
さっきからとても不思議なのだが…もう日が暮れてきてもいい頃なのにまだ日が暮れない。
むしろ、まだお昼だっけ?と言いたくなるほど日が高い。
それに違和感を覚えたのはどうやら美春も同じだったようだ。
二人でボーっと空を見上げる。
「ねぇ、今何時だっけ?」
「うん…と」
時計を見ようと顔を下げたその時、目の前に知らない人たちが数人近づいてくるのがみえた。
しかし、変な格好をしている。
鎧を纏った人が5人、ローブを纏った人が3人…馬に乗っている…。
えっと…?何コレ?何かの撮影…?
なるほど。確かに撮影だと思えばこの日本離れしたセットにも頷ける。
しかしなかなかに金のかかった撮影である。
ハリウッド映画並だ。いや?もしかすると本当にハリウッドなのか?
けど、そんな撮影の話なんて町内会の回覧板で回ってきていただろうか…?
「おい!お前たち!そこで何をしている!!」
撮影の邪魔をしたのかと思い咄嗟に謝る。
「あぁ、すみません!撮影の邪魔でしたか」
中でも一際高価そうな鎧を着た一人がすらっと剣を抜いて近づく。
おぉ、この人が将軍役か?…衣装、金かかってるな…偽者とはいえカッコイイな。
「何を言っている?」
鎧の人3人とローブの人は俺たちを囲み、もう2人の鎧の人はさっき俺たちが来た方向へと向かう。
何かの様子を伺っているのだろうか。
「えっと…俺たち、何かしました?」
そう問いかけた瞬間、森から馬が走ってくる音が聞こえる。
「トニトルス様!!」
「どうした」
俺たちは訳がわからずボヤーっとしているとローブの人が将軍役の人に近づき何やら耳打ちをする。
その様子を黙ってみていた美春はまた真剣な顔つきになってきた。
「悠斗…気をつけて…」
美春が相手には聞こえぬようにこそっと話す。
気をつける…って何を…?
聞こうとしたその時、剣を俺に向けられる。
「お前…魔の使いか…?」
意味がわからなかった。
「え?なんですか?…えっと、この剣かっこいいですね、でも向けられるのはちょっと冗談厳しいですよ」
そう言ってその剣に触れようと手を上げると、美春にその手をパシっと摑まれた。
「美春…?」
美春は真剣な眼差しで将軍役の人を見つめている。
そしてボソっと言った。
「………その剣……本物だよ……」
背筋に冷たいものが流れた。
「それに…この人、マジだよ…」
え…?それってどういう意味…?撮影じゃないのか…?
将軍はもう一度同じ問いかけをしてくる。
「お前、魔の使いか?」
「え、いや、すみません、よく飲み込めないんですけど…”マノツカイ”って何ですか?」
暫く沈黙が流れる。
しかし俺の目の前に向けられた”本物の剣”は仕舞われることはない。
沈黙を破ったのはまたしても美春だった。
「私たち、道に迷ったんです。ここは、どこですか?」
将軍は俺から目を逸らし今度は美春を見つめる。
「道に迷った?お前たちはあの森から来たのではないのか?」
「確かに私たちはあの森から来ました。でも、だからといってあなた方に剣を向けられる謂れはありません!」
…ヘタレな俺と違い、美春はなかなかの男前だ…。
「……あの森は、魔の住まう森と言われている。あそこから来たのならば、お前たちは魔の使いであろう。………捕らえよ」
そう言うと俺と美春は背後から腕を摑まれ拘束される。
おいおいおい!
一体どうなってるんだ!?
本物の剣、魔のナンチャラ…もうわけわかんねーぜ!
いいから早く俺たちを家に帰してくれー!!