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町ヲ目指シテ

 さて、何だかんだですでに時計の針はもうすぐ16時を指そうとしている。

 この時期は16時を過ぎた辺りから暗くなりはじめるのだ。

 一人暮らしの俺はともかく、美春は早く帰してやらないと親御さんがきっと心配するだろう。

 急がなくてはいけない。

 最悪…町でタクシーでも捕まえよう…。

 

 少しだけ森へ入り、他の道がないか探す。

 しかし道らしき道はないようなので、右手側に町がチラチラ見えるよう、反時計回りに歩きだす。

 美春はさっき手に入れたばかりの棒で周りの草を掻き分けながら歩いていた。

 

 もう更に30分近く歩き、ようやく降りれそうな斜面が見えてきた。

 それを見て余裕が出てきたのか鼻歌なんか歌っている。

「ふんふんふ〜ん♪」

「何やら…ご機嫌ですな、姫」

「う〜ん、まぁ、たまには小学生の気分に戻ってこんな冒険も楽しいよね」

 冒険…そんな気分なのか…。

 いざとなった時、女は強いって本当なんだな。

 引きこもりな俺は早く家帰ってゲームして寝たいわ。

 そんな思考を読み取られたのか握った俺の手を更に強く握りしめる。

 

「むほっ!すんません!楽しいですっ!」

 思わず謝ってしまった。

「しっ!静かにして!」

 美春は立ち止まり口に人差し指を当てる。

 どうやら俺の思考は関係なかったようだ。

「えっと…美春…?」

 恐る恐る声をかけると、きっと睨まれた。

「何か…聞こえない?」

 

 …かさっ…かさっ…さわわ…さわさわさわ…

 

 …風…の音のことか…?

 しかし不思議な風音だ。何というか…まるで歌うような、語るような、そんな感じの音だ。

 

「風の音しかしないけど?」

 またまたキッと睨まれる。

「何か…いるよ…」

 美春が棒を構える。

 そう言えば美春は剣術とか護身術とか…なんかそんな事もしているらしい。

 なかなか立ち方がそれっぽい。

 

 などと関心したその瞬間、茂みから俺に目がけて何かが飛び出してくる!

「うわぁっ!」

 しかし俺に食いかかるよりも早く美春がそれに棒を振り上げた。

「ギャン!」

 あれは…犬!?

 いや、犬にしてはちょっとデカ過ぎる!狼!?

 でも日本に狼なんているのか!?

 その狼はギラギラした目で俺達を見る。

 マジかよ…俺達エサ!?

 美春は真剣な顔で狼と対峙する。

 じりじりと間合いを詰めてくる狼。

 きっと久しぶりのエサなのだろう…口元から涎が垂れているようだ。

 狙いを定めた狼が美春へ飛び掛かる!

「やあぁっ!!」

 美春も棒を振りかざしたその時、何か聞こえたような気がした。

 

 

 −−−キヲ……ツケ……ナサイ……

 

 

「え…?」

 

 キヲ…ツケ…ナサイ…?

 

 気をつけなさい…?

 

 誰だ?

 そう思い後ろを見た瞬間、背後から美春目がけて飛び掛かるもう一匹の狼がいた!

 しまった!!!

 

「美春!!!!!危ないっ!!!!!」

 俺は思い切り手を伸ばした。

 届くはずなどないのに…。

 

 その瞬間、信じられない事が起きた。

 俺の伸ばした手から…剣…?

 いや、微妙に違うか…剣らしき緑に光る刃が現れ、美春に飛び掛かっていた狼へと命中していた。

 はぁはぁと息を切らし目の前にいた狼をやっつけた美春は俺の顔を見るなりへたり込んだ。

 

「はあっ、はあっ…ゆう…と…今の…何…?」

 

 俺だって聞きたいくらいだ!

「わ…わかんない…なんか…急に…出た…」

「「あ、あははは…」」

 わけもわからず二人で笑う。

 しかしその笑いはなんとなく乾いた笑いだった。

 

「疲れすぎて、幻覚でもみえたかなっ?」

 平静を取り戻そうとする美春だが、倒れる狼の切り傷をみると、とても「幻覚でした」では済まされないものがある。

 とりあえず俺たちは追及しないことにして斜面を下る事にした。

 

 


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