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不思議ナ森

 森の中に入ると木々が生い茂り所々に青やらピンクやらの花があった。花の名前はよくわからないが…あまり見たことのない花だ。チューリップっぽいのやらユリっぽいのやら…俺の知っているそれとはちょっと違う気がするが似たような感じだ。

「この花…キレイだね。こんな花あったっけ?」

 美春も少し気になるようだ。

 その一本をポキンと折り美春に差し出す。

「あ…ありがと」

 美春が手を伸ばしたその時、薄いブルーがかったそのユリのような花は一瞬ポウッと光り、瞬く間に枯れてしまった。

「え?うそ…こんなことってあるの?」

 俺と美春は顔を見合わせ、驚く。

「なんか、色々変なとこだな…」

 言わなくてもわかるようなことを思わず口にする。

「やっぱり引き返そうか?」

 だが、来た道がどっちだかわからない。

 そんなに歩いてはいないはずなのだがもうすでに後ろは見えなくなっているのだ。

 少し歩いただけで迷子になってしまったのか。

「ま、まぁ、全ての道はローマに通じてるって言うしな!真っ直ぐ進めばどっかの家の前に出るだろ!」

 不安そうにする美春の手を取りずんずんと前だと思われる方向へと進む。

 こんな時でもドサクサまぎれに握った手が柔らかくてドキドキしてしまう。

 

 そんなに都会とも田舎とも言えない俺たちの住む町に突如あらわれた森。そんなに広いとは思えないのだが…時計の針を見るともう1時間は歩いている計算になる。

「いい加減疲れてきたね…ちょっと休もうか?」

 そう言って美春はハンカチを出して少し大きめな石の上に敷き、その上に座る。

 ほー…女の子って汚れない為に色々考えてるんだな。

「悠斗も」

 そう言ってチラシみたいなのを取り出し自分の隣に敷く。

「えーっと…何々?ジャニーズ「台風」CD新発売…ってこれ今日じゃん!」

 なんと!美春も実はサボってCD買いに行くつもりだったのか!!

「い、いや!悠斗と違ってちゃんと学校帰りに行く予定だったんだよ!?別にこのためにサボったわけじゃないんだから!」

 くそ、人のこと言えないじゃないか!

 しかし、そうやって騒いでいたら少し空気が変わったような気がした。

 うん、やっぱり俺らはこうやって小突きあいしてるくらいじゃないとな。

「あ、お茶もあるけど飲む?」

「お、サンキュー」

 差し出されたお茶は開封済み、これって関節キッスか…縦笛舐め回す小学生の気持ちが少しわかった。

 だが俺はぐっとこらえ普通に飲む。

「お菓子もあるよ?」

 女の子の鞄ってドラ○もんかといいたくなる程なんでも入ってるんだな。

 しかし歩きつかれた体には飲み物とお菓子が最高にありがたい。

 もっとゆっくり休みたいところだが、そうもいかない。この季節は夕暮れがとても早いのだ。急いで森を抜けなければ冗談抜きで夜になってしまう。

「よし、美春のおかげで元気も回復したし目指すか、山田さん家!」

 俺は元気よく立ち上がり山田さん(仮)の家の方向だと思われる方に指をさす。

「ぷっ、誰よ、山田さん」

 苦笑する美春の手を取り更に奥へと進む。

 

 

 もう手を繋ぐのも慣れてきた頃、少し雰囲気が変わってきたような気がする。

 風の…臭いがする…これは…

「なんか、秋なのに夏みたいな空気ね」

 最初に切り出したのは美春だった。

 そう、なぜか夏の爽やかさがあるのだ。

 そして、俺たちの先には光が見える。

「お?出口じゃないか?やっぱり山田さん家はあったんだよ」

 もう、夏の空気の事などどうでもいい。

 やっと森から抜けれる安堵からどっと疲れが押し寄せる。

 あぁ、もう早く家帰って寝たい。

 そう思いながら森を抜ける。

 

 

 

「…あ…れ…?」

「…うそ…」

 

 二人同時にポロリとこぼれる。

 

 森を抜けるとそこには高台の上。眼下には知らない土地が広がっていた。

 広大な緑の絨毯、そこに点在する民家。だがその民家は俺たちのよく知る日本住宅ではない。どちらかというと若草物語にでも出てきそうなイメージだ。

 そしてもっと先には町らしきものが見える。

 それも俺たちの知るような町並みではなく、RPG(ロールプレイングゲーム)の世界でしか見れないような建物ばかりである。

 

「えっと…これは…どういうこと?」

 いまいち飲み込めなくて美春に問いかける。

 もちろん、美春だってそんなこと知るわけない。

「……私たち、日本にいたんだよね…?」

 

 俺たちはそのまましばらく呆然と立ち尽くした。

「も、戻るか?」

 あまりに非現実的すぎて受け入れられない俺はさっき来た森へ引き返そうとする。

 その時、袖をくんっと引っ張られる。

「私…あの森…もどりたくない…」

「え、でも、ここ山田さん家にはちょっと見えないんだけど…」

 袖を引っ張っていた手を離し今度は両手で手を握ってきた。

「あの森…なんか気持ち悪いの。ね?お願い、きっとあそこの町に行けば誰かに会えるよ?」

 すこし潤んだ瞳でそんな事言われたら…男としてはそのお願い却下するわけにはいかないだろ!?

 女の子が怖がってる森をわざわざ行ってどうする!

 ちょっと変なとこ出たけど大丈夫!誰かに道を聞くさ!

 そう思いつつも、さっきまで俺たちがいた気味の悪い無人の道路や公園を思い出す。

 しかしブルブルと首を振って否定する。

 さっき森を抜けるあたりで空気が変わったんだ。

 さっきまでの気味悪い違和感とは違う、もう少しスカっとした感じだった。うん、大丈夫!

 

 自分を少しだけ奮い立たせ、俺と美春は手をつなぎ町を目指すことにした。

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