失ワレタ兵
その日、城内は神官や兵達が集められ慌しかった。
そこには王やイシュカ、トニトルスもいたが悠斗達の姿はなかった。
「一体何があったのだ」
王の前には傷ついたアシェロトただ一人がいるだけであった。
「…は…、我々は…調査を進めに森へと入ったのですが…ぐっ」
アシェロトは腹部に負った傷口を押さえながら報告を始める。
「…はぁ…はぁ…あの者達が現れたとされる奇妙な町を発見し…調査致しました…」
アシェロトは苦しそうにしながらもその調査報告を続ける。
「…そこでは我々が知る文明とは違うものを感じましたが…はぁはぁ…特に怪しいものは発見できず、更に奥への調査を進めました…」
「アシェロト、苦しいと思うが話してくれ、あれだけの小隊がいてお前一人で戻って来たとは…何が起きた」
トニトルスが先を促す。
無理も無い。
2日程前にアシェロトは30数名いる1個小隊を率い異空間を調べるべく西の森へ向かったのだが、それが傷ついたアシェロトだけが戻り他の隊員は全て失ったというのだ。
「…その町はさほど大きいものではなく…あの者たちが言っていた公園らしき広場を抜けた先はまた森へと続いており…はぁ…その奥に新たな異空間を発見致しました…ぐっ…はぁはぁ…。その異空間は…依然小さなもので…はぁはぁ…齢10程度の子どもであれば入れるくらいものでした…」
「なんと…、それではまた若干その空間が広がったという事か…」
周りの神官達がざわつく。
「ですが…それは我々が行った時は…の話でございます」
「どういう意味だ?」
王が問うとアシェロトは俯いてしまう。そしてしばらく間を空けた後、静かに答えた。
「…その異空間を調査すべく近づき、手を伸ばした時一人の兵が飲み込まれました…」
ざわざわざわざわ…。
「なんだと!?」
声を上げたのはトニトルスだった。
それを王は手で制する。
「…続けよ…」
「するとその空間は急に大人二人分ほどまで成長し、更に近づいた兵を一人飲み込み、その三倍は拡大し…」
アシェロトは言葉を詰まらせ拳を握りしめ、その拳をワナワナと震わせている。
「その空間より…魔物が…」
ざわざわざわざわざわ…。
「なんと…ではやはり魔が住むとは本当だったのか!」
神官の一人が声を上げる。
「その魔物にやられたと申すのか」
王が問う。
「はい…、私は兵に守られ一命を取り留めましたが…他の者は…」
王はため息を一つ洩らし頭を抱える。
「そうか…アシェロトよ、そなた一人でもよく戻った。その傷を癒し休むが良い」
アシェロトは神官達に連れられ王の間を後にする。イシュカは慌ててそれに続いて着いて行った。
「陛下、如何致しましょう」
声をかけたのはまだ幼さの残る少年であった。
「アシスか」
アシスと呼ばれた少年は凛とした眼差しで王を見つめる。
アシスは王と第三皇后との間に生まれた第一皇子である。
「アシェロトはこの国でも指折りの風使いだ。それがあのような傷を負って帰るとは…魔物の力は相当のものであろう。アシスよ、お前はまだ幼い。森へ向かうなどと言うでないぞ」
アシスはまだ15歳である。だが、この国ではすでに成人とされ1人の妃と2人の側室を迎えている。
だが、王と一番目の皇后との間に子は儲けられず、二番目の皇后との間の子はエルナだけ。三番目の皇后との間に生まれたアシスは唯一王位継承権を持つのである。 王としては未来ある皇子をその様な危険な場所に行かせるわけにはいかないのだ。
「トニトルスよ」
「はっ」
「そろそろあの者たちも戦力になろう…連れて行け」
あの者達、とは当然の事ながら悠斗と美春の事である。
トニトルスは思わず眉間にしわを寄せる。
「……ですが…陛下…」
「口答えは許さぬ」
王は時に非道である。
”よそ者ならどうなっても構わないであろう?”と言いたいのだ。
トニトルスは王のこういった所が嫌いであった。
「……………は…」
長い沈黙が精一杯の抵抗だったが、トニトルスに逆らう事は許されない。
トニトルスは一礼すると王の間を後にする。
一週間以内で頑張ると言いながら二日程遅れてしまいました。
すみません。
次こそ一週間以内で!