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訓練

 王様との謁見より数日、俺達は神殿で訓練を積み確実に強く…なっているのは美春だけで、あれ以来俺は風の力の『か』の字もなく、とても肩身の狭い思いをしている。

 ウルフを倒した時…トニトルスの一撃を受けた時…一体俺はどうやってあの力を出したのか。

 イシュカ曰く、

「初心者は心を無にする事から始まります。心の中を無にして風の流れを読んで下さい」

 …だそうだが…無にって簡単に言ってくれるな。

 第一、風の流れってなんだ?

 

 そんな感じで、普通初心者が一番最初に出来るようになるはずの『そよ風』すら起こせないでいるのだ。

 今日もひたすら練習しているのだが、あまりの落ちこぼれぶりにイシュカは頭を抱えどこかへ気分転換しに行ってしまった。

 まったく、むしろ気分転換したいのは俺の方なのに…。

 

 やれやれと室内練習場の窓から外を眺める。窓の外は中庭になっており、丁度美春がトニトルスと手合わせをしているところが見えた。

 本来中庭はそういった目的の為にあるわけではないのだが、神殿には風術の練習場はあっても剣術の練習場はなく、城での稽古も拒否した美春の為に使用許可しているらしい。

 そんなワガママを許してもらえるのは、美春が相当な腕の持ち主だからである。剣術はよくわからないが見た限り、隊長であるトニトルスですら押されているようである。

 彼女の剣は相当な力があるわけではないが、俊敏で無駄がなく、かつ確実に急所を突くのだ。

 

「やぁっ!」「はぁっ!」の掛け声と共に一振り、二振り。

 トニトルスはこれを剣で受けるも表情は真剣そのもので余裕がない事が伺える。

 キンッ!という音が聞こえると、美春の剣がトニトルスの剣を弾き、その切っ先は喉元を捕らえる。

 美春はニコリと笑うとその剣を腰へと納めた。

 

「さすがミハル殿…このミトラルでもそれ程までに剣を扱える者はそういませんよ」

「そんな、トニトルスさんの教え方が上手だからですよ。手加減してもらわないと勝てないですもの」

 そう笑って答える美春だが、トニトルスはそれを聞いて苦笑いをしている。あの顔は…とても手加減したと思えない顔である。

「それより……悠斗っ!」

 美春の目が釣りあがり、こちらを振り向くと室内にいる俺の目を捉える。

「キミはいつになったら風術を使えるのかなぁっ!?ちゃんと練習してるのー!?」

 おぉ…こわっ…。

 そんなに声を張り上げなくても聞こえてますよ…。

「わーってるよ!頑張ってるって!」

 そう言い、練習に集中するふりをする。

 それを見届けると、美春はすぐに自分の稽古に戻る。

 汗を流しながら剣を振る彼女はキラキラと輝いてとても綺麗だ。そんな彼女を目の前にして心を無になんて、とてもじゃないが無理な話である。

 

 その時、後ろからカタンと音が聞こえた。

 イシュカが戻ってきたのだろうか。

「イシュカごめん!俺頑張るよ!」

 振り向き咄嗟に謝る。

 だが、そこに立っていたのはイシュカではなかった。

 

「…イシュカには、席を外してもらいました」

 

 なんと、皇女エルナである。

「え…あ、え…?なん、で?皇女様がここに…?」

「貴方と、お話がしたくて」

「え…お話…?」

 

「…」

「…」

 

 何を話したらいいのかわからず、お互い無言になってしまう。

 

「…貴方は…なぜここに…?」

「それ…王様の前でも言ったと思うんだけど…」

「あ、そ、そうでしたね。その、なんというか…どうしてあなた方だけがいらしたのでしょう?」

「それは、むしろ俺たちが聞きたいくらいだぜ」

 皇女様は何かを言いたげにしているようでモジモジとしている。

 こんな事を聞きに来たわけではなさそうなのだが。

「皇女様は、」

「エルナ。で結構です。ユート」

 俺の心臓が少し早くなってくる。

「あ、あぁ…えっと、エルナ…」

「はい」

 そう返事をしたエルナは少し潤んだ瞳で俺の目を捉えて離さない。

 や…やばい!この展開は超ヤバイ!!

 モジモジ>名前で呼ぶ>潤んだ瞳!!

 これは!絶対フ・ラ・グ!!!

 うおぉぉぉ!この超カワイイ皇女様は俺を好いている!?

 マジか!?マジなのか!?

 妹系姫さんにするべきか!お姉様系巫女にするべきか!やっぱり同級生剣士にするべきかっ!!

 これを選べって結構酷じゃないかぁっ!?

 いや、でもまてよ。美春は愛とか恋というよりは、どちらかと言うと結構仲の良い男友達といった感じだろう。イシュカはちょっと見込みなさそうだよな…。

 だがだが、その点エルナは…エルナは…俺を愛しちゃってるわけだろ!?

 ここはやっぱりエルナなのか!?い…いや!だがそんな安易な理由でいいのか?愛されているからという理由だけで決めていいのか?彼女へ対する想いはどうなんだ?

 

 …やっぱり俺は美春を見捨てることは出来ない。

 ここで俺を失った美春はこの世界で誰を頼って生きていけばいいんだ。

 俺が美春を守るんだ。

 

「すまない…エルナの気持ちは嬉しいが俺には美春という女が…」

「あの、何の話でしょうか…」

「………………え……?」

 

 えーっと…あれ?

 

「あの、ユートは…」

「はぃ?」

「風の力はコントロール出来るようになりましたか?」

「あ、あはは…そっちの話ね…。はぁ…」

 どうやら全然違ったようである。

 潤んでいたように見えた瞳も俺の脳内再生だったようだ。

 がっかりやら恥ずかしいやらで、落ち込みは半端なく、返事が尻窄まりになる。

「ぃぇ…全然…」

「そうですか…以前私が見せて頂いたユートの力、思っていたものと違ったので気になって」

「はぁ…」

「私が見せて頂いた力は防御の力が働いていました。ですが、兵や神官達よりウルフを倒した時に攻撃の力を使ったようだと話を伺っています」

「はぁ…それが何か?」

「普通、神官達の使う力は大きく分けて2つのパターン、攻撃系と防御系に分類され、そのどちらかを得意とします。極稀に風の声を聞ける者もいるようですが」

 それはつまり、イシュカの事か。

「神官達の話が本当であるなら貴方は2つの力を持ち合わせているという事、それと、貴方は風の精霊の声も聞こえるそうですね」

 風の精霊っていうのは、多分この場合マシュマロの事だよな?

 本人は否定してたけど…。

「マシュマロは…自分は精霊じゃないって言ってるが」

「えぇ、存じております」

「あ、あれ?そうなんだ?」

「はい。厳密に言えば精霊ではないでしょうね。人々は精霊だと信じているようですが」

「厳密にってどういう意味だ?」

「ジーニ自身は精霊ではないでしょうが、ジーニは風の精霊が造り出した命。精霊の恩恵を一番に受け、その声を聞き、手足となり、能力を分け与えられた存在。いわば精霊の子みたいなものでしょうか。その命は人の何十倍も永らえ、独自で子孫を残すという機能は持ち合わせていません」

「でもマシュマロには、じいちゃんがいたって…」

「それは以前に精霊より生み出された精霊の子。先代を親と呼んでいるのでしょう」

 なるほど…精霊の子…じゃあ、やはりマシュマロが精霊だというのは全くの勘違いでもないのか。

「で、それが?」

「ジーニが精霊であるとするならば、貴方は風の声も聞こえるのですか?」

「あ…あぁ…多分、あれが風の声であるなら聞こえてると言えるだろうな」

「そうですか…。あなたは1つどころかいくつもの力を持っているようですね。今はコントロールできないかもしれませんが、その力、使いこなせるようになるならば強大なものとなるでしょう」

「そうかな。そうだといいな」

 美春に守られてばかりいるような男にはなりたくない。

 俺が美春を守り、元の世界に帰る…!

 俺は拳を握り締め決意を新たにする。

「ユート」

「なんだ?」

「貴方は、初めて会った時から不思議な感じのするお方でした…」

「?」

「貴方は…もしかしたら私にとって大事な方かもしれません」

 !!?

 やっぱり!これはフ・ラ・グ!?

「え、それってどういう…」

「今はまだ、お話する時期ではありません」

 そう言うと踵を返し元来た扉へと向かう。

「そう、それと、先ほど言いましたがジーニ…マシュマロは風の精霊より恩恵を受けし精霊の子…近く置けば貴方の力を引き出してもらえるかもしれませんね」

 それだけを言い残しエルナは去っていく。

 俺は暫く呆然とその後姿を見送るだけだった。

お待たせしました!

やっと最初から数日たったお話です。

なかなか進むペースが遅いですが生暖かい目で見守ってくださると嬉しいです。

次回も一週間以内にがんばります。

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