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王ノ間

 俺たちは今、城の中、それも王の間の扉前に立っている。この扉は一体何メートルあるのだろうか。重厚な扉に圧倒され、途端に不安が襲ってくる。

 

 普通、ゲームであれば王様に会って大歓迎され、俺達は勇者とか言われモテ囃されるはずだ。

 だが、これはゲームでもないし、ましてや勇者なんてものでもない。そういう意味では俺なんかよりも余程美春の方が勇者らしいと言えるだろう。

 

 扉の両隣には槍を持った兵が立ち、扉の真前では、あのトニトルスが俺たちを睨みつける。

 トニトルスはもとより大柄であるが、こうして立っている姿を見るとそれ以上に大きく見える気がしてしまう。畏縮する俺とは裏腹に、美春は堂々としたもので、トニトルスに負けないくらいの気迫である。

 たまらず美春をチラチラと横目で見る。すると俺の視線に気付いたのかこちらを向き柔らかに微笑む。

 少し…気が楽になった気がする。

 

 その時、扉が開かれた。

 

「ユート、ミハル、両名入られよ」

 

 俺と美春は覚悟を決め扉の中に足を踏み入れた。その後ろからはイシュカとアシェロト、そしとトニトルスがついてくる。

 

 俺達は長く敷かれた赤い絨毯の上をゆっくりと前に進んで行く。

 正面には仰々しい椅子が置かれ、そこに鎮座しているのが…きっと王様であろう。

 その隣にドレスを着て立っている女の子…彼女が皇女エルナだろうか。年の頃は、そうだな、俺たちと同じくらいか、もう少しだけ年下か。パープルのドレスを纏い、赤毛の頭には小さなティアラが乗っている。深い緑の瞳で俺たちをじーっと見つめるその姿はまるでフランス人形そのものである。

 

「そなたが、ユートか」

 

 王が問いかけてくる。

 

「…は、はい」

 

 緊張しすぎで返事しか出来ない。

 

「なんでも風の力を持つそうだな」

「…多分…」

 

 俺の受け答えの情けなさに涙が出そうだ。

 

「その力、我にも見せてみよ」

 

 そう言ってトニトルスを見ると、トニトルスは俺の前に出ると剣を抜く。

 

「ユートよ、私と剣を交えてみよ」

「ちょ!待てよ!剣をって俺の剣ないじゃん!?」

「貴様には風の刄があろう?ウルフを倒した刄がな」

 そんなめちゃくちゃな!

 風の刄って言ったってどうやって出すんだよ!

 助けを求め美春を見るも、

「悠斗ならやれるわよ!頑張れ!」

 応援されるだけで助けてはくれないらしい。ここは…覚悟を決めなくてはならないようだ…。

「貴様から来ぬなら私から行くぞ!」

 トニトルスはそう言うと剣を構え俺を睨みつける。

 迫力ありすぎでめちゃくちゃ怖いんですけど!!

「か…風…風の…力…?」

 ウルフの時をイメージしながら集中する。

 

 風よ…力を貸してくれ…!

 

 目を瞑り全神経を手のひらに集中させる。

 

 ドックン、ドックン、ドックン。

 

「では、行くぞ!」

 

 トニトルスが勢いよく駈けてくる。

 

 そして俺は、風の力を……!

 

「や…やっぱ無理ぃぃぃぃ!」

 トニトルスが勢いよく剣を振りかざしたその瞬間、俺はとっさに頭を庇いながらしゃがみこむ。

 すると、部屋中にどよめきが走る。

「おぉ…」

「トニトルス様の剣をかわしたぞ…」

「悠斗やるじゃない!」

 あ…あれ?

 どうやら偶然にも剣をかわしたようだが…。

「ほぅ、なかなかやるではないか。それではこちらも少々本気を出した方がいいかな?」

 な…なんだかとってもヤバイ予感がします!!

「い、いや、今のは偶然で…!」

 弁解する暇もなくトニトルスは剣を振り下ろす。

「はぁっ!」

「いや、ホントたんまっ!!!」

 もうダメだ…俺、ここで死ぬのかな…。

 

 これ以上かわせる筈もなく、目を瞑り、頭を抱え身を丸くして運命に身をゆだねる。

 心残りと言えば、最後の最後まで美春にカッコイイところを見せられなかったところだろうか。

 

 しかし、いくら待っても切りつけられる気配がないようだ。

 恐る恐る目を開けトニトルスがいる方を窺う。

 すると、俺の頭部より30センチ程手前で剣が止まっている。

 トニトルスが止めてくれた…?いや、違う。

 よく見ると、俺の周りに薄い膜が張ってあるように見える。これは一体…。

 

「そこまでです。トニトルス、お下がりなさい」

 

 最初に声を発したのは皇女様だった。

 

「…」

 

 トニトルスは無言で剣を納めると一礼して後ろへ下がる。

 

 た…助かったのか?

 

 気が緩んだ瞬間、パチン、という音がして膜のようなものが消えた。

 

「貴方の力、見させて頂きました。確かに、風の力のようですね。ただ、聞いていた物とは少し違うようです」

 

 とりあえず俺は立ち上がる。が、さっきの恐怖がまだ消えないのが少し脚が震えている。

「あ、あの、俺…よく自分ではわからないんですけど…」

「…そう。自分の力をわかっていないの…。それであの防御結界が作れるなんて…」

 皇女様は独り言でも言うかのように呟く。

「そなたらは”魔の森”から来たそうだな」

 それまで黙っていた王様が急に話を振る。

「は…はい…」

「魔の森へ調査を出したところ、妙な町らしきものがあったと聞く。あれは何だ?」

「あ…っと、あれは俺たちの住んでいた町で…」

「以前、森にはあの様なものはなかったが、どうやってきた」

 俺は、今までの経緯を話した。

 俺たちが住んでいた世界の事、不思議な風に見舞われてからおかしかった事、今までなかった森が急に現れた事…。

「ふむ…やはり、あれは異空間より現われし町、そなた達の住む”ニホン”の一角なのだな…では、夕べ西の森で観測された新たな次元の歪みは知っているかね」

 

 !!?

 え?なんだって?新たな…次元の歪み?

 俺と美春は首を横に振る。

 その時イシュカが前に出てきた。

「では、夕べ感じました異様な重みは、また異空間が現れたと!?」

 そういえば、牢獄を出るときに変な重力を感じたな。

 あれの事か?

 王様は無言で頷く。

「私がお兄様に聞いたときは何も教えては下さらなかった…」

 イシュカはぎゅっと唇を噛み締めつぶやく。

 

「して、その異空間だが…まだとても小さなものでな、最初はそこのジーニ一匹なら入るであろうくらいのもだった。だが、それが少しづつ拡大しているようなのだ。そなた達なら、何か知っているのではないかと思ってな」

 

 つまり、俺たちがアヤシイって思ってるという事か?

 そんなのはお門違いも大概にしてくれってやつだ!

 俺が食って掛かる前に美春が一歩前に出る。

「陛下、私達を疑っておいでですか?」

「いや、何もそこまで言ってはおらぬ。ただ…」

「私達はその時、牢に閉じ込められていました」

 いや、閉じ込められていたのは俺だけなんですけどね。

「とにかくだ、その異空間、魔の力を感じる…と、エルナが申していてな。そなた達にもその調査をしてもらいたいのだ」

「なぜ、よそ者の私達が?」

「そなた達も異空間からの来訪者、詳しいのはそなた達であろうし、何より自分たちの来た世界への帰り道も見つけられるのではないかね?」

 なるほど。

 帰り道が見つかるならそれも悪くない話だ。

 だが、美春は怪訝そうな顔をしている。

 何に不満があるのか。

「ユートよ、そなたはまだ自分の力がコントロール出来ぬようだ。神殿で訓練を受けるがよい」

 

 俺達はその後王の間を離れ、神殿に戻ることになる。


やっと話が少し進みました。

ちょっと進むペース遅いですかね…(汗

頑張って書いてますが、次回は不定期です。

遅くても一週間以内には…。

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