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兄ト妹

「アシェロト様…」

 

 神官の一人がアシェロトと呼ばれた男に近付き何かを耳打ちする。

 

「………そうか…イシュカが…」

「どういたしましょうか」

「とりあえずは良い。好きなようにさせておけ。だが…あまり出すぎた事はしないよう釘を刺しておかねばな」

 それだけを聞くと神官は一礼をし、アシェロトの前から姿を消す。

 アシェロトは一冊の本を開きその一文を読み上げた。

「…風が止むその一時、分れし二つは一つになるであろう……」

 

 

 

 

 

 

 

「えっと…なんか…扱いがさっきとだいぶ違うような…」

 

 どっぷりと日が暮れてしまった現在、神殿に連れられた悠斗と美春の前には豪勢な食事が食べきれない程並べられていた。

「先ほどは失礼致しました…お腹が空きましたでしょう?」

 イシュカが言うより早くジーニはすでに食事にかぶりついている。しかし、かわいらしい容姿にそぐわぬ豪快な食べっぷりだ。

「にゅ〜!うまっ!がぶがぶ」

「私達の誤解が解けたようで良かったわ」

 そう言いながら美春は食事に手を伸ばす。

 とりあえず、俺も負けじと食事へガッツク。

「もぐもぐ、しかし…もぐもぐ…結局…もぐもぐ…ここは…もぐもぐ…どこ?ごっくん」

 食べるか喋るかどっちかにしなさい、と美春に睨まれ俺はとりあえず食事に集中することにした。

 イシュカはくすりと笑ったあと説明を始める。

「ここは、風の国ミトラルです」

「ミトラル…?」

 俺と美春はきょとんとして聞く。

「えぇ、ミトラルは風の力を受けて生活をしている国です」

 なるほど、そういえば町のあちらこちらに風車らしきものもあったような気がする。

 イシュカは続けて説明をしてくれる。

「その中でも風の力を操る能力を持つものが風の神殿に住まう事を許されています。私も、そこにいる神官共も、皆風を使うことができます」

 曰く、一般の人々は俺たちと変わらない普通の人達、風使いなのが神官や巫女、その中でも色々ランクがあるようだ。

 風使いでも”風の声”を聞けるのはイシュカだけだという。

 ちなみに、風の声を聞ける者は本来神殿の長である宮司よりも格が上であり、この国においては国を治める王の次に偉いのだとか。

 だが、そのイシュカですらジーニの声は聞こえないらしい。

 ジーニ曰く、

「にゅー、ジーニは風の精霊とか言われて崇められるけど、ホントは全然そんなんじゃないにゅー…仲のいいお友達ではあるけどにゅ~」

 だそうだ。

 そんな俺がなぜジーニの言葉が聞こえ、風の声が聞こえるのか…全くもってなぞだ…。

「そのことなのですが…」

 イシュカが何かを言おうとしたその時、扉がバンと開けられる。

 

 そこには長髪の男が立っていた。

「お兄様!」

 イシュカは驚いて男の元へ駆ける。

 イシュカが兄と呼んだその男は、イシュカと同じ銀髪、腰まである長い髪をしている。

 額にはサークレットのようなものをはめていて、ローブは白、金の刺繍がこれまた豪勢である。

 イシュカに似ているか…というと少し微妙だが、優しげな印象のイシュカと比べ、切れ長の目が印象的な細身の色男である。

 おいおいおい、心なしか美春が紅潮しているように見える…気のせいであってほしい。

「イシュカ、この者達は昼間の騒ぎの元凶ではないのか?」

「お兄様、お聞き下さい。ユート様は風の声を聞き、ジーニの言葉も聞けるようなのです」

「ほう…ジーニに言葉を…だがジーニの言葉は誰も聞いたことがない」

「それは、ユート様が嘘をおっしゃっていると?」

 イシュカの兄はこちらを睨みつけ続ける。

「誰もそこまでは言っておらぬ。ただ、この者たちは魔の森からやってきたのだろう?」

 めちゃくちゃ俺たちを疑ってるって感じだ。

「それは…そうですが…ジーニがミハルをユート様の元へ案内したのです。ジーニもユート様が風使いだと分かるからこその行いだったのではないのでしょうか」

「だが、魔の森でウルフを退治した力…それは魔の力に似たものだったと聞くが?」

「それは誤解です。確かに…我らの力とは多少違いはあるものの、調査の結果、風の力であることが分かっております」

「…それが本当であるなら、イシュカ、お前よりも力があると言うことになるな」

 そう言うと、俺たちの前に立つ。

「私はイシュカの兄アシェロト、風の神殿の宮司を務めております。現在私には、残念ながらあなた様方の力を垣間見えることは出来ませんが…風の力持つものかどうか…明日、王に謁見なされば分かる事。その時は改めて歓迎致しましょう。では、失礼」

 そう言い残すとアシェロトは踵を返し部屋を出て行く。

 

「王との、謁見って、王様に会うってことか?」

「まだ言っていませんでしたね。明日、王と謁見して頂きたく思います」

 ほう…王様…って、えええええええええええ!??

 未だにイマイチ理解できてないのに王様とか話飛びすぎじゃねぇか!?

「正確に言えば、姫様に、ですが」

 姫様と聞いて俺は身を乗り出す。

「え?姫?それって美人!?」

 ぎゅむっ。

 その瞬間美春に頬を思いっきりつねられる。

 い、痛い…。

「えぇ、それはもう、お可愛らしいお方でございます」

 イシュカはクスリと微笑むと姫様の話をしてくれる。

「ミトラルの王、ヴォーダ様の第一皇女エルナ様は人の奥に秘めたる風の力を感じる事が出来るお方です。私でも感じ取れぬ程の微量な力でも…」

 つまり、その姫様に会って俺が”魔の者”であるのか、”風の者”であるのか確かめるという事だな。

 結局、まだ完全に信じられていないということなのか。

 

 食事を終えると俺たちは別々の部屋に通される。

 俺に用意された部屋はいつも帰る6畳の部屋を4つくらいくっ付けたような広さで、小さなテーブルやシングルサイズのベッド等の家具類が置いてある。これでテレビと冷蔵庫さえあればここで生活できそうだ。

 俺はベッドに倒れこむと今日の出来事を振り返る。

 

 結局、分かった事といえば、ここは俺たちの住む世界とは違うということ。

 変な力が使えるということ。

 美春が俺より強いということ…。

 最後のは自分で言ってなんだが情けなくなってくる。

 明日は王様と謁見とか言ってたな。

 …色々ありすぎて今日は疲れてしまった…。

 

 これは夢で、目が覚めたら元の世界に戻っていればいいのに…などと考えつつ俺はそのまま眠りについた。

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