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記憶

「お母さん!風が…泣いてるよ?」

「あらあら、泣いてるなんて不思議な事を言うのね」

 これは…5歳の頃の俺か…?

 

「この子は感性豊かなのかしら?」

 

 何だかよくわからないがお母さんが笑ってくれて…それで嬉しくなって…俺意味不明なこと言い出したんだっけ…?

 

「お母さん、風がね、一緒に遊んでくれるんだ!」

「お母さん、風が僕の事いじめたヤツをやっつけてくれたよ!」

「お母さん、隣の家のおじいちゃん今日死ぬみたいだよ?風が教えてくれたの!」

「お母さん!」「お母さん!」「お母さ…!」

 

 パシーン!!

 

 小学二年生の俺は母親に打たれる。

 

「風が風がって気持ち悪い子!!!」

 

 子供ながらにきっと言ってはいけない事だったのだと知る…。

 

「その”風”のせいで近所から変な目で見られているのよ!あなたなんて拾ってこなければ良かった!!」

 

 今まで、本当の家族だと信じて疑わなかったのに、その時初めて孤児だった事を知る…。

 あまりのショックに言葉もなくただ涙が零れるだけだった。

 

 ごめんなさい、お母さんごめんなさい、僕がいてごめんなさい…

 

「悠斗…ごめんなさい…お母さんそんなつもりじゃ…」

 

 

 

 

 

 

 

 -----……どうやら、少し寝ていたらしい。

 夜、とまでは言わないが、もうすっかり日が暮れている。

 しかし変な夢を見たな…懐かしい…。

 風の事などもう忘れていたのに。

 

 あの後、俺は風のことを言わなくなり、聞こえていたはずの風の声にも耳を傾けなくなった。

 ギクシャクはしていたが母親も元の優しい母に戻った。俺も母親に気を使ったりして無理にイイコになったり…表面上は本当の親子のようだった。

 

 そう、俺はどうやら生まれてすぐに孤児院で引き取られたらしい。

 その事もあったりでなんとなく居場所のない俺はわざわざ県外の高校を受験したのだ。

 

 もし、俺がここでくたばっても…悲しむ人なんているのかな…

 

 そんなマイナス思考が頭をよぎる。

 

 風…の声…そういえば、イシュカもそんな事を言っていたな。

 風の声って、どんなんだっけ…

 

 目を閉じて五感を澄ましてみる。

 

 さわ…さわ…さわ…

 

 風の音がする…でも、言葉とは、ちょっと取れないな。

 子どもの頃はどんなだったか。

 たしか……

 

 

 …ゆうと……ゆうと……いっしょに…あそびましょ……

 

 

 だいぶ、ハッキリと聞こえたような…そんな気がする。

 もっと、全神経を耳に、心に、風を肌で感じて…

 

 ………くす…くす……

 

 この笑い声、さっきも聞いたきがするぞ。

 

「お前…風…か?」

 

 問いかけてみる。

 

 ……ふふふ………ゆうと……おかえり……

 

 やっぱり!今までの笑い声は風の声だったのか!

「おかえりって、どういう意味だよ!」

 そう叫んだ瞬間、風の気配が消える。

 そこに残るのは、鉄格子の間から吹くただの隙間風。

 

 カタン。タッタッタッタ。

 

 誰かが駆けて来る音がする。

 その音の方に目を向けると美春が走ってくるのが見えた。

 

「悠斗!!!」

「!!美春!」

 鉄格子越しにお互い手を取り合う。

「良かった…悠斗、無事で良かった…」

「美春こそ…無事でよかった。それより、よくここまで来れたな」

「うん…イシュカさんと、マシュマロのおかげでね」

 美春の後ろからイシュカと…へんな動物が歩いてくる。

「イシュカ……と、なんだ…それ」

「にゅー」

「あっと…マシュマロ!風の、精霊…?らしいよ?」

「ふーん…」

 俺はその風の精霊とやらのほっぺをつんつんする。

「にゅー、ゆうとやめれ~」

 !!!

「喋った!!」

「は?」

「え…今何と…?」

 美春とイシュカは変な顔で俺を見る。

「こいつ、今人語喋ったよな!?」

「何言ってるの?迷惑そうに『にゅーにゅー』言ってるだけじゃない」

 え…?だって今こいつ…やめれー って言ったぞ?

 俺の耳がおかしくなったのかと思い、今度はちょっとしか出ていないこいつの耳を引っ張る。

「にゅー!やめやめやめれー!!」

 !!!

「ほら!やっぱり喋った!」

 美春はバカにしたような目で俺を見る。

「あんた、頭おかしくなった?」

「えええ!?こんなにハッキリ喋ってるのにか!?」

 イシュカはそんな俺を見て驚いているようだ。

「ユート、まさかあなた…ジーニの言葉がわかるのですか…?」

「え、分かるも何も…普通に喋ってるじゃないか」

「にゅー、ゆうと、ジーニのことばは、ゆうとしか、わからないにゅー」

 え…?どういう意味だ…?

「ユート、あなた…魔の者とは少し違うようだと思いましたが…まさか、そんなことが…」

 

 その時、ずーんと重力が圧し掛かるような感覚を覚える。

「うお!なんだこれ!」

「またですか…」

 イシュカは急いで牢の鍵を開ける。

「いいのかよ?」

「えぇ、あなたが何者なのか…なんとなくわかってきましたから。私と一緒に来てください」

 俺と美春は顔を見合わせる。

 俺自身は、自分が何者なのか、さっぱりわからなくなってきた。

 変な生物の言葉はわかるわ、風の声は聞こえるわ、手から変なもの出るわ…俺どうなってしまうんだ?

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