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終章~語られない過去の物語~


 

 雨季も終わり。

 あれだけ湿りきっていた地べたはもう渇き、草木などは次の水分補給を求めているようにも思える。

 映え萌える緑が敷き詰められた、広大な大自然が成した絨毯の上にぽつんと建てられている彼らの拠点も本日からは姿を消すことになる。


「そういや、これ全部師匠の魔法で造ったんだったな……」

「君もあと少しすればできるようになるさ」

「だといいんだけどな」

 杖を振るうだけで終わり。

 まさに夢のような時間は、リーンの一動作で一つの区切りを創り出す。


「ほっほっほ! 良い時間でしたな!」

「結局、あんたは最後までいたな」

「タダ飯の魅力に気付かされ……いえ、あなた方の意志に惹かれ応援したいと思わされましたので!」

「どんちゃん騒いでた記憶の方が多い気がするけどな。それと、本心漏れてるから」

「ほっほっほっほっほ!!」

 先に去って行くのはブレメン。突如合流し、なんだかんだ長く付き合うこととなった不思議な人物。

 何処へ征くのか何も語ることもなく。

 フェードアウトしていく音楽と姿に何とも言えない思いが込み上げてきてしまう。


 三人の内の一人との別れ。

 見送るのはジーンとリーンの二人。

 残るのはジーンとリーンの二人。


「さて、これで本当にお別れだ」

 先に話を切り出したのは師であるリーン。

 ジーンの師を自ら名乗り最初から最後までジーンが世話になった人物。

「何か、聞きたいことはあるかな?」

「……昨日も聞いたけどさ、なんで今日なんだよ」

 随分と前に。

「昨日も言ったよね。僕の役割は一旦ここまでだって」

「まだまだできないことばっかだし師匠に勝ててないし教えて欲しいこともまだ残ってるんだよ」

「ハハハ、勿論知っているさ」

「だったら……!」

 泣きべそなんてかいていない。ただ、納得できていないだけ。

 都合の良い時にだけ発動するまだ子供であるという言い分。

「師がいないからこそ成長できることもあるのさ。基礎は教えたんだ。後は君の力だけでもできるとも」


 与えられた役目がここまで。

 リーンの役目はジーンの可能性を創り出すことであり、それを達成した時点でリーンが存在している意味はなくなった。

 自身の子を送り出す時に、様々な便利道具を与えたくなる親の気持ち。

 それが形となった存在がリーンの正体。

 与えられた性能を超える役割は果たせないのは、至極当然のことであった。


 ジーンが旅に出たことで発生したイレギュラーイベント。

 あらゆる条件が揃った結果のお助けキャラ。

 ジーンが生み出した、こうでありたいという強さを持った存在。

 もっとも、ジーン自身が意図してやったというわけでなく。それができる可能性がジーンの中にあったというだけ。


「また、世界が望めば会いに来るさ」

「俺の思いは無視かよ」

「ハハハ、それが僕が生きる理由だからね」

「言ってること一つも分かんねぇよ……」


 勝手に歩き出していく師の背中を見送ることしかできない。

 格好が悪くても、ここで後ろから追いかけ抱き着いてイヤだとせがめば何かが変わったのだろうか。


 風に吹かれ消える。そんなことはさせないとばかりに、姿を消す。


 始まりは晴天の日。

 不安と恐怖と義務的な正義感。

 足が動くのは空腹を感じたから。

 目的地など、一番近くの街。


 始まりなどこんなもの。

 気付けば始まっていたなんてことはよくある日常。

 何が大事なのかなんて、刹那的な感情の前には小さすぎる目印。


 夢、感情、欲望、不意、必然、偶然に振り回されるなんて、なにもジーンだけのことではない。

 ただ、彼が他の人よりも少し規模が大きかったというだけ。


「……飯作るのも面倒臭ぇ」

 歩き出した少年の胸元で揺れるのは、いつか街で買ったネックレス。

 彼の気怠げな足取りには似つかわしくない炎の意匠が凝らされたそれは、どんな時だって彼の代わりに想いを燃やしていた。


 白紙にされていたはずの物語が終わる。辻褄合わせが効くのはここまで。

 ここから、一人の少年が世界を救う物語が始まるのだ。


 いや、それは少し誤りがあるか。

 

 

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