序章 ~夢の切れ端~
逃げる。
暗闇の中、道も分からぬままに走り出す。
俺はやれる。俺は頑張れる。俺がやるんだ。
そんな言葉に騙されて。結局、こうして逃げ出してしまう。
怖いよ。俺は怖いんだ。一人で飛び出して、一人で何でもできるって思い込んで。
不安なんだ。俺に、本当に“誰かを救う”なんてことができるのか。
曖昧な目的のために、自分自身を捨て命尽きるその時まで頑張らなきゃいけないなんて。
離れてから気付いた。友達があんなにも大切で、自分にとって大きなものだったなんて。
いつも隣にいたから。姉が、あんなにも優しくて。姉を、優しくしなきゃって。ホントの気持ちが分からなかった。
逃げる。
光に背を向けて、走り出す。
俺はできない。俺は頑張れない。俺じゃなくてもいいだろ。
そんな言葉を盾に。最後にはこうして逃げ出してしまう。
このまま走れば逃げ切れるだろうか。このまま背を向けていれば、向き合わなくてもいいのだろうか。
分からない。
どうすればいいのかなんて、俺には分からない。 逃げたい。そう、今はただ逃げていたいんだよ。
ここはどこだ? さっきまではだだっ広い平原にいたはずなのに。
夢の中? こんなにも明るいのに? どうして?
『世界を』
そうだ。
『救えるのはお前だけ』
そんな声を聞いてからだ。
『逃げてもいいよ』
やめてくれ。
『投げ出してもいいさ』
本当に、やめてくれ。
『頼んだよ』
そんな。
『頼んだぞ』
そんな声で言われたら。
「……断れないだろ」
遠くで聞こえるあの音。
どうしてだろう。どうしてか、あの音を聞くと“頑張らなきゃ”って考えてしまう。
いやだ。
俺はもう頑張りたくないんだ。やめてくれよ。
俺はもう、頑張れないんだよ。
『――』
聞きたくない。
『――けて……!』
聞きたくない。
『――いだから……!』
聞きたくない。
『お願いだから助けてよっ!』