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王太子様の秘密・1

 翌日、私はエリーと共に馬車に乗り込み、学園へと登校した。

 門を入ってすぐのところで馬車から降ろされ、エリーから鞄を渡される。学園内では侍女がそばにつくことはないので、エリーとはここでお別れだ。


「ではリンネお嬢様。昼にお迎えにまいります」

「うん。ありがとう、エリー」

「はい!」


 昨日は驚いていたエリーだったが、今日は微笑まれた。はにかんだ笑顔がかわいらしい。


(意地悪するより断然楽しいなぁ。でも、いきなり態度が変わっても怪しまれるか)


 しかし口に出したものは戻らない。考えた末、私は「お、遅れるんじゃなくてよ」と言ってそっぽを向いたが、ただのツンデレにしかならなかった。意地悪って難しい。

 門では、同じように多くの学生が乗ってきた馬車から降り、校舎へと吸い込まれるように消えていく。

 学園の様子は、リンネの記憶にある通りだ。校舎は二棟あり、年齢によって分けられている。私の通う十歳以下用の校舎は、高学年用の校舎とは校庭を挟んで反対側にある。これは、低年齢の子供たちが騒いても、高学年の勉強の妨げにならないようにとの配慮だ。

 ふたつの校舎の間には、ほかにも、講堂や体育館があり、すべて渡り廊下でつながっている。

 場所を確認しながら歩いていると、しずしずと近寄ってくる令嬢がいた。


「ごきげんよう、リンネ様、昨日はどうなさったの? いつの間にかいなくなっているんですもの」


 じっと顔を見て、記憶を探る。ストレートの深緑の髪、薄い金色の瞳。ポーリーナ・アドキンズ伯爵令嬢だ。昨日の王家主催のお茶会にもいたはずだ。


「ポーリーナ様。昨日は途中で具合が悪くなってしまいまして。なにも言わずに帰宅してしまって申し訳ありません」

「あら、いいんですのよ。リンネ様はそんなにお体が強くありませんものね」


 この肌の白さから証明されるように、凛音の記憶が覚醒する前のリンネは完全なるインドア派だった。運動の授業は、仮病を使って日陰で休憩するのが常で、周りには体が弱いからと公言していた。なかなかに、図々しい性格である。


(私は走りたいんだけどな。突然行動を変えたらみんな驚くだろうし、困ったなぁ)


 校庭を見ながら、私はうずうずする気持ちを止められない。しかし、これまでのリンネと、あまりにも違う言動は控えたほうがいいと思ったので、しばらくの間は我慢することにした。


 その日の学園生活は無難に過ぎていった。

 授業が終わると、迎えに来た馬車に乗り、自分の屋敷に戻って昼食を取ってから、今度は王城へと向かう。


「これが通行証になります」


 お父様に託されたという通行証をエリーが見せてくれる。王家の紋章が彫られた木製の板だ。城門を通るときに必要らしい。


「お嬢様が王太子様の遊び相手として選ばれたなんて。伯爵家にとってはこの上ない喜びですね」


(理由が理由だから私は誇らしくないけどね)


「そうかな」


 私がそっけなく返すと、エリーはびくりと体を震わせた。

 エリーが私の顔色をうかがっているのを見ると、とても申し訳ない気持ちになる。


(ずっと一緒にいる人と気を使い合っているなんて疲れるよなぁ。早くエリーと仲よくなりたい)


 私はため息を着いて馬車の窓から外を眺めた。ちょうど城門をくぐるところで、敬礼する衛兵の姿がよく見えた。


 城の敷地内に入ると、衛兵に馬車を誘導され、私はエリーと共に、正面入り口前で降ろされた。


「お話はうかがっております。こちらでございます」


 城の従僕に案内され向かった先は応接室だ。エリーは邪魔にならないようにと一歩下がったところでおとなしくしている。


「やあ、よく来てくれたね、リンネ嬢。どうぞこちらへ」


 笑顔で迎えてくれたのはレオ本人ではなくクロードだった。

 クロード・オールブライトは十三歳。先王――すなわち、レオの祖父――の弟であるオールブライト公爵の孫であり、レオとははとこ同士になる。

 今の王家は子宝に恵まれず、レオとクロードは共にひとりっ子同士だ。そのため、ふたりは子供の頃から兄弟のように仲がよく、レオが引きこもりになってからは、親族の中で一番年が近いという理由で、彼の世話役を引き受けているらしい。

 もちろん、彼自身も学業や自身の家督を継ぐための勉強があるので、べったり一緒というわけではないそうだが。


「使用人は控えの間で待っているように。リンネ嬢はこちらに。レオが待っています」


 クロードがエスコートしようと腕を差し出した。大人と変わらない身長のクロードの腕に、八歳児としては小柄な私が手をかけようとすると、ちょっと遠い。

 クロードは、私がこっそり背伸びをしているのに気づくと、にっこり笑って、腕から私の手をはずし、自分の手とつなぎなおした。


「ありがとうございます」

「いいえ。かわいらしいお嬢さんをエスコートできて、光栄です」


 笑顔がまぶしい。レオよりもクロードの方が、ずっと王子様感はあるな、と思いながら、遅れないように足をちょこまかと動かす。

 貴族の中でも、公爵というのは王に次ぐ位だ。その下に(こう)(しゃく)、伯爵と続くので、クロードの身分はあきらかに私よりも上だ。

 それなのに、こんなへりくだった態度を取れるなんて、本物の紳士としか言いようがない。


(控えめなイケメンとか、できすぎではないかしら?)



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